不定期連載小説、ワイルドアームズ外伝<ロディの章>
『七人目の弟子("アーム"マイスター)』

その3
男はそう言うと無気味な静寂を背に漂わせて立ち去ろうとした。それに向かいカルロは言った。
「おい、サウス(男の名)お前が他のアーム使いに執着したい気持ちも判らんでもないが、頼むからここでは余計な騒ぎを起こしてくれるなよ・・・」

サウスは立ち止まり、首だけ少し巡らせて目を細めてカルロを見据えた。
「誰に義理立てしてるつもりだ? あの小僧っ子か?」
「まあな・・・。それに俺はこの村が気に入ってるんだ。それもある」
「ふん、下らんな! が、まあいい。心掛けるとしよう。お前には借りがあるからな」
「宜しく頼んだぜ」
去り行く後ろ姿に一抹の不安を感じつつカルロは言った。

だが、それは予想通りカルロの杞憂には終わらなかった。サウスは片っ端から村人を取っ捕まえて、(あまつさえ凄みのある顔を利かせて)アーム使いの情報を聞き出そうと躍起になっていたのだった。=村人がそれを快く思わないのは当然の事である。

『おかしい?奴ら(村人達)は何も知らないのか?カルロがうっかりと口を滑らせたのだ。そこには何らかの事実が隠されているはずだ。俺を動揺させる為にわざとそんな作り事を言う程に頭のある奴ではないし・・・一体どう言う事なんだ?』
とサウスは呆然とした。が次の瞬間
「むっ! 誰だ。言ッとくが、黙って俺の後ろに立たない事だ」
と全身に緊張を漲らせて言った。

「すまんな、それは儂が悪かった。だがお前さんもどうかしておる。人間相手にそんなモノを向けるものではない。早く仕舞ってくれんかね」
とサウスの前に大きく回り込む様にしてゼペットが現れた。
「誰だ?こいつが何か知ってるとはただ者ではないな」
と警戒する時の癖でサウスは目を細めてゼペットをねめつけた。
「儂はゼペット。ただの老いぼれじゃよ」
とそんなサウスを見てゼペットは静かに堂々と言った。
そこで初めてサウスは外套の下でアームを構えていた手を下ろし
顔の緊張を弛めたのだった。
「で、じいさん、俺に何か用か?」
と相変らずじっとゼペットを見つめたままサウスは言った。
「いや、用があるのはお前さんの方ではないのかね?色々と騒ぎを起こしておる様だが。この村で何をしでかすつもりなのかな?」
「ふん、俺はただアーム使いの事を知っている者を探していただけだ」
「しかし、あれは人にモノを聞く態度ではない」
と首を振り振り何故か悲し気にゼペットは言った。
「俺は回りくどいのは嫌いなんだ。単刀直入に聞いたまでだ。何が悪い?それに俺は必要もないのに人に遜る様には出来ていないんでね」
と片頬をひどく歪め自嘲気味にサウスは言った。
「ダブルアームのサウス、お前さんの事じゃな」
と静かにゆっくり、だがキッパリとゼペットが言うと
「ほう、こんな田舎町でも俺の名が轟いている・・・ハズぁねえな。
爺、お前何者だ! 何故俺を知っている?」
と再び警戒したサウスは鋭い眼差しでゼペットを睨んだ。


だがそれには答えようとせずに、ゼペットは続けた。
「ダブルアーム、あれは当時としては全くの新しい試みじゃった。だが、今や幾つかの問題点や改良点を残しつつも、消え去ろうとしている技だが・・・しかし、どうやらお前さんは立派に使いこなしておるようだな」

「ゼペット?ゼペット・ラグナイトか!?確かそんな名前の名工と呼ばれる伝説のアーム・マイスターの話を聞いた事がある。そして、忽然とこの世界から姿を消した事もな。よもや生きていてお目にかかれるとは思いもしなかったぜ」
とサウスはゼペットから目を離さずに言った。

