本編その2
「ライアン、俺副団長のあんたに密かに憧れてたんすよ。若いのに実力者でナカナカの切れ者だって、もっぱらの噂を信じて。俺はあんたの様に凛々しい男になりたい!とすら思っていたんだ」
とギャレットはライアンを指し示しながら言った。

「そりゃどうも。でも、君にはどうかな?私のこの美しさとカリスマ性には(団長を除く)余人の付け入る隙などありはしないんだよ。そして、御夫人方も、この私の魅力の前にはイ〜チコロなのさッ!」
と前髪を指ですっと払い、次に頭を振り髪をなびかせて、にっこりと白い歯を見せ爽やかさ全開で笑った。

「だ〜〜っ、やめれ〜。俺の理想が、イメージが、今ガラガラと音を立てて崩れて行く〜〜っ。
この音がっ、この音が崩壊への序曲なのかっ」
ギャレットは頭を抱えそして、今度は両手から何かが
こぼれ落ちるのを呆然と見る様に遠い目をした。

「何を言ってるんだか。(それとも逝っちゃってる?)私に対する凡庸なイメージが払拭されたからと言って、嘆くには価しないんだよ。だから安心したまえ。まあ、私としては大いなる賛辞などは普段から聞き慣れていて、もう飽きてはいるがね。はっはっは」

「こんな、こんなイケスカナイやつだったとは・・・。おのれっ、一生の不覚ッ!」
とギャレットは唇を噛んだ。

「彼は何をエキサイティングしてるんだろうね」

「まあ、若い奴はすぐ頭に血が昇り易いから困ったもんだよ」
と後の2人が小声でひそひそと話すのを聞いて
ギャレットは我に返った。

「ひとごとみたいにスカしてんじゃねえ!あんたっ、あんただよ!アスピリージャ。無口で大人しいだぁ。確かにそうだろうよ。だけどその変な趣味を人に押し付けるの止めてくんねえか?ハーブティーだとか、お香までは許せても刺繍なんざ男のする事かよ。部下にイニシャルの刺繍入りハンカチ配るのは止せ!おまけになんだぁ、今度はお菓子作りだぁ?ううう、俺達フェンリルナイツだぜ!! 泣く子も黙る狼様だよな?何か間違ってるぞ・・・いや、そうともこれは何かの間違いだ。俺は何かに騙されているに違い無い!」

「今度はぶつぶつ言い出したよ。本当に大丈夫かな?彼」
と頭を人さし指でくるくるとやり出したカーツを見て
ギャレットはまたもや怒りの鉾先を変えた。

「ああ〜?、良いライバルって確かにあの時言ったよな?言ったハズだよな〜?カーツ。互いに技を切磋琢磨しあうのがライバルってもんだろ?なのに城下で気に入った娘がいると、いつも俺に色々と探りを入れさせて、なんで俺があんたのナンパを手伝わなきゃならんのですか?もしかして俺はパシリか、そうなのかっ?おまけにフラレる度に死ぬ程の特訓に付き合わせてくれちゃって・・・。あんた、もしかして脳みそまで筋肉でできてんの?」
と目を釣り上げ、口角泡飛ばすギャレットの耳に軽快な足音が響いた。

「なに、なに〜♪みんなで集まっちゃって楽しそうだねえ。俺ッちも混ぜとくれ〜」
とマルコがスキップしながらやって来た。

「おいっ、お前! これのどこが和気あいあいな雰囲気に見えるんだ。目ん玉腐ってるんじゃねえのか?この脳天気野郎。大体何が投げ技でぃ。いつも最後には寝技に持ち込んでくるんじゃねえよ。お前、ホントに『こっち』じゃねえんだろうな?」
とギャレットがゲイを示す口元に手を当てるポーズをすると

「むっ、なにお〜、黙って聞いていれば、人の顔を見るなり言いたい放題、失敬な事ばっかり抜かすんじゃねぇ。おめえに寝技の何が判るってんでぃ。どあほう! 貴様なんざこうしてくれるわ」
ギリギリギリ〜!!
ギャレットはマルコにあっと言う間に後ろを取られ、さっと腕を捕まれて捻り上げられた。
「ウギャ〜〜!?★×△」
あまりの痛さにギャレットは絶叫した。

「第一おめえは、初対面から気に入らねえんだよッ。俺ッちを女と間違えたろう!いきなり人の尻触ってきやがって。何考えてんだ。おめーはよッ!」
と、もっと強く捻り上げた。

「うう、うっ・・・。ごっ、ごめんなさい。ホントあん時の事だけは俺が悪かった。ちょっと見ではどっちか判らなかったんで、つい魔が射しちまって 。いっ、いててっ!てめっ、この、何すんだよっ。人が大人しく謝ってンじゃねえか。いい加減、許せや!」

「いいやっ! 勘弁ならねえっ。おめえ、それが謝る者の態度かっ、ちゅうんじゃ! おんどりゃ〜〜!」
と言いつつ、今度はコブラツイストをかました。

「まぁ、マルコ。もういい、よせ」
とライアンが止めた。

「ちぇ、根性叩き直してやろうとおもったのに」
渋々と言ったカンジでマルコはようやくギャレットを解放した。

「しかし、幻滅だねえ。ギャレット君がなかなか打ち解けてくれないと思っていたら、そんな風にしか我々を見ていなかった、なんてねえ」

「ホント、ホント。所詮はお猿さッ。おっと、ごめんよ。アメディオ。君の事じゃないよ。君は俺ッちの大切な相棒だもんな〜♪」

「それにしても、正直・・・がっかりだね」

「確かに期待外れのルーキーだったな・・・。まあ、団長もたまには間違うって事さ」

などと言いつつギャレットに背を向けて歩き出した皆は口々に非難する様な、なんとなくギャレットが後ろめたく思う様な口調だった。

なので、ギャレットはつい『カッ』として
『なんだとお〜。このっ! 』
と続けようとしたが、ふと閃くものがあった。
(いや、まてよ?仮にもフェンリルナイツと呼ばれた程の男達!!
俺は何か見損なってるのかも知れねえ!そうだ、もしかして・・・ )

ギャレットは恐る恐る聞いてみた。
「おい、ちょっと待ってくれ。一つだけ教えてくれないか?まさかその、皆が普段は変態ともみまごうばかりの体たらくなのは、実は敵を欺く為の偽りの姿だ。とでも言うんじゃねえだろうな?」

すると、行きかけていた一同は一斉に足を止め振り向き、そしてにっこり笑い
「いいや、いつもこのまんま!」
とハモって言った。

・・・ギャレットは果てしない脱力感に襲われた・・・

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