ブラック・ジャックで本誌連載されたが、コミックスには完全未収録の話がある。『指』と『快楽の座』である。正確に言うと『指』は改変されて『刻印』という作品になり収録されているので、実際には完全未収録と言い切れない部分がある。だが、比べるとゼンゼン違う話になっているので別物としてもいいんじゃまいか?と思っている。しかし、比較しながらなので解説はやりやすかった。

ブラック・ジャック未収録話『指』

ブラック・ジャックの少年チャンピオンコミックス収録話『刻印』を改変後として比較して『指』の解説をしてみたいと思います。比較書籍=旧少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック、20巻』
判りやすく改変前の台詞を赤で表示。
1ページ目
改変後全く同じ。
2ページ目
改変後全く同じ。
3ページ目
改変後4コマ目ブラック・ジャック「…かわったなァ間久部!!そのめがねをはずせよ」まで同じ。その後のコマは異なる。その台詞を受けて、間久部が「めがねなんかどうでもいい それより……この手をおぼえてるかい?」と手を差し出しているイラスト←このコマはカット。次コマ改変の4ページ目1コマ目、手を握り合っているイラストが入る。そして改変3ページ目に戻り「おぼえてるぜ……小学校のときだった……」が「おぼえてる……中学のときだ……」の台詞違いになり次のコマ再び改変4ページ目の3コマ目「だがなぜか気があったんだ〜」が台詞違いで「わたしもきみもみじめだったなあ わたしは身体障害者 きみは不具者だったんだ」になっている。
4ページ目
〈ここから大きく異なる〉
手首から先の大きい左手六本指のイラスト、「きみの指は手も足も六本ずつあった!!」の説明のコマ。次、改変の6ページ4コマ目の「おれも成功したよ大成功さ!!〜」。台詞違い「多指症という畸形だってな あとでしらべたらそんなに珍しくもない畸形だとわかったがね 緑郎というおれの名も六という字からつけられたんだ」同次コマ、ブラックジャックが酒を飲んでいるイラストで台詞違い「その目はどうしたんだ?〜」が前のロックの台詞の補足で「そうだ たまに多指症の人間はいるようだ 一説には 古代 人間は六本の指をもっていたのではないかという説もある」次のコマ完全カット中世西洋風男女のイラスト「ものをかぞえるのはたいてい十進法だ…ところがイギリスでは十二進法を使っている 金だって十二ペンスが一シリングだし 重さも 長さも十二単位になっている これは イギリス人の両方の指が むかし十二本あったんじゃないかといわれるもとなんだ」
5ページ目
歩いて右奥から左へ歩いて来る5人のロック。手をポケットに入れた姿から手を見て泣く姿に変化。その下に囃し立て笑い者にするクラスメート達のイラスト、ロックの台詞「そうだ……おれはそのためにクラスでもバケモノあつかいだったしのけものにされて いつもひとりぼっちだった ぼくの手をみればみんなひやかすので いつもポケットへつっこんで!! 泣きそうになるのをがまんしたんだ」の大ゴマは改変後、当然カットされている。次のコマ改変の3ページ目の最後のコマ車イスに乗るブラックジャックとロックのイラストと改変4ページ2コマ目の手を取り合って見つめ合う二人のイラストと同ページ4コマ目の枯れ葉の中二人の後ろ姿のイラスト三つを一コマにし、「そのとき車イスにのったきみに出あったんだっけな 「同類あいあわれむ」とゆうが!! きみとおれとは同情しあいともだちになった……毎日いっしょにあそんでなぐさめあったっけなァ」の5ページは2コマの大ゴマである。
6ページ目
改変4ページ5コマ目の「親のいないガランとした家で毎日毎晩〜」のコマの台詞違い「しかもきみもおれも クラスじゃあズバぬけてトップだった………そうだ がんばったんだ からかわれれば からかわれるだけ ふたりとも はをくいしばって………」次コマ改変4ページの若い白衣ネクタイ姿のブラックジャックのカット+車イスの黒男少年のイラスト(車イス黒男少年のイラストは改変後はカットされている)。ロックの台詞で「バカにしたやつを見返してやりたくてね 必死で勉強したもんだったな そのうちにきみは手術をうけて歩けるようになったし それがきっかけで医者になろうときめたんだろう」次コマ改変5ページ1コマ目の翼が生えて飛んでるロック(改変では町の背景がありブラックジャックはこのコマより一回り小さな白衣姿になっている)と片手を上げている黒服のブラックジャック(カットされた)のイラスト。6ページは縦長で、この3コマ
7ページ目
