まず、この乱世編、二つあるようですね。
COMという雑誌に描いた乱世編が雑誌の廃刊に伴い未完になった、ということで、それとは構想を新たにして乱世編を描いた(現在普及している版)といういきさつのようです。
そっちの内容、ちゅうかCOM版のあらすじ、ページ数にして63ページ(連載二回分)、セリフと場面をできるだけくわしく掲載。
(うわっ、また長くなりそう…)
……長いです。なので
『山の竹やぶの中、ケンカに負けたらしい猿が、勝ったらしい猿とその手下に小山の上から見下され追放される。
猿は怪我を負い血を流しながら去って行き、水を呑もうとしてよろけて川に落ち、流されて行く。
それを拾い上げたのは、猟師の男(まきじ)だった。
まきじ「おや…、これは…赤坊主じゃないか!虫の息だ。サルスベリの木からでも落ちたのか?」
「や、こいつはひどいかみ傷じゃ。」
そして猿を抱き上げ「あんなに一族をひきつれて、暴れ回っていたおまえがよ。…どういうわけじゃ?」
「そうか…ボス争いだな?相手は、あの若いハンニャかい。ボスの座をのっとられた、ちゅうことか。おまえも歳だな…」
家の前で水桶をもった女「にいさん、おかえり…。あら、猿なんかとってきたの」
まきじ「獲物じゃねえ、こいつは顔なじみの赤坊主だ。けんかして死にかけてるんじゃ。血止めを塗って手当してやりな」
妹「フフ…、猪や鹿は殺すくせに。きずついた猿には仏心…。おかしいにいさんね」
まきじ「そういわれりゃ、そうだが…」
「おっか、ただいま」母はかまどに薪をくべている。「あいよおかえり」
「おとう、どうだ。今日は熱は出なんだか?」と寝ている父に話しかけるまきじ。
「ああ、きょうはええあんばいじゃ」と答える父。
父「勘定してみると、おらが寝込んでから今日で三年にもなるのう…」
まきじ「はええもんだ、そんなになるかね?」
まきじ「ま、そんうち元気になったら、またおとうが獲物をどしどしとるのを、たのしみにしとるでな」
まきじ「なんしろ、おとうの弓の腕は最高だからな」
母親が囲炉裏から鍋をおろす。妹は猿の手当をしている。
父「そんことじゃが…」
まきじは飯を食っている。
父「おらァ…。つくづく考えたんじゃ」
父「…もう、なおっても狩りは、しねえつもりじゃ」
まきじ「じょうだんじゃねえ、おとうが猟師やめたら、お日さまが西から出るでよ」
父「おらの病が長引いたのは、殺生のたたりにちげえねえ」
まきじ「ハハハハ、くらしのためにけだものとるのが、なんで殺生じゃ」
山の中の一軒屋の俯瞰。
父「おらが倒れて寝込んで、血をはいたころじゃ。山伏どのがうちへ水をのみに寄んなすってな。おらに撃たれた猪や、鹿の怨霊がとりついておると…。殺生をやめねば、畜生地獄へ落ちるといいなすった。おらあ、祈祷もしてもらわねえでしまったが、…なんとのう気にかかった。こんな長患いになるとは思わなんだわいな」
父病床から「まきじよ、おまえがいま猿を助けて、手当してやれというたのを見て、おらあよろこんどる」
まきじ「あ、ありゃなんでもねえよ。顔見知りの猿だもんで」
手当が終わった猿の姿。布でグルグル巻き。
父「ええ功徳じゃ」
まきじ、箸で特大のなにかをつまんで口に入れながら「へっ、おとうも弱気になったもんよ」
タンタン、ドンドン、タンタン、ドン、ドンドン、タンタンタン、ドンドコ。
祭りの風流。首から下げた太鼓や、手に持った太鼓をバチで叩きながら練り歩く。
