ある男が私に語った、それぞまさしく戦士の物語。

「何?おまえさん、アイツを知らないのかね?見ただろう、あのおぞましい姿を。あれこそ地獄からの使者なんだろうな。おっと、アイツがそう呼ばれるようになったのは、何もあんな奇妙な姿をしているからじゃ無いぜ。あんた見たことあるかい、アイツの後生大事に守っているあのゆりかごの中身を。アイツはアイツの創造主からあのゆりかごを託されたのさ。あの赤ん坊は救世主になるはずだった。だから敵に殺されないように、誰にも触らせないように守れと言われたのさ。創造主の遺言だったさ。赤ん坊を奪いに来た敵にやられて、虫の息の下でアイツにそう頼んだんだ。そう、それからずっとアイツはあのゆりかごを守っている。ずっとな。あの赤ん坊には誰も近寄らせずに、奪いに来る敵をどれほど蹴散らした事か。それは鬼神の働き、無敵の強さ。戦う為に作られたんだから、当然と言えば当然だな。だがな、アイツは戦うしか能がねえ。赤ん坊が腹が空いたと泣きわめいても、病気になって弱っても、どうすることもできないさ。だってそういう風には作られていなかったからな。赤ん坊を心配して女達が近寄ったが、アイツに……。それからは誰もゆりかごの中身の事なんか心配しなくなった。それにアイツはゆりかごの中に、ソレが居さえすれば満足なんだ。中身が腐ろうとひからびようと、どんな姿になろうと、そこにいればどうでも良いらしい。だから、あんたもあのゆりかごの中身は見ても良いが、近寄っちゃいけないぜ。そんなことをしようもんなら、たちまちのうちに首と胴体が泣き別れだあな」

そう言って男は上機嫌でビールのジョッキを傾けた。

私の脳裏に瞬時に浮かんだ物語。地獄の戦士の物語……



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