『七人目の弟子("アーム"マイスター)』 バックNoその2 |
その2 がしかし、閉鎖された社会に住む人々の刺激を求める好奇心という厄介なモノに、カルロは閉口させられていたのも確かだった。時計や農耕機器の修理で、なんのかんのと理由を付けては 「なあ、あんたあの爺さんの息子さんかい?へっ、違う!?おやまあ、こりゃてっきりあんたがロディの親父さんだとばかり思っていたよ、ふ〜〜ん」 カルロはもう最近では、頬をヒクつかせながら(おいおい、止めてくれよ。こんな大きな子持ちに見えるッテのか〜) 村人がそう勘違いをする程に、ロディはカルロに崇拝にも似た気持ちを持ち始めているらしかった。それは、ロディがカルロの癖を(立ち上がった時に尻の辺りをパンパンと払う、考え事をする時に小鼻を掻くなど)真似し出した事からもわかる。 カルロは困惑した。そんなロディを弟の様に可愛いと思うものの、いつかは(それも 「なあ、爺さん。おれはもしかすると、余計な事をしたんじゃないか?」 「何がじゃね?」 「ロディの事さ…。俺はいつまでもアイツの側に居てやれる訳でもない癖に、変に期待を抱かせちまったンじゃないかって、心配なんだ」 「ふむ、確かにな。あの子はお前さんに、兄や父親という男の肉親に対する尊敬や愛情を感じている様だ。それは、あの子にとって必要なものだった。今ではそう思っておる。儂はお前さんに感謝しているよ。しかしな、本当の肉親だとていつまでも側にいられる訳ではない。わかるじゃろう?あの子なら大丈夫、別れの辛さや寂しさをきっと乗り越えていける。そう信じておる。…しばらくは悲しむだろうがな。それもそうだが、お前さんの待ち人は今日も来なかった様だの」 「ああ、……。一体どうしちまったのか?連絡の一つも入らないなんて…」 元々カルロがこの村へ来たのは、誰かと待ち合わせをしていた為らしい。 だがしかし、平和なこの村にも着実に魔の手は忍び寄っていた。予兆は確かにあった。いつもの様になされる村人のうわさ話にも、近頃ではちらほらとモンスターの話が加わり出したのだ。その姿をハッキリと見た者はまだいないが、それが反って村に静かなる恐慌を引き起こしつつあった。災厄が通り過ぎるのを息を潜めて待つ様に、人々は生活範囲を狭めていった。 『まさか、こんな村にまで…』 とその時カルロは苦々しい思いを噛み潰した。 だがやはりそんな中でも、子供達の姿が戸外から消える事はなかった。子供の世界は大人のそれとは違い、独自の世界を形成しているためである。大人の心配をどこ吹く風とばかりに遊び回るのだった。 「おおい、大変だ。誰か〜」 「畜生、何だってンだ!」 「あっちか!」 「おい、あんた立派な武器を持っているじゃないか。頼む、お願いだ。家の坊主を、坊主を助けてくれ」 しかし、これで小さなロディと老人のゼペットが、何ゆえ苛酷な旅暮らしに身を置いていたのか、がカルロにも良く判った。幼いロディには自分の能力を良く理解出来無いに違いない。自分の力がどんな影響を及ぼすかを考えずに、その力を使ってしまったりしたら・・・ 恐らくはその結末故の旅暮しなのだろう。 アーム使いは人々に半魔族の様な扱われ方をされる事が、多いのだ。その能力も長ずるに従い強くなる者もいれば、最初からずっと強力なままな者もいる。(後者の場合だと、人間性の成熟度とは比例していないのでとても厄介な場合がある) ロディはこれまで自分の能力を意識した事はなかったのだろう。あの"ロディを決してアームに近付けさせまい"とするゼペットの態度を見れば、用心してロディを守って来たのがわかる。そして、それは今のこのロディの呆然自失の様子からしても明白である。 「ロディ・・・」 「大丈夫、大丈夫だ。ロディ、良くやったな。偉いぞ。お前は、俺を、皆を助けたんだから。ありがとうな」 「ロディ!! 」 「じいさん、大丈夫なのか?そんなに…」 「お前は…、お前は、儂の言い付けが聞けないのか! あれ程アームに触れてはイカンと言ったはずではないか!! 」 「じいさん! ありゃあ、あんまりだぜ。もっと他に言い様があるだろうが!あの子はいつだって、あんなに一生懸命じゃないか。もう少し…、もう少しあの子を信用してやっても良いんじゃないのか?そりゃ、俺にはアーム使いを身内に持つ者の苦労は判らんさ。だがな、この事で傷付くのは他でもないロディなんじゃないのか?」 するとゼペットは一瞬胸を突かれた様な顔になったが、また固い表情に戻り苦々し気に首を振った。 カルロはカッと頭に血が昇り 「わかっておるよ・・・。ロディ、すまん」 ・・・ 「ロディ、気にする事はないさ。おじいちゃんはお前の事が心配なだけなんだ。わかるな?」 だが、ロディの瞳には大粒の涙の雫が溢れて零れ落ちた。そんな様子を見て、カルロはためらいがちに言った。 