ATOM 鉄腕アトム
〜ハリウッド製CG映画《ATOM》公開記念イラスト〜

アトム対 「アトラス止めろ、止めるんだっ!」
「うるさい、アトム! もはやお前は俺の敵だ」

アトムとアトラスの比較をするには、彼等の関係から語らねばなるまい。
第一話 アトム誕生 あらすじ
日本科学研究所の所長天馬博士は、人間と同じロボットを作ろうとするが、4度失敗している。
そんな博士の元を、スカンクという男が訪れた。
ロボットの電子頭脳に、オメガ回路を取り付けるべきだ!と売り込みに来たのである。
博士は、けんもほろろな対応で追い返す。
そのスカンクの帰り際の「お前の親父は大バカだ」の台詞に、傷付く天馬博士の息子の飛雄。それを父親に訴えかけ、そして提案する。
「子供のロボットを作れば?」その言葉に天啓を得たのか、天馬博士は子供のロボット制作に打ち込むのだった。
しかし、その熱中のあまりに息子との約束を、ドタキャンしてしまう。
その父親の態度に、子供らしい怒りを感じ、飛雄はひとりでロボットカーを運転し、家へ帰ろうとする。
が、子供が運転出来るはずも無く、事故を起こし重体となる。
そして、最期に最強のロボットを作り、それが完成したら自分の名前を付けて、可愛がって欲しいと言い残す。
博士は、狂った様にロボット開発に取り憑かれ、レーザーやマシンガンを取り付け、十万馬力を持つロボットを、着々と作り上げて行った。
しかし、その兵器の様な威力を、危惧した者達の密告により、首相から開発中のロボットの廃棄を命じられる。
その日のうちにロボットを完成させ、家に連れ帰る天馬博士。
だが、そのロボットの設計図は、スカンクによって盗撮され、ワルプル・ギス伯爵の元へ持ち込まれ、伯爵はそれにオメガ回路を取り付けて、ロボットを作る。
人間もロボットも、支配する王としてそのロボット『アトラス』はこうして誕生したのだった。
一方、『飛雄』と名付けられたロボットは、天馬博士の元で人間の様に暮らし、言葉や生活様式を覚えて行った。
そんなある日、飛雄の様子がおかしくなる。
天馬博士は、慌ててこのロボットの秘密を知る、科学研究所2人に連絡を取り、助けを求めるのだったが、博士が目を離した隙に、飛雄は家を出て行く。
町中での、ロボットの爆発を恐れた2人は、ロボット処理車で駆けつける。
飛雄は、アトラス誕生に反応して、一時的におかしくなっていたのだった。
我に返る飛雄。
そこへ処理車が到着し、飛雄を攻撃する。
そして、飛雄を処理しようとする女性科学者と、そうはさせまいとする天馬博士との、デタラメな操作のために、車のコンピューターがイカレて、爆発炎上した。
彼らは飛雄に助けられるが、その後車は暴走し、ヘリを撃ち落としてビルに墜落し、大惨事が起きる。
飛雄は、燃えるビルから人々を助け、暴走する処理車を破壊する。
この騒ぎで負傷し、入院した天馬博士は飛雄に「この騒ぎでお前の存在がバレてしまった。私も研究所にいられない。私とアメリカに行って自由に暮らそう」と言う。
素直に従う飛雄。