はなや さきたる やすらい花や や とみくさの花や やすらい花や や とみををせば なまへ 夜須礼花や
と歌いながら太鼓を叩く。(花鎮めの祭りの様子)それを見ている人々。
「ケーッ、ゲーッ」と赤坊主が子供たちを追い散らす。
それを見てまきじ「赤坊主、子供衆がこわがっとるぞっ、おとなしくせんかい」とたしなめる。
「キキキイ」とマズったという感じで答える猿。
まきじ「ぼつぼつ帰ろうか」と猿に言う。
荷物を背負ったまきじ「帰るといえば、おまえもすっかりキズがなおったが、山へ帰ろうとせんのかい。ボスの座をハンニャからとり返す気はおこらねえのか」と聞く。
猿は頭をかいて「キッキッ」まるで滅相もございませんという感じで答える。
それを「へへへ…めぐいやつじゃ(かわいそうという意からあわれな奴め、くらいの意味)」と二人連れの郎党らしい男が言いながら、猿に石を投げる。
頭に当たり、歯をむき出してそれを拾う猿。
まきじは「おやめなされ、この猿は気が荒うございますで」と男たちに言う。
だが男たちは男A「サ、サ、猿面めが!こっちをむいてせせら笑うたわ!」
男B「ウーイ、畜生の分際で容赦ならん!日ごろの腕だめしにはよき的よ」
と言って刀を抜く。
まきじ「ウァーこまったな。だから里へ一しょにおりてくるなといったんじゃ」とあわてる。
まきじ「どうかごかんべん下せえまし」という。
男B「ならんっ」
祭りを楽しんでいたまきじの周りの人たちがドン引き。
二人の男がまきじに「六波羅のご家人衆だぜ。きのどくだが、おとなしく猿を出した方が身のためだぜ」
「へたすると斬られるぞ」と忠告してくれる。
が、郎党は「さっさと、その代物をここへひき出せい!!」と息巻く。
すると猿は「キ」と言って腕を振り回す。
ゴキっと石が郎党Bに当たる。
石つぶてが郎党Aに降り注ぐ。
「ギギャーッ!!」と言いながら猿が飛びかかる。
郎党A「こいつっ、わっ、こいつめ。ぶれいものっ」と刀を持つ手を猿に掴まれて叫ぶ。
周りの群衆「わーい、やれやれ!」「どっちもくたばれェ」「たたっ殺せ!!」と好き勝手を言う。
そこへ籠がとまり「あの者たちをとめなさい」と声がかかる。
「は」と言って僧兵が三人飛び出し、まきじと郎党たちへと向かう。
そしてガチーンと長刀で、郎党の刀を受け止める。
僧兵A「しずまれっ、おしずまりなされっ」
僧兵B「洛中、刃物三昧はご法度ぞ」と長刀を郎党Bに突きつけて言う。
僧兵A「花見酒は、ほどほどになされいっ」と言うと郎党Bは「なんだとッ、この青坊主…」と言う。
郎党A「…ウッ、あの蓮台は明雲どのだ」
郎党B「テ、テ、天台座主、法印明雲?」
とビックリする二人。
郎党B「クソ、いまいましい…」
郎党A「相手がわるい、ひきあげるか…」
と尻尾を巻いて逃げる二人。
鼻からジェット噴射して、腰が抜けるまきじと、すました顔の猿。
まきじ「オッ、オッ、オッ、お助け下さいまして、ありがとう存じます」と土下座して僧兵Aに言う。
僧兵A「われわれじゃない、このかただ」と指さす。
輿の中の御簾が上げられ、白い眉と長いあごひげの丸っこい老僧の姿。
明雲「ハハハハ、よくなれた畜生めじゃの。そちの飼い猿か?」と聞く。
まきじ「へぇ…いえ、かってにうちにすみついちまったもんで…」と首の後に手を当てて答える。
猿も同じポーズ。
