鉄腕アトムの世界観

〜アトラスの恋人ロボット・リビアン〜

1.アトム対アトラスの意味
 さて本作アトムの特徴と言えば、やはりアトム対アトラスである。
では、この2人を通して、描きたかった主題は何か?であるが、勿論それは単なる善と悪との戦いではない。
いや、善と悪とは知能を有する者、知恵を持つ生物特有のものだとすると、この善悪は人間のものである。
このアトムでは、アトムの中に勇気を、アトラスの中に愚かさを、見る事が出来る。
この対比だが、対比されるのは同一の存在なのである。
アトラスは、アトムの設計図を元に作られているのだから、当然である。
とすると、これは人の心の暗喩なのである。
そう、人の心の中の葛藤を、表わしたものなのである。
ゆえに、アトム+アトラス=人間となるのだ。
我々は、どちらか片一方の存在ではない。
アトムの様に真っ直ぐに清らかではないが、アトラスの様に弱くも無い。
それが人間の本質なのである。
よって、この物語は我々がアトムに近くなるか?、アトラスに近づくか?に過ぎない両者を具有する存在である、という事を示したかったのだろう。

2.少年体と青年体である事の意味
 アトム=子供、アトラス=大人である事には、何か意味があったのか?
基本型は、アトムである。プラス、オメガ回路がアトラスである。
悪い事が出来るアトラスの方が、より人間に近く思えるが、人間的と言う事に限れば、アトムも十分人間的である。
元々、アトムのコンセプトが、より人間に近いロボットの創造なので、アトムも人間に近い心を持ち、それに基づいて人間らしい行為が出来る。
人の心を思い遣り、嘘を付く事もあるし〈嘘つきロボットの回で少女の友達ロボットのフリをした〉正義の人が傷付けられたら、許せないと怒りに震え、悪人を懲らしめる事もある〈盗まれた太陽の回〉
それを見て、ヒゲオヤジが感激した様に、お茶の水博士も魔神ガロンが登場した時に「我々が必要とするロボットはアトムなんじゃ」と断言している。
その通り、アトムは力では無く勇気、究極の人間性を持ったロボットなのだ。
理想の人格、と言っても良いかも知れない。
その勇気に基づいた正義の行動で、我々の目を覚まさせてくれる、素晴らしいロボットなのだ。
対するアトラスは、自らを改造して青年の身体に作り替え、そしてその後にアトラスは人間の迷い、妬み、冷酷さを持つに至ったのだが、やはりこれは体の変容と、関連性がある様に思える。
アトムは、永遠の子供である。それで完成された者なのだ。
しかし、アトラスは変容してしまった。
ここが、アトムとアトラスの決定的な、違いを産んだのだ。
決して、オメガ回路だけのせいではない。
むしろ、アトム対アトラスの図式は、まるで原罪前後の人間を、表わしている様にも見える。
無垢であり続けようとするアトムと、自ら堕ちて行くアトラスだ。

3.総論ロボットと人間との関係から見たアトム
 アトムの世界観とは、物語での人間の描かれ方の事なのだが、アトム達ロボットにに接する人間に問題が生じ、事件性に発展する事がしばしばあるが、これは自我を持たせられたロボットへの迫害に他ならず、大まかに2通りある。
一つは、ロボットに役割を奪われてしまった、人間達によるロボットへの復讐、による攻撃破壊行動。
これはロボットに限らず、機械による合理化の元に、職を追われた人間(近年では移民労働者による失職)の絶望と言えるので、近代化した文明の歪みによるものである。
単純にロボット反対派は、このロボットに立場=仕事=生き甲斐、を奪われ憎む者と、人間史上主義により、人間そのもののアイデンティティを、揺るがされ奪われる恐怖に駆られた『ロボットの存在を恐れる者達』なのである。
そして、もう一つはロボットを己の欲望の為に使う、人間と言う立場を利用したパワーハラスメントである。
この手の人間には、ロボットが自我を持ちえた、と言ってもやはり彼等を道具としか見ていないのである。
だが、道具として利用するには、ロボットは銃器刀剣類を扱うのと、同じ位危険性を孕んでいる存在なのだ。
基本、ロボットは人間に逆らえない様に、プログラミングされているので、人間の命令通りに動くしか無く、従ってそのものに善悪は無いもの、と仮定されている。
だが、これがオメガ回路を備えたアトラスの様に、ロボットの知能を発展させてしまったらどうなるだろうか?
全てが、アトムの様な心を持ち続けられる、とは思えない。
むしろ999の機械化人間の様に、生身の人間を蔑み、狩ったり戦わせたりするだろう。=そうして描かれたのがアトム最期の日なのである。
自分達がそうされていた様に、ロボット達は振る舞うだろう。
そして、それはまさに現実的には、ブレードランナーのレプリカントの反乱、ひいてはターミネーターの世界にまで、一直線に突き進むのだ。
アトムの世界とは、アトムとアトラスを対比させる事で、それを警告し、ロボットを異物として敵対する世界にするか、友好関係を築き共に発展する世界を選ぶか、提示している様に思えてならないのである。

次回予定 プルートウ
長いよ


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