カットされたコマが3つ続く。一コマ目。ロックがブラックジャックの肩に手を置いている「ブラックジャック ぼくの指を切っちまってくれ。きみの手で切ってほしいんだ」次コマブラックジャックと、ロックは指だけが描かれている「きみも医科大学へはいったんだろう ぼくの指を切ることぐらいできるだろう?」3コマ目、手術台に横たわるロックと、首から下、腰までの白衣のブラックジャックの後ろ姿「ぼくはアメリカで五本の指をもったまともな人間として再出発したいんだ!!」次、改変5ページ目の空港で手を取り合う二人のイラスト「手術は大成功だった。ぼくは五本の指になって出発した」次コマ改変6ページの3コマ続く。「そうだ…おぼえてるぜ はっきりとね」のコマ。台詞違い「大成功か! フフフ…ハハハ ハハハ」次コマ改変6ページ次コマの横顔「そしてたしかに」が台詞「たしかに大成功さ」。次コマソファの背もたれに頭を乗せるロックのイラスト台詞は「あっちの学校を退学させられて まアこの世界へ首をつっこんじまったんだ」
8ページ
改変6ページ目の6コマ目より3コマ連続「いやねえ 追われているあいだにいろいろ〜」のコマ。台詞「いまじゃ暗黒街じゃあ名を知らねえやつはモグリだといわれてるくらいの男になっちまったよ… フフフ…かわればかわるもんさ われながらね」次コマ「瞳の色を変えたのか?〜」は「指をおとさないほうがよかったなア間久部」「そうかもしれねえよ 六本の指でガムシャラにがんばっていれば いまごろは大学者だったのにな」次コマ「ほとんどつぶれちまって 見えないんだ」が「指がおれの運命をかえたのさ」次コマよりしばらく改変7ページからそのまま続く。「で…おれを呼んだわけはなんだ。(ここまでは一緒次の台詞違う)まさか思い出を話しあうためだけじゃないだろう」次コマ台詞違い。「…そうだよ 手術の大天才ブラック・ジャック先生に………おりいってたのみがあるんだ」次とその次はまんま「残されたおれの変身は〜」が台詞違い「おれは指名手配されている 逮捕されたときに証拠を消したいんだ」
9ページ目
改変7ページ続きから。そのまま一部ロックの台詞違い「もちろん顔もかえるし声もかえるさ かんたんにな(改変後は 体重も身長も になっている)」ソファに座るブラック・ジャックにロックが話し掛けている場面、台詞違い。「指紋が変えられなきゃ〜」が「おれのために手術をしてくれるか命をなくすか……こんなかけひきは したくないんだがねェ」と元々は脅し文句だった。最後のコマ台詞「おれの家へこい引き受けるよ」「いや!ここでやるんだ 全部道具はそろってるぜ」
10ページ目
〈ここからまた改変続く〉
最初のコマ横長コマで改変後8ページのロックの手と「ピエールおまえだ」と部下に命令するコマが1つになっている。改変前はロックの手ではなくブラックジャックの手である。台詞B「この男の指ときみの指を交換するのだ」部「し しかしボス……」ロ「先生のいうとおりにしろっ」次コマ手術台に寝るロックとブラックジャックの会話台詞違い。B「指紋は皮をとりかえたぐらいじゃかわらない しかし指ごとならできるよ」ロ「けっこうだね 早くたのむぜ」 次コマ改変の9ページ目6コマ目「十本あるんだぞ そうカンタンにいくか!」のコマ台詞無し。改変ページ前のコマ「かんじるか…」のコマそのまま。「タバコすわせろ」のコマに戻りそのまま変更無くつづく。
11ページ目
指切断の描写なし。指をピンセットでつまむコマから続く。4コマ目より改変10ページ目に続くが「もちろんそう信じるよ」の台詞「感謝するぜ…またあおう」ここからそのまま続く。部下の「これはお礼です」は「ボスからこれを…」になっている。鞄を受け取り去って行くブラックジャックが最後のコマ。(木の影から様子を伺う部下と小さくなるブラックジャックは改変後に付け加えたコマ)
12ページ目
改変11ページそのまま。
13ページ改編後の12ページの「お送りしやした」のコマから始まる。台詞違い「すみやした…」「よかろう」次「これで成功すればおれは赤の他人だ」のコマ台詞違い「証拠を消すためさ わるくおもうなよ。ブラックジャックも運のねえ男だったな」次コマ改変12ページ冒頭のブラックジャックが倒れるシーンへと続く。ただし次コマ改変後の台詞「くそ…時限爆弾か……」は無く無言。立ち上がりフラフラ立ち去るところが最後のコマ
14ページ
改編後13ページ丸々そのまま。ただし台詞違い。1コマ目「用がすんだら〜(まで同じ)。ワゴンの用意はできたか 引っ越そう」次コマ部下の台詞同じ。ロック「きさまはなおるまでここにねててもいいぞ」以下同じ。最後のロックの台詞「気の毒にな 手術したてじゃなければ とんで逃げられただろうに フフフ」
15ページ