明雲「いくらなれた猿だとて、洛中は女子供も多い。なるべく連れて歩かぬがよいぞ」と土下座するまきじと猿に向かって言う。
明運「行くぞ」と声をかけ輿が去って行く、それを座ったまま見送るまきじの後ろ姿。
一ページ松明を持った僧たちの姿で埋めつくされている。解説ページ。
解説『この天台座主法印明雲という僧は、十二世紀はじめごろの京都で、大きな力を持っていた男である。
そのころの京都は、平清盛によって六波羅政権という政府がおかれていたが、その政府でさえ
奈良の興福寺や東大寺、京都の延暦寺の荒法師たちのあばれ方には、手を焼いていた。
今で言う、ちょうど学生運動のようなものである。
その時代、僧になって学問をするのは、まあ大学へ入学するようなことだったからだ。
その荒法師たちやその他の寺の僧たちに、明雲はぜったいの人気があった。
人望のたかい大学教授のようなものである。
どんな僧でも明雲には文句なく従うのだった』
杉並木らしい山道を帰るまきじと猿。
「あの坊さまの話きいたろう。おまえはやっぱり人間じゃねえや。
山がにあってるんだ……山へ帰んな……
きずもすっかりなおったし……力もついたろう」と猿に話しかけるまきじ。
「キ……キ」と言いながら困った顔でまきじを見上げる猿。
猿の泣く顔のアップ。
まきじ「そんなアワレな顔すんなよ……サルの目にもナミダかよ……」
「そんな顔されちゃア、どうにも別れられねえやな」と猿の頭をなでるまきじ。
(ここまでが一話)
「ギャーッ」と飛び上がる赤猿。
「どうした?」とまきじが聞くと
「ギャッ、ギャッ、ウッ、ウッ、ウッ」と興奮して歯をむき出す。
木の上の猿たちのシルエット。
「グッ、グッ、グッ、グッ」と言って見を低くして隠れている赤猿。
見上げて「そうか……、ハンニャだな?あれはハンニャとその女房たちか?
おまえがのっとられたちゅう仲間かよ」とまきじ。
白い猿が歩いている。
それに気がついて寄って行く赤猿。
向こうも気がつくが、「キー」と言って逃げ出す。
木の上に逃げるのを顔で追うが、悲しくて泣き出す赤猿。
「なんじゃ、あのメス猿は……ええ?あれ、おまえの女房だったのか?」と赤猿を見下ろしていうまきじ。
赤猿は涙を流して横目で見ている。
「くやしけりゃ、ハンニャと一騎打ちしてこい。なんじゃいくじなし!」と発破を掛けるまきじ。
すごすごとまきじと歩く赤猿。
それを見下ろして「負け猿てのは、すっかりいじけてしまうものだな」というまきじ。
場面変わって大木の下で「にいさん、みやこのようすはどう?」と聞く妹。
まきじ「そうよなア、役人がいばりくさってよ、それが、みんなおまえ、平のナニガシちゅう名前でよ
そうそう、市場のオヤジがいうとったが……「平の姓、名のらねえ者は人間じゃァねえ」って
いうた人がいるとか……」
妹「そうじゃないのよ、サクラの花はどうだったかって………」
まきじ首の後に手をやり「あ!サクラなァ………そういえば、咲いとったなァ」
しょうがないと言う顔で妹「いやなにいさん!なにしにふもとへおりてったの??」
まきじやれやれというように目をつぶり「毛皮さえ売れりゃ、おらァ花なんぞ見とるヒマはねえや」と言う。
二人が並びその後を赤猿が行く、後ろ姿。
まきじ「それより……ちかぢか、またなにかさわぎがおこる、ちゅうモッパラのうわさだ」
妹「いやァね、またいくさ?」
まきじ「ウン、みやこの衆は、みんなビクついとるでよ……」