 
 以上が誕生のあらましである。
天馬博士は事故死した息子の身代わりにアトムを作ったのであるが、あくまで身代わりのロボットの域を出ていない。
その規範はあくまでアシモフのロボット三原則に則り、(1ロボットは人間に危害を加えてはならない。2人間の命令は守らなければならないが、ただし1に反しないのが前提である。3以上の1と2を踏まえた上で自己の身を守らねばならない)作られているのである。
しかし、恐らくこの三原則を、取っ払わせる役目を果たすのが、オメガ因子である。
それが、アトラスには組み込まれているのだ。
両者を比較すると、面白い事が判る。
アトムは、なるほど初期段階では、無知なためにやらかす事全部が、頓珍漢である。
これは、アトムの人工知能が学習型であるからだろう。
なので、人間と同じ学校に通ったり、社会性が出て来ると、まさに典型的な人間の理想とする正義感のある、優しい、そして強いロボットになって行ったのである。
一方のアトラスだが、これもアトムとオメガ回路以外は、同質のものなので、やはり学習型のロボットである。
なので、アトムとアトラスに、差異を産んだのは実はオメガ回路ではない。
決定的に違う初期段階の環境の差、なのである。
息子の代わりに、アトムを慈しみ育てる天馬博士と、アトラスはじめロボットを道具としか扱わず、悪人に売り渡すワルプル・ギス博士と、そのアトラスに悪事を仕込むスカンク。
2人は、全く正反対なモノを与えられたのである。
片や愛、そして片や憎しみ。
環境によって、性質が形成されるのも、学習型ゆえならば、学習し成長を遂げるロボットである、アトムとアトラスは確かに人間に近い。
(そして、それを間近で愛情を持って、見守っていた天馬博士だとしたら、例え身体は成長しなくても、ロボットの飛雄をサーカスに、売り払うなどとは、考えられないのである。恐らくそのように考え至った手塚先生が、新アトムではその逸話を、意図的に改変したのではないか?と推測している。)
 なるほどオメガ回路とはまず、悪人の言う事を躊躇い無くきくために、三原則2を逸脱させるものである。
悪に対する、リミッターが外れる、もしくは甘くなるのだろう。
そして、アトラスは初期の教育が、ものを言っている。
最初は、闇雲にスカンクの言う事を聞いているが、青年型になってからは、ちゃんと理解して片棒を担ごうとしている
だが、本来は自由の身になって、進んで悪をする必要はないはずだ。
これはつまり、ワルプル・ギス博士の言う通りに、行動しているのだ。
しかし、アトラスは大好きなリビアンを、分解され自分も破壊されそうになり(アトラスは自らを改造して青年型ロボットになり=イラスト参照、リビアンも直した)、ワルプル・ギス伯爵を憎んでいるのだ。
現に仕返しもしている。←ロボット三原則1の逸脱。
にも関わらず、伯爵の言を実行しようとしている。
これは、完全に矛盾している。
憎む相手の呪縛に、捕われたかの様に、人間とロボットを従える王となろうとしている。
この非効率な、行動様式はどう言う事なのだろう?
多分これがオメガ回路の真の効力なのだろう。
大いなる矛盾を抱えるロボット、それがアトラスである。
ワルプル・ギス伯爵は、本当にアトムよりも人間らしいロボット、を作っていたのだ。それが、より顕著に出るのは、アトラスがリビアンに対する感情の描写部分にある。
アトラスは、初期に自分が父親代わりであるスカンクから、憎しみを与えられるだけではいけないと自分で思い、リビアンに母親になってくれと頼んでいる。= リビアンはワルプル・ギスが作ったとは思えない程に良心的なロボット(従順な召し使いロボットなのでそう作られたのかも知れないが、)である。
なので、アトラスの思いは、恋人に対する愛と言うよりは、近親の母や女兄弟にたいしての情愛に近いが、それだけに思いはさらに強い。
アトムも、ウランに対して面倒見の良い、優しい兄であるが、アトラスの様に相手に見捨てられはしないか?と恐々としてはいないだろう。
アトラスが、狂った様にリビアンに執着する様な、その気持ちはアトムには持ち得ないものなのである。
 アトラスは、最初に接した人間に対する憎悪を、そのまま人類全体に当てはめている。
アトムと、同等の力を持っているはずだし、オメガ回路のお陰で、どんな制約も持たないまさに万能な人間、と言った感である。
そこで、ストッパーな役割が、リビアンなのである。
恐らく、彼女のためにアトラスは、ワルプル・ギスの期待した様な、悪魔のロボットにならずに済んでいるのかも知れない。
しかし、アトラスは戦っても、決してアトムには勝てないだろう。
観念的な所で言うと、月並みだが、愛は人を救い自らも助けるが、憎しみとは他人だけで無く自分をも蝕む行為に他なら無いからである。
しかし、アトラスとアトムの場合は、単純に悪が正義に負ける、などと言う観念的な理由からではない。
それは、アトラスが人間に近い分、ロボットとしては不完全だからである。
それは恐らく、アトラス自身も承知しているに違い無い。
もし自分に=オメガ回路に、本当に自信があれば、リビアンにも回路を付けるはずだからで、その事はアトムからも指摘されている。
愛を持って接するアトムは成る程、悪人が善意の人を攻撃しようとする場合、まず身を呈する。
その攻撃の盾となり、そこで壊れると分っていても躊躇わない。
対してアトラスは、リビアンが攻撃されそうになっただけで、直接悪人に攻撃するだろう。
リビアンに依存し恐れ、そして他者への憎しみを持つアトラスが、何の迷いも無く『人間に尽くす完全なるロボット』であるアトム、に勝てる訳がないのである。

次回 アトムの世界観


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