これは、旧チャンピオンコミックスには収録されておりませんが、【秋田文庫版ブラックジャック17巻】には収録されています。つまり読める、ということで未収録話とは厳密には言えないのですが、ではなぜ収録されなかったのか?を考察してみたいと思います。
ブラックジャック『金・金・金』
さて、ブラック・ジャックの未収録の中には政治的(権力側の都合的)にとって危ない話があります。例えば、昭和の頃は市役所職員は窓口の係は一生懸命に、来所した市民に対応していましたが、よくよく奥をのぞくと将棋指したり、新聞広げて読んでいたり、どこの田舎の事業所だよ!という有様でした。お役所仕事と揶揄されるのも当たり前だな、と思ったものでした。段々と市民(オブザーバー?もいたにはいたらしいですが‥)の監視の目も厳しくなり、税金で何やっとるか!とちゃんと注意する人が出てきた、というのが今の状況なんでしょう。時代が変わると、全時代の汚物、黒歴史の都合の悪いものは隠したりなかった事にしたい、という人たちは(昔も=戦争関連。今も)いっぱいいるわけです。つまりそういう理由で収録を見送ったり、発禁になったものもこのブラックジャックに限らず、あるんじゃないでしょうか。この未収録話も実はそういう理由です。(と私は思う)
あらすじ
 関東地区医師連盟理事長選挙、に立候補した天馬は当選するために贈賄(金銭のばらまき)をしていた。が、足りずに苦戦していた。その浅ましい様子を見て心を痛める一人娘のカスミ(容姿はウランちゃん)。娘の言葉も届かず参謀の勧めによりブラックジャックから五千万円を借りる。たちまち形勢は有利になるが、一人娘を放置し選挙に明け暮れているうちに、対立候補がブラックジャックとの繋がりを掴む。無免許医から金を借りたとなれば、当然落選するので必死で否定する。そこへ娘のカスミが飛び降り自殺を図り、運ばれてくる。山田野先生の執刀で無事に終了する。が、後の脳底骨折はブラックジャックでないと無理だと言われてしまう。手術を頼むように勧める山田野先生だったが、選挙に負けたくない天馬は頑なに断り続ける。そして、いよいよ選挙前日カスミの容体が悪化し、ついにブラックジャックに手術を頼む天馬。そのせいで選挙には負けてしまう。だが、晴れ晴れとした顔で「金では買えないものを取り戻せた」と天馬は言うのだった。
【解説】
選挙の裏金の話だね。贈収賄が平気でまかり通る昭和の時代。いやー本当にあった怖い話なのですよ。贈賄三年、収賄五年で時効らしいね。もらう方が悪!という解釈なんだね。どっちも同じ穴のムジナでしょうけど。
今よりもゆるゆるの時代だったので、候補者のロゴ入りの雑貨やら色々配ったりしていたみたいですよ、あまり詳しくは知らないけど。
で、この話は何がアウトかと言うと、関東地区医師連盟理事長選挙の部分で漫画とはいえ大クレームが来そうな悪寒。って部分に尽きると思います。何だろうね、『白い巨塔』という作品の果たした役割ってすごいんだなって改めて思うわ。アレで、どこそこ大学OBだの派閥だのが絡んだ、運動系(スポーツの爽やかなイメージで軽減されているが)の厳しい上下関係よりも、もっとどろどろした上下の人間関係。そしてあの有名な、教授の後に金魚の糞のようにくっついてぞろぞろ歩く回診、というものの存在を明らかにしてくれた功績は大きいと思う。アレを見ると手下を従えるってラノベに出てくる盗賊の頭かっ!権力誇示のやり方は、ヤの付く職業の人と変わらないんだね。オヤジ(組長)の周りをガードする若衆(構成員)という周りへの威嚇に似てるよね、示威行動の様式美なの?テンプレなのかっ!とツッコミ入れたくなりますが、これが頭脳明晰な知識階級であるのは間違い無いんだよね。
 この回診って後進の育成が目的らしいけど、患者からすると安心感はあるかも知れないけれど、大勢に体を見られる不快感はあるんで患者側からすると迷惑なんだよね。治してもらうから仕方ないという諦めと、偽りの安心感とで引き換えにして誤魔化してるけど、きっと誰にでもこの不快感(羞恥心・自尊心を傷つけられたことによる)はあるでしょう。病院嫌いな人の中にはこの不快感に耐えられないという人がいると思う(勝手に研修医たちに診療を見られた経験がある、一言も前もっても後にも何も言われなかった。唖然とした。勝手にモルモットにしないで頂きたい!というように非常に惨めな思いをしました、そういう経験が私にもあります。マジです)
「自分が生徒だった時は、何でこんなに宿題ばっかり山のように出すんだ、と思ってたけど自分がその出す立場になったら本当に気持ち良い!」と言い放ちやがった狂死を思い出しますよ。
ぺーぺーの時は従うのにムカついてても、そのムカつきを変な制度の改革や撤廃に向けるのではなく、自分がのし上がるための方向に持って行くのだとしたら、何とも言えない気持ちになりますよ。立場は違えど医師も教師も同じ事やってるってことは、やはり人間なんだなとしか言いようがないですね。
それから、物語の天馬も良い話風にまとめてるけど、やってる事は犯罪だからね。贈賄だから!捕まるよ?マジで。カスミが独りぼっちになるね、天国一歩手前に行くほどの酷い怪我したのに、親父のせいで不憫すぎる。

 この、金・金・金の話は娘の通う学校に寄付するために密輸を続ける医者の話「カプセルを吐く男(十八巻)」と医師会の偉い人がブラックジャックに息子の手術を懇願する「報復(八巻)」の二話を足してかなり薄めたような話だと思う。タイトルの金にふさわしい守銭奴の話でもなく、出世・名誉欲に取り憑かれた男の話だね。そう考えると、類似話の劣化版だし問題もあるこの話は、収録を見合わせても仕方ないのかも知れません。事実、理事を選ぶのに何千万円もの金が動いたという事実があったかないのか?痛い腹を探られたくない勢力の何らかの働きかけがあったかないのか?それは神のみぞ知る、ということですねw