兄に手を差し出す妹。
妹「おみやげよ」
まきじ「ンーン、忘れた!」
妹「にいさんは、みやこへおりても、あたいに布一枚、くし一つ買うてきてくれんもの」
「キライッ」とツーンと上を向く。
妹はツーンの顔のまま歩く、その後をまきじがなだめるように必死に
「買うてやる……、そ、そのうち買うてやる。いまはゆとりがないんじゃ!」
「おれの働きがわるいで……、今によ、ゼニためておれがきっと、べべの一つも買うてやるから……」
妹振り向き「フフフ……むきになって、にいさんたら。わかってるわよ。いまのはじょうだんよ」
「そんなおあしがあったら、おとうの病気のおくすりでも買おうよ」と兄に言う。
(次のページからは描き直し版で、我王が猿の話をする場面が多用というかまんまです。)
屋根の上で寝ている猿。
「キキッ」と言って起き上がる。
屋根の上で身構える猿。
まきじが犬の子を抱いて家の前にいる。
まきじ「おぶう!!」
「おぶう……はい、おみやげだ」
という声を屋根の上で聞いている猿。
まきじ「くしか布のかわりだ、ほれ、山犬だぞ。山犬の仔だでよ」
というのを聞いてショックで固まっている猿。
妹「ヤ、ヤマイヌ……、オオカミじゃないの……?」
まきじが「アホ……、山犬でも、犬は犬じゃ」と言っている会話をきいて猿が動く。
木の塀のすき間からのぞく猿。
妹「まア……、わりとかわいいもの」
まきじ「親にはぐれて泣いとったのを、持ってきたんじゃ」
犬「クンクンクンクン」
家の戸口から中をのぞく猿と土間で鳴いている子犬。
「キャンキャンキャン、クンクン、クンクン、クンクン」
ガタリと言う音に気付く子犬。「ウ〜〜」と歯をむきだす。
のぞいている猿も「ギギーッ」と歯をむいて威嚇する。
「ワンワン、ウウ、キャン、ワンワンワン、ワン」と激しく鳴く犬。
戸口から中に入る猿。
犬「ウ〜〜ッ」と身構える。
以下は同じ描写。
猿と犬が仲良く伸びていると
妹「にいさんみて、ほら、もう赤坊主と山犬がなかよくなって、一しょにねてるわよ」と指をさす。
山の木々に雪が降る。
そして春。ピチュ、ピチュピチュと言う鳥の声と里の花畑。
大きくなった犬の背中を毛繕いする猿。
お返しに猿の背中を毛箒を口にくわえて、毛繕いしてやる犬。
花畑で、まきじと妹のおぶうが器を持って立っている。
まきじ「白丸!!、赤坊主!!」と呼ぶ。
犬の背に猿が乗って走ってくる。
おぶうが器を下に置こうとする。覗き込む二匹。
まきじ、腕組みして餌を食べる二匹を見ながら「どうだ、二ひきのこの仲のええこと……」
おぶうを見てまきじ「猿と犬は、むかしから仇どうしときまっとるが……」
二人花畑に寝転んで、まきじ「こいつらは別じゃ、ハハハハハハ」
おぶう「また、春がきちゃったわね」
まきじ「今年は夜須礼祭もおかみが禁止したそうな……」
おぶう「あらどうして?あんなにぎやかなお祭りなのに」
まきじ「さあな……みやこが物騒だからだろう。盗賊やチンピラがやたらと出るし、人が集まると
デモがおこりやすいからだろう」
おぶう「物価は高くなるし、坊さんたちはやたらとさわぐし……。世の中不満だらけなのよね」
おぶうの上におおいかぶさるまきじ。
おぶう「赤坊主がこっちみてるわよ、にいさん」
まきじ「だれが見てようとかまわん」
抱き合ってキスしながら、おぶう「だって私たち兄妹なのよ」
