火の鳥『復活編』の考察。

ざっくりとしたあらすじ

 この物語は、主人公のレオナが事故死し、先端医療によって生き返る所から始まる。
生き返ったは良いが、身体の大部分が脳も含めて人工物と交換した為に、有機生物を正しく認識出来ず、バケモノの様に見えてしまうのだった。
 そんな彼の前に正真正銘の人間の女が現れた。しかし、それは実は作業用ロボットで人間では無かった。
レオナは有機物が塵芥の様に見える代わりに、無機物こそが同類の様に見えていたのだった。
最初は相手にしなかったチヒロも、レオナの猛アタックにほだされたのか恋仲になる。
企業の作業用ロボットであるチヒロは、企業秘密作業を請け負っているので、レオナが彼女を欲して譲り受けようとしても、産業スパイか気狂いとしか、受け取られないのである。
諦め切れず、やるせない思いのレオナだったが、彼はもう1つの気掛かり=自分の死因、に付いて調べはじめる。
すると、車での事故は仕組まれたものだった事を知り、詳しく調べはじめる。
自分はなぜ殺されなければならなかったのか?自分を狙い撃ちした男、トワダと言うネイティブアメリカンの男を追い求めアメリカへと行く。
そこで、驚愕の事実が発覚する。自分はそのトワダと組んで、火の鳥を探し不老不死の血を持つと言う火の鳥の血を手に入れていたのだ。それは世界的なニュースとなり、レオナがその血を隠したとされるが、本当は血を飲んで永遠の命を手にしているのでは無いか?というのを確認する為に、彼の親族が命じてトワダにレオナを殺させたのだった。
真相を当の火の鳥から教えられ、その血を盗みに来た親族達と対面したレオナは、火の鳥の血を焼き払うが、失意の底に。
人間そのものに嫌気が差したレオナは、チヒロとの愛だけが真実だと思い、彼女と共に生きるべく彼女と駆け落ち亡命する。
が、エアカーはエネルギー切れで雪中エンストし、人間体であるレオナは凍死しそうになる。
チヒロは彼を救おうと、バッテリーをオーバーヒートさせて、壊れてしまう。レオナは救助されるが、それは宇宙開拓の為に、人身売買&人間の臓器のみならず、パーツを売買する女ボスの率いる密輸団だった。
レオナは、密輸団の女ボスに気に入られ、密輸団の医者によって体を奪われ、女ボスと一体化させられる。
体は奪われても、心はチヒロと1つになりたい、と願ったレオナの最期の頼みによって、二人の心=記憶を1つの電子頭脳に移し、ロビタというロボットが完成した。
一方、レオナの身体を奪った女ボスも、拒否反応に苦しみ抜いて暴れ出し、密輸団のアジトもろとも全滅する。
レオナ+チヒロのロビタは、自分の元々のそれぞれの自我の記憶=レオナだった頃とチヒロだった頃、を失って行くのだった。
…それから火の鳥の連載スタイルよろしく、ロビタの数奇な運命も描かれているのですが(=ロビタは二人のその後の出来事だが、チヒロとレオナの物語の途中途中に、ロビタの物語が入る。これは火の鳥の連載スタイルが、遠い未来、遠い過去、近い未来、近い過去と現代に近づいているスタイル通りに物語が平行して挿入されていると言う事です。)割愛します。


チヒロとレオナ

感想 復活編だが、どうもチヒロの存在が明らかに胡散臭い。
ここで、2772の育児ロボット、オルガの復活の行を考えると、チヒロがロボットなのに恋心を持ってしまったのは、実は火の鳥の仕掛けなのではないか?とも思える。
ただのロボットのチヒロのプログラミングが、ここまで酷いバグを起こすと、は考えられないし、そもそもバグ=この場合『心』、は生物特有のものだからである。
無機質で作られたチヒロに、心から派生する感情が芽生える事は、有り得ないだろうからだ。
もし、この世界でこれが可能だったのなら、3035年代のロボット・ダッチワイフの感情を、ボタンで変える必要もないだろう。
この事からも、このロボット・ダッチワイフには自主的な感情と言うものは無い、と断定出来る。恋愛専門のダッチワイフにすら出来ない事を、ただの工業用ロボットであるチヒロに出来た、というのも不思議な話ではなかろうか?
(もうこれは火の鳥の仕業、火の鳥が与えたのだとしか思えない。
勿論レオナが自分を傷つけた事への復讐の一環として

 永遠の命を欲したレオナだったが、本当の永遠の命を手に入れて=手に入れる方法は考えていたのと違うし、後遺症の様なものも出た、がその結果に対してどう思うか?を嫌と言う程に思い知らされている。

これはどう見ても火の鳥の呪いです。復讐です。(だよね?)
結果、レオナは人間に嫌気が差してるし、最終的に人間捨ててるし。すごい罰を与えられたもんだ、としか言い様が無い。
火の鳥ってのは、気に入った人間には、贔屓の引き倒しをするけど、逆に嫌だと思った人間には、徹底的に容赦無い。
つまりは、火の鳥の生き血を盗んだ、レオナの罪に対しての罰が、五感の変化とチヒロと結ばれる事による、人間からの=良く言えば解脱であり、悪く言えば放逐である。
この変容に、どんな意味が隠されていたのか、も明白である。
最初にレオナが望んだ永遠を手にする事、が出来たのである。本人が、全く意図していなかった方法だったし、美しくも残酷な罪と罰を与えられもしたが。
人間が、永遠を望んだ結末の物語を、手塚先生は描いたのである。
この様に、ただの人間と機械のラブロマンス、に終わらなかった所が火の鳥・復活編の魅力である。
それから、恐らくだが、事故前のレオナは、手塚漫画の悪役のロックの様な性格の男、として描かれるだろう、と推察される。
それまでの行動を見ると、そんな感じがプンプンと臭って来るが、事故後は性格が変わってしまったのでは無いだろうか?
そう思うと、レオナの本来の役割は、火の鳥で各編に出て来る牧村的な感じもして来る。
まあ、何か不幸があって人間性が変わる、ってのは良くある事なんだが、チヒロとレオナが1つになって、出口みたいな所に向かう描写も考えると火の鳥の中で1つになる異種婚の結果に、似てるんだけど決してそうじゃ無い所がね、やはり罰なんだろうと思う。ロビタ=永遠にコピーとしてのロボットが作られて行くのも永遠がキーワードになっている、の行く末が、罪の深さゆえに何度も悲惨な転生を繰り返している猿田と出会い共にした、と言う所からもこれは、火の鳥様の結局は似た者同士で一緒に償え、という意志がビシバシと感じられるのである。
それと、この復活編だが、両方とも(レオナ編とロビタ編)描かれているのは未来だが、この形式は異質である。
他の1編を抜かしては、過去なら過去、未来なら未来、の事象に特化して描かれているからである。
そうではなく、1つの物語で火の鳥のテーマ過去・未来を行き来して(回想ではなく)描かれているのは、復活編と太陽編だけである。



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