〜序文に代えて〜

人には忘れられないが思い出したくはない、過去のしがらみがいくつもある。
しかし、それらにこだわっていては前へと進めない。
だから人は、それを振り切る為に生きているのだろう。
私は思う。実はそれこそが『思い出』なのでは無いだろうか?
現在は過去には勝てないが、過去は決して未来に勝てはしないのだ。
そして未来に続く今、こそが
新たなる思い出のはじまりなのである・・・。

-----------「アラン・スミシー」

本編その1
「クソッ、なんてこったい!」
とギャレットは独り、ぶつくさ言いながら城下の見回りをしていた。

「はああ〜。どうしてこうなるの?・・・だよな」
恋にトチ狂う…もとい恋に夢中の男、ギャレットはいつもなら軽く交わせるはずの会話も行動もギクシャクで、何もかもが思惑とは正反対の結果が出る事に対して、状況が今一つ把握出来なくなっていた。
要するに『らしくない』のである。完璧に自分のペース、というものを崩していたのだ。ギャレットはこれ程までにメロメロになるのも初めてなら、そういう自分の状態に驚きつつも、それに反して喜びの様なものを感じるのもまた初めての経験なのであった。

「もしかして俺、本当にエルミナに惚れちまったってのか?」
口に出してみると急に心臓がドキドキし出した。
(あああ、いやだ〜。こんなの俺じゃねえ)
と本人は真剣に悩んではいるのだが・・・ 頭を抱え、身を捩り苦悩する彼の姿は、まさに【危ない人】そのものなのであった。

「やあね、何やってるのよ?」
とギャレットに声を掛けて来たのは、ギャレットが下宿している家の近くにある酒場で働いている、顔見知りの女の子だった。

「なっ、何でもねえよ! それよりそっちこそ何やってんだい。御出勤には、ちと早いんじゃないのかい?」
とギャレットはニヤニヤしながら言い返す。

「やあね、違うわよ。今度その角に新しいお店が出来たのよ。知ってる?外海の町の珍しい品物がいっぱいあるって話よ。それをね、見に行く所なの。そうだ、ねえ〜一緒に来ない?」
と最後は語尾も色っぽく誘って来た。

「そりゃいいね〜。ぜひとも、って言いたい所なんだが、今見回りの途中なんだ。実に残念! 無念! こんな別嬪さんの申し出を断るには忍びないが、職務とあらばいた仕方無い。ここはひとつ涙を呑んで堪えるとしますか、って訳なんだ。勘弁な!」
とギャレットは残念がってみせた。

「そう?、ホント残念ね・・・。また今度、店にも来てね。待ってるわ!」
とギャレットに近付き耳の側で囁く様に言った。そしてウインクすると手を軽く振って去って行った。ギャレットも満更ではない顔をして手を上げて応えた。

「青春、ってやつだな・・・」
「うん、まさに青春だねえ」
「期待のルーキー(新人)もナカナカ隅に置けないと見える」
と揃って冷やかす声が背後からした。
ギョッ、としてギャレットが振り返ると、そこには・・・笑顔の先輩達がいた。
「な、な、な、なんすか! それは。そして先輩達は何ゆえここに?」
とギャレットは一転、蛇に睨まれたカエルの様になった。

「我々は近頃話題の店にちょっと興味があって見に来たのさ」
と滑舌よく言った。
(全く、演技臭い位に歯切れがいいぜ。だけど素なんだよな、これが・・・奴は完璧に体育会系男の代表だな)
と心の中でギャレットは思った。

「そうそう、私もエキゾチックな香りを求めて来たんだよ。そしてこの私の愛すべき朋友も、スパイシーな香辛料を求めてこの私と共に来た、という訳だよ。わかるかね」
といささかのオーバーアクションで言った。
(二重人格とは奴の為にある言葉に違い無い! 俺は確信している)
と心の中でギャレットは思った。

「で、他の団員が忙しく働いている時に、君はこんな所で大っぴらにデート・・・、と」
(普段無口な癖に意外にグサッと来ることをシレッと言いやがる。ホントは陰で仕切ってるんじゃ無いのか?)
と心の中でギャレットは思った。

「エルミナ」
と唐突にライアンが言ったのでギャレットはビビった。
「は、まだ訓練中だな?なのに君は何故ここにいるんだ?」

「み、見回りです。城下の」
とアセッて気を付けしながらギャレットは言った。

「あれ?そうか?さっきのアレは何だったんだろう?女といちゃついてると思ったのは俺の気のせいかな?」
とカーツが言った。

「い、いや、アレはタダの知り合いで。ちょっと挨拶を交わしてただけです」
と冷や汗たらたらでギャレットは言った。

「いいんだよ。安心しなさい。エルミナには黙っておくよ」
アスピリージャにあまりにも訳知り顔で穏やかに言われたので、
ギャレットは気付いた。
「もしかして、皆で俺をおちょくってます?」
3人が顔を見合わせてニンマリしたので、ギャレットはカッと頭に血が昇った。

「いや、騎士というものは『いついかなる時も人に見られている 』のを意識していなければいけない、と言うのを肝に命じておかなくっちゃ、い〜けないんだ、イケメンだ〜」
とライアンがおちょくっているのを最早隠そうともせずに言うのを聞いて、ついにギャレットは爆発した。

「じゃあ、こっちも言わせてもらうが、 あんたら訓練の時と普段の時と、なんで態度がそんなに豹変するんすか!」
と、先輩達であるのも忘れギャレットは叫んだ。

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