まきじ「ここはおらたちの場所だ。そんなこたどうでもええ……」
チョウチョが飛び交うカット(おそらく禁忌の行為の暗喩描写)にセリフのみ
まきじ「おぶうおまえったらかわいいな……」
まきじ「おまえをはなしたくねえ、嫁になんか行かせたくねえ……」
林か森の中、満月が空に浮かぶ。
猿の陰。!と犬が気付く。
土間にいる犬に猿が「キッキッキッキッ」と何やら話しかけ「ウウ」と答える犬のシルエット
外に出て行く二匹のシルエット
【ある夜、赤坊主は白丸をさそった。二匹は山へ向かった。赤坊主は、目的を遂げる時が熟した
ことを知っていた。そのために一年、必死になって犬を理解しようとし、犬と心安くなることを
心がけてきたのだった】
赤猿「キェーッ、ギッ、キッ、グエーッ、カッカッカッ、クァーッ、カッカッカッカッ」と叫ぶ。
「ギャウーッ」といいながら現れるハンニャ
「グワッ、ギーッ、ギーッ、ギェーッ」と赤猿
それに対して「クエーッ」と叫び、ザーッと木から飛び降りるハンニャ
相撲の力士のように見合っている赤猿とハンニャ。それを遠巻きに見ている猿のシルエット。
【赤坊主は、ハンニャを呼び出し、向かい合った。二ひきの間で殺気がみなぎり、
猿たちは息をひそめて、この決死の対決を見まもった】
歯をむき出す赤猿の顔。
歯をむき出すハンニャの顔。
【1秒先に相手ののどへ牙をかけた方が、勝利をかちとることになるのだ。
--そして以前には、ハンニャがその1秒を手に入れたのだった。
そして、こんどもハンニャが有利なことは目に見えていたのだ。
--だが、赤坊主には勝算があった。その1秒のチャンスをつくる作戦が……】
ジリジリと押される赤猿。
ジリジリと追いつめるハンニャ。
猿たちがそれを見まもっている。
と、その猿たちが反対方向をふり返る。
草むらから顔を出す白丸。
「ギャーッ、ギャーッ」とおどろく猿たち。
ハンニャもおどろく。
そこを「グワーッ」と赤猿がハンニャに襲いかかる。
のどに喰らい付かれるハンニャのシルエット「ゲッ」
そのままゴロゴロと転がる。
【それは、ほんの一瞬のショックだった。思いもよらぬ犬の姿に動揺した
ハンニャののどめがけて、赤坊主の牙がとびこんだ次の瞬間
ハンニャの口から血がふき出し、地面をどすぐろくそめた】
「ギエーッ」と相手を威嚇する赤猿。
「ゲッ、ゲッ、ゲッ」と血を吐くハンニャ。
「クエーッ」と畳み掛けるように言う赤猿。
【白丸はしずかに草むらの中に消えた。猿たちは恭順の意をあらわす
赤坊主の毛づくろうをはじめた。赤坊主にふたたびボスの座が、もどってきたのだ】
毛づくろいされながら「ギャーッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ」と雄たけびを上げる赤猿。
山の中から「ギャーッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ」「ギャー、ギャー、ギャギャ」
ススキの草むらの中から「キッキッ」「キッキッ」「キキキキイ」と猿たちの声。
まきじの家に向かってぞろぞろと歩く猿たち。
おぶう「赤坊主じゃない?そのたくさんのお猿はどうしたの?」
家に向かって「にいさんっ、赤坊主が……」と声をかける。
まきじ家の前におぶうと並んで「こいつはすげえ」
しゃがんで赤猿に「赤坊主!おめえ、ついにハンニャをまかしたな?