改変後14ページ丸々そのまま。台詞違い。3コマ目「日本人で国際的な犯罪組織の首領 間久部緑郎が部下とともにたいほされて一か月になりますが いぜんとしていっさいの犯行を否認しています」
最後のコマ、ロックの台詞違い「そろそろ家へ帰してくれたらどうだね 警部さん」
16ページ
改変後15ページ丸々そのまま。台詞違い。2コマ目「わたしがやったという証拠はあるんですか?」4コマ目どの指紋もわたしのとちがいますよ。どうです だれにだってわかりますよ」以降一緒。
17ページ
改変後16ページ丸々そのまま。全コマ台詞違い。1コマ目「この写真はおまえだな!!」2コマ「にてるけどちがうな」3コマ「ごまかすな それはおまえの学生時代の顔だ! しかもおまえは…」4コマ「そのころ六本指だった! そして一本切りおとしてアメリカへ渡ったんだろう」5コマ「せっかくだけどアカの他人だろう」6コマ「学生時代の指紋もあるぞ」7コマ「これは犯人の指紋と一致するっ」8コマ「警部さん ゴタゴタと材料あつめたねェ だが なんにも証拠になりやしないぜ。おれが六本指だったって証拠がでてきたら……」
18ページ
〈ここからラストまでコマも台詞もゼンゼン違う〉
1コマ目。警部が机で頬杖付いて困る姿。ロック「はっきりみせてくれりゃべつだがね。帰るよ」2コマ目ドアから出て行こうとするロック。3コマ目警部の部下が(改変後の部下とは別人)「警部よ 日本から小包が!」4コマロックの驚く描写。台詞「なんかアルコール漬け標本のようだぞ」5コマロックの後ろから声を掛ける警部「間久部! これはおまえのか?」6コマ目『間久部 緑郎の 6本目の指 医師ブラックジャック』のラベルの貼った標本瓶のイラスト。7コマ目、サングラスが外れ驚く顔のロック「まさか……まさか……」
19ページ
街頭テレビに群がりニュースを聞く人々を背景にするブラック・ジャックのコマ。テレビより流れる音声「レントゲン写真によって間久部緑郎の手の骨と 六本目の指がぴったりあい 間久部は ついに学生のときの指紋が自分のものだったとみとめました。こうして間久部が犯罪のすべてを自白するのは時間の問題ときいています」次コマ、川をに向かって立つブラックジャックの後ろ姿。「友だちか………」次コマ手紙を破るブラック・ジャックの手元。次コマ手紙を手から飛ばすブラック・ジャック。ラスト川に浮かぶ手紙と町に向かうブラックジャックの後ろ姿。これは改変後19ページ1コマ目(---一か月で間久部緑郎は死刑が確定した、のコマ)に切り取って使われている。
以上です。
総括: カットされた理由。やはり6本指ではないかと…。とは言え、ブラック・ジャックの言葉通り、意外に6本指で生まれて来る子は多いらしいです。でも、ぜーんぜん問題ないし。昔、大学の教授=医者が言ってたけど、指の数が多い分には産まれてすぐ切り取れば痕も目立たないし何の問題もないそうです。問題なのは足りなかった場合、と言ってたよ。確か近代からの、出生率とその後の乳幼児の死亡率の推移、についてだったかで語っていた時に余談で聞いた気がする、のを良く覚えてたからちょっとびっくりだ。ってか、医者にとってはこれって常識なのかな?まア、問題はそんなレアでもないケースを不具者と言っちゃってる所=現代の医者ならとっとと切って処理してるはずだ! ありえない、というのと、イギリス人が元々6本指だったかも?という部分だと思うよ。人種差別に繋がるからじゃん?とゆーかさ、前にテレビで12進法の根拠として、地球に文明をもたらした宇宙人の指が12本って言ってたの思い出したw。謎の金属板に残された宇宙人の左右の手型が12本指だ!!って、その映像もそのテレビ番組で見た気がするし。と言う事はイギリス人=宇宙人、て事?みたいなトンデモ〜! www。流石にこの下りが無ければ収録されても良かったのかも知れん。思うに、個人的には12進法は12を神聖視するって事で、これは12人の神(オリンポス12神)への信仰とか12星座とかのその辺の宗教観から来てる気がするけどねー。わざわざ年も12ヶ月に分けて神々を称える位だからさ。それと、指紋を変えるのに自ら指示するブラック・ジャックも、初期のダーティーさが抜けて無い。改変前の『指』では間久部が6本指の時は、勤勉で心優しい好青年だったのが、普通の体?になったと同時に、まるで良心などの美徳の全てを指と共に葬り去ったかの様な生き様になったのを描いている。そしてブラック・ジャックの事も指同様に切り捨ててしまったんだろうこの仕打ち。ブラック・ジャックにしてみれば救われない話かも知れないが、そう思うと味わい深い物語ではある。でも、やっぱり現代ではデリケートな指の本数の話はマズイかもね。