「なあ、ロディ…。お前、俺と来ないか?お前ならきっと、誰にも負けないアーム使いになれる。俺も、もっともっと腕を磨いて一流のアームマイスターになってみせる。俺達は、良いコンビになれると思わないか?俺はお前の事を気に入っているし、お前だって俺の事嫌いじゃないよな?なら、少し真剣に考えちゃくれないか?な、俺と一緒に行こう。つっても、じいさんの事もあるし、急にここで決めるわけにも行かねえよな。俺は近々ここを立たなきゃならない。それまでよっく考えておいてくれ…」 優しく強い憧れの存在であるカルロが自分を必要といているのを知り、ロディの心は揺れ動いた。 何度もカルロの言葉を胸で反芻してみる。新しい世界と可能性がロディの前に開かれたのだ。 この事があってから、ロディは確かに目に見えて変化していた。おどおどした態度は多少残るものの、ゼペットの他にも頼りにできる人に初めて会い必要とされる事で、己の外の世界に そして、実際ロディには今までとは世界も違って見えた。すべてが全く違った意味を持って感じられるのだ。 人が生き生きと働くのも、自分の為だけは無い。自分の様に大切な誰かが居て、その人に為に何かをしてあげたいと思い、反対にその誰かも何かをしてくれる。そうやって、人は生きている。というのに気付いたのだ。 空に向かって、自分は、そして人間はみんな独りぼっちじゃないんだ、と叫びたくなる。(そうは思っただけで、しなかったが…) ロディは急に声を掛けられびっくりするやら、自分の行為がこの男の皮肉な目にひどく馬鹿げて映ったに違いないと思って恥ずかしくなり、返事も出来ずに居た。しかし、男は構わずに続けた。 ロディは再びびっくりして、よくよく男の様子を見た。すると、ロディの目にまっ先に男の腰で鈍く光る"アーム"が飛び込んで来た。ロディは不吉なモノを感じた。男の発する雰囲気はカルロとは似ても似つかぬ、むしろ逆なのである。そんな男とカルロはどう言う知り合いなのだろう? 男はロディの返答を待っていたが、ロディが心の中で目まぐるしく葛藤しているのを知る由も無く、青い顔をして突っ立ったままのロディを見てイライラした様に 『もしかすると、あいつは殺し屋なのかも知れない!!』 「おいおい、ロディ何なんだよ?そんなに引っ張ったら俺の腕が抜けっちまうぞ。実はな…俺の身体は分解出来るンだぜ。アームが分解出来る様にな」 ロディはカルロのこの言葉を聞くと、慌てて手を放した。 「悪いヤツめ。相変らずガキをからかって喜んでいるとはな! 呆れた男だ」 ロディの"カルロを男に引き合わせない為に連れ出す作戦"は間に合わず、とうとう男がカルロを訪ねて来てしまったのだ。ロディの顔は不安に曇ったが、カルロは険しい顔になり 男は冷ややかな眼差しでカルロとロディを見比べて言った。 「ふ、ふふ」 「ふふふ」 「あーっはっはっは!」 「はっはっは!」 「てめえ、遅えじゃねえかよ! 」 「何だと!?、そりゃこっちのセリフだぜ!! 」 「あ?、どう言う事だ?」 腑に落ちない顔のカルロに向かって男は言った。 「????バーチ?えっ?えっ?」 「そう、お前さんのいるここはバージ・ヴィレッジだよな!俺がこんな辺鄙な所を待ち合わせ場所に選ぶと思うとは・・・一体何年俺の専属をしてるんだよ。ほとほと情けないヤツだぜ! 」 「悪かったな! 」 「どうだ? 頼みのモノは手に入ったのか?」 「バッチリだとも!! 早速慣らしをやるんだろう?」 すると男はやれやれと苦笑し、 二人はロディには理解出来ない会話を交わし、それがロディに微かな不安を感じさせ、カルロがロディから遠ざかる様に思われ、一抹の寂しさとない交ぜになった気分にさせるのだった。 そして二人が何事か話し合いながら戸外へと姿を消すと、途端にロディの瞳は見捨てられ庇護者を求める子犬の様に陰りを帯びた。カルロの言っていた別れの時が現実に忍び寄っているのを、ひしひしと感じ、ロディの心は乱れていた。勿論ゼペットから離れるつもりは無かったが、カルロを慕う気持ちも嘘では無かった。そして、カルロに付いて行けば、全く未知の世界を体験出来る事も自分を受け入れてくれる場所が存在しているかも知れない、と思いそれを ・・・ 今調整を終えて、男がアームの試し撃ちをしたのだったが・・・ 「泣き言か?言い訳なんざみっともないぜ」 「いや、何でもない」 「いいや、何でもなくはないさ。その口振りだと、俺の他にアーム使いがいて、先に試し撃ちをしたみたいだな。どこだ?そいつはどこにいる?誰なんだ?」 「俺は・・・・そんな事は一言も言っちゃいないぜ」 「いいや、お前は確かに今そう言おうとしていたのさ」 |
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