ボスにかえりざいたのかよ?」と言う。
猿「ウッウッウッ」と答える。
まきじ猿の頭をなでながら「よかったのォ、これでおめえもどうどうと山じゅうを
かけ廻れるぜ」
赤猿、他の猿に指で合図する。
山の幸・木の実・川魚など、がどっさり積まれている。「ゲッ」とおどろくまきじと妹。
まきじ「これをくれるちゅうのかい。こいつはどうも」
「おめえ、猿のくせに一宿一飯の恩義は忘れねえのか」
赤猿が手に何かを捧げる。まきじ「ン?なんだ?」
おぶう手に持って「まあ、扇よ!あたしにくれるの?」
兄に向かって「りっぱな扇だわ!ほら金銀の糸を使ってるわ」
それをみてあんぐりと口をあけているまきじ。
まきじ「こんなめっそうもねえもの、どこで拾った?」と猿に聞く。猿指さす。
まきじおぶうに「谷川に流れていたのを拾ったんだってさ」と説明する。
赤猿、片手に木の枝を持ち上げ、片手で目隠しして「ウッウッ、グッ、グッグッ、キッキッ」
そして「キーーッ」と枝を後ろ手に隠す仕草をする。
おぶうとまきじ中腰になって
まきじ「わかったよ、こいつを他人に見せるなってんだな。見せればよくねえ
ことがおこるってな……」
まきじ「気にすんな。おぶうが大事にしまっとくでよ」
おぶう扇を胸に抱き「押し入れの一番奥に大事にしまっとくわ」と言う。
猿が風呂敷包みをくわえて行き、犬が「ワン」と言う。
「ウッウッ、ゲッゲッ、グッグッ」と言いながら風呂敷を開けると骨がたくさん出て来る。
犬が猿の顔をなめる。まきじ「白丸と赤坊主の友情も、ずっとつづくといいな」
「ゲーッ」と指をさして仲間に命令する赤猿。
去って行く猿の群れ。
一番最後の赤猿に向かってまきじ「ときどきあそびにこいよ、赤坊主!」と声をかける。
去って行く。
大木のカット
家の中、左から母と寝ている父と老人、そして兄妹。
老人「この病は高麗の秘薬『にえふ』を湯にとかして飲むほかにない。
だが『にえふ』は高価な薬じゃで、まあおまえ方には手がとどかんのう」と言う。
おぶう「高いって……どのくらい高いのですか」と老人に聞く。
老人「黄金二両じゃ」
寝ている父「二両……、そんなもの。何代かかったとて、わしたちには夢みたいなもんじゃ」
側で泣く母。
おぶう箪笥の引き出しに手を入れる。
外に「まって、薬商人さん」と手を上げて呼び止める。
おぶう「これ…、二両になる?」と扇を差し出す。
薬売り「なんじゃこれは、こんなものどこで手に入れた?」
おぶう、扇を広げながら「谷川を流れていたんです。おねがい!これで『にえふ』を
くださいな」と言う。
扇を受け取り見て「ウム」とおどろく顔の薬売り。
地面に置いた薬箱にかがみ込み「よかろ…代金がわりじゃ」
薬売り「ホレ」と袋を渡して扇を受け取る。
手に袋を上げながら「おとう、お薬がもらえたわよ!!」と家に走るおぶう。
薬売りは扇を広げて「フム…」と上機嫌で帰って行く。
山のカット。
竹やぶで鳥の鳴き声が「チッチッチチチ」とする中をまきじが獲物を持って歩く。
木の葉の間がガサゴソとする。
矢を構えるまきじ。
ニターと笑った猿のカップルが現れる。
まきじもへへへ…と笑う。
そしてまきじは、獲物を持って去る。
竹やぶを抜けた川で、水を飲むまきじ。
煙を見て「はれ?おらっちの方角からけむりだ」
「おらっちがもえとるっ」と焦りまくる。
身一つで「おとう〜っ」と駆け付ける。
家が燃えている。
「どうしただ、こりゃあ、どうしただっ」
まきじ叫ぶ「お…お、おとうっ、あっ、おっかも!!」
「おっか…おっか!!」
がっくりとして「ズタズタに斬られとる。だれにこんな目にあわされただっ。
野伏りか?物とりか?」
母親の骸を抱きながら「おぶう」「おぶう、どこへいった……畜生!!」
灰になった家と母親を抱きかかえたまきじ、そして武将三人
「おめえたちだな、おとうとおっかを斬ったのはっ、な、な、なんのうらみだっ」
おわり
|