◆ジャン・コクトー版「美女と野獣」との比較◆

 ここではディズニー版よりも前に実写映画化した、ジャン・コクトー監督の
美女と野獣との比較をしてみたいと思います。
 
この物語では、野獣が優しさと愛を知り、内面が人間らしくなることで、外面の
醜い野獣の姿から元の人間の姿に戻る、というのが主題なので、野獣の変化に目が
行きがちですが、コクトー版では、ベルの方がむしろ成長というか、変化しています。
ベルは野獣にも優しい心がある、のに気付いて行きますが、ベルは野獣を決して人間
だとは思っていません。
人間の王子の姿になってやっと「えっ、人間だったの?!」という感じなので、
徹頭徹尾それは一貫した態度になって表れています。
野獣が苦しんでいる時に、やさしくなでてあげ、野獣が「どうしておまえはわたしを
動物みたいにさわるんだ?」と聞かれ「だって、動物でしょ?」と答えて、
ショックを受けてがく然としている野獣の顔とか、
二人で城の庭を散歩している時に「おまえは好きな男がいるのか?」と聞かれ
「ええ、兄の親友が気になっています」と正直に答えて、これもショックのあまり
その場にいたたまれずに逃げ出す野獣、を見て「あら、急にどうしたのかしら?」
とデリカシーのかけらもない対応をしています。
まあ、それもそのはず、野獣はやはり野獣だったのです。
夜中に獲物を襲って帰って来て、血だらけの姿をベルに見られてののしられたり、
ベルと一緒の時でも、動物の気配や音がすると、耳がぴくぴく動いて、気が散ってたり。
野獣の城は野生の王国。
こんなんじゃ、野獣を人間とは、ましてや男として認識しろなんて、ムリッ!
しかもこの物語は、魔法の呪いはあっても、バラの呪いなんてないので、
おそらく、人間〜徐々に〜野獣へ、なんてまどろっこしいことではなく、ダイレクトに
『人間→野獣』なのでやっぱり野獣なのでしょう。
おまけに、ベルがいなくなると死んじゃう、とはどこのウサギですか?
の設定。
それが、最後には野獣に「なに死んでんだゴルア!」のような勢いで告白してるんだから
これはすごいことだと思います。
考えたら、困難を乗り越えて、一番たくましく一番男前に成長しているのは、
ベルだったのです。
これがディズニー版との大きな違いだ、と思われます。
ディズニーのベルは、途中からは、人間の男に対しているように見えるのです。
野獣に人間らしい優しさや、繊細さや知識そして、共有する孤独を通じて
野獣とベルは、心を通わせて行きます。
コクトー版もそうだと言えば言えるのですが、
この物語には、西洋のおとぎ話でおなじみの、できそこないの兄弟が登場します。
二人の姉たちは、家事を全部ベルに押し付けるような、怠け者で意地悪。
兄もギャンブルで借金するようなダメ男。
優しいけど、家族に毅然とできない父親。
もう、こんな家族だったら、一生こき使われて終わりでしょう。
むしろ野獣の元で暮らした方がマシ、なのではないでしょうか?
野獣はベルにベタ惚れなんで、ベルが野獣にプレゼントされたものにも、魔法が
掛けられていたようで、姉たちが目の色を変えてベルの身ぐるみ剥ごうとして
宝石をせしめたら、それが木の根が腐ったようなゴミに代わり、ベルが持つと
宝石に変わるという、持ち主限定の魔法。
これだけ思われていたら、家族の仕打ちを改めて考えさせられる、んじゃないでしょうか。
よっぽどのバカでなけりゃ、野獣との暮らしの方が良いと思いますよね。
でも、この物語は最後にものすごいこと、やってくれます。
それは、兄とその親友でベルも気になっているアブナン、が城に財宝を盗みに入りますが
石像の女神像がそれを罰して、矢を射かけます。
矢が当たると、アブナンは野獣の姿に変わって死にます。
死にかけていた野獣は、アブナンの姿になって生き返ります。
結局、あんたダレ?状態、というかベルに気に入られる姿を、手に入れるための
犠牲になったのか?って、最後にこんな混沌見せつけられて、どうしろと?
と考えるとこれは非常におそろしい物語になっていました。
物語には、教訓が付き物ですが、
おそらく、《生理的に、ムリムリムリ、絶対ダメ!》と思わないなら
多少はブーな男でも、稼ぎが良くて優しくて、一途に思ってくれる男が
一番良い夫になる、ということです。
ブーは見慣れるし、見慣れると結構可愛いかもしれんし。
とはいえ、人が幸せの基準をどこに置くか?は人それぞれなので一概に言えませんが、
安心できる裕福な暮らし、を求めるなら、そうした方が良いということでしょう。
現実的に、そういう人は星の数ほどいますし、マジでそういうカップルは良く見かけます。
でも、キレイな顔や身体、そういう容姿を見ながら暮らせるのなら、貧乏でも
かまわない、って人も中にはいますから、そういう人はイケメンを選ぶべきですね。
うまくすると、イケメンでやり手、もいるかも知れませんし。
(ってこんな〆でいいんかw)



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