「まさか、儂は死んだ事になっておるのか?まあ、それもあながち間違いとも言い切れんじゃろう。なにせ一線を退いたこの身ゆえ、な」
とサウスを真直ぐに見返しながらゼペットは答えた。

「ふん、それなら話は早いぜ。俺のこいつ(アーム)はそんじょそこいらのダブルアームとは訳が違う。釈迦に説法だが、充填数、威力、命中率など、アームにはそれぞれ一長一短がある。それを解決したのがダブルアームだ。 異なる威力のアームを組み合わせる事によって互いの欠点を補う技術だ。しかしそれにもやはり欠点はある。第一の問題は耐久性。やはり異種のアームの無理な組み合わせにより、アームのエネルギー回収部分に負担が掛り過ぎて悪くすりゃ銃の暴発すら起こしちしまう事。それと相性によって思わぬ弱点が生まれる事がある、って事だ。こればっかりは組み合わせて使いこなしていかなければ気付きにくい。だがそのアームの性質の呑み込みの遅れは俺達アーム使いにとってはまさに命取りだ。だが、俺のアームはちょいとばかり違う。厳密に言うとダブルアームの定義からはちょいとばかし外れるかも知れん。こいつらは独立してその機能を発揮する。つまり別々にアームを発射したと同時にその威力が組み合わさる様な仕掛けなんだ。そしてその為には・・・こいつが必要なのさ」
とサウスは腰から吊るした袋から徐にソレを取り出して机の上に乗せた。

「これは!!」
とゼペットは飛び上がらんばかりに驚いた。
(まさか、まさかここでこんなモノにお目にかかろうとは・・・)

「じいさん、知ってる様だな。ふん、まあ伝説のアームマイスターなら知っていても当然か」
とサウスは薄笑いを浮かべた。

「そんな事よりこれをどこで手に入れたんじゃ」
ぜペットの目はその鉱石に釘付けだった。
だが一見宝石の様に美しいその石の表面に、鼓動が まるで生き物のように浮かび上がり、流動している様な忌わしくもあやかしの光を放っており、それはどこかしら魔的なものを連想させた。

「封印の遺跡と呼ばれる場所さ。トラップだらけでこれすら手に入れるのに悪戦苦闘しちまったぜ」
と笑うサウスの顔はいつしか凄みを帯びていた。

「で、お前さんは当然これが何か判っておるんじゃろうな・・・」
と普段は温厚なゼペットも険しい表情で尋ねた。

「ああ、勿論だとも」
と冷酷そうな笑いを浮かべサウスは答えた。

「では、一刻も早くこの村から出て行く事だ」
とゼペットは増々厳しい表情でそう告げた。

「そうだな、俺も最初はあいつと落ち合ったらすぐに出て行くつもりだったが気が変わった」
とゼペットの様子を気に止める風も無くサウスは言った。

「どう言う事だ!」
と気色ばんでゼペットが言うと、

「謎のアーム使いの事もあるが、ここでこいつをちょいと試してみたくなったのさ」
となおも薄笑いを浮かべながらサウスはその石を愛おしそうに撫でながら言った。

「何を!・・・気でも違ったのか。それは・・・魔物を誘き寄せるモノなんじゃぞ!」

「ああ、だが我々にはお馴染みの使い方もある。 アームマイスターなら御存知のな!それが俺のダブルアームの秘密なのさ」
とじろりとゼペットを見て言った。

『まさか・・・あの技術が使われようとは・・・ 』

ゼペットは思い巡らせていた。
まだ取り憑かれた様に躍起になってアームの改造に励んでいた頃の事だった。
弟子の1人が奇妙なモノを持って現れた。
「マイスター・ゼペット! こんなモノを見付けました」
と毛布に包まれて持ち込まれたソレは・・・確かにまだ、動いていた。
「なっ、なんじゃこれは!?」

つづく


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