ルイスキャロル著「スナーク狩り」の翻訳をしてみました。誤訳も多々ありますが、そこは勘弁ね。
これは全8章からなる物語である。ルイス・キャロルの書いたナンセンスな物語なので、深い意味はないらしい。駄洒落とバカバカしさに満ち満ちた物語なのではあるが、カタストロフへ向かって間が抜けたのんびりムードから、徐々に様相が変わって行くのが、どこかしら物悲しさが漂うのである。そういう意味で、この話はとても人を惹き付けるのだと思う。では、ご覧下さい。わたくしのつたない訳ではありますが、スナーク狩りをお送り致します。
上陸

第一話『上陸』

「まさしくスナークの生息地!」と『ベルマン』は叫んだ。
彼が『世話焼き』と共に乗組員を上陸させ、流されないように守ってやろうと、みんなの頭に指を突っ込み、髪の毛を引っ掴んで支えてやった。
「まさしくスナークの生息地!大事な事なので二度言いました、だ。お前たちをはげましてやろう。まさしくスナークの生息地!もう三回も言ったぞ。これぞ三度目に正直だ。それはまさに三度言ったら本当の事になる、と言う意味だ」
乗組員は『靴磨き屋』を含め、超完璧な面々!
『ボンネットとフードの製造販売者』
『弁護士』(↑彼の訴訟を取り扱う)
『仲買人』(↑↑彼の商品の価値を決める)
『ビリヤードの記録係』(ビリヤードの腕前もあっぱれ!)
おそらく(勝負をしたらば)今回の仕事の給料よりも大金をみんなから巻き上げていた事だろう。
『銀行家』(高給で雇われている)がみんなの現金を、きっちりと管理していなかったんなら、そうなっていただろうね。
『ビーバー』(船のデッキでうろつき回っているか、座って弓でレース編みをしているか、である)は、しばしば(とベルマンは言う)みんなを難破の惨劇から救ったのだった。しかもどの水夫も知らない方法で、だ。
数をたくさん数えられるので有名な男もいたけれど、いつ船に乗るのかを忘れてしまい、傘、腕時計、宝石、指輪、旅行のために買った洋服まで、42の箱に(慎重にパッケージされてちゃんと名前も書いてあった)入れて持ってきていたのに、ぜんぶ浜辺に置き忘れて来ちゃったんだと。
服をなくした事なんか、そんなにおおごとじゃなかった様だ。
だいたい来た時の彼は、7着のコートと3足のブーツをすでに身につけていたからね。
しかし、最悪な事にもっと大事なものを、彼は忘れてしまったようだ。
それは……自分の名前である。



「やあ!」と言っても大声で叫んでも、彼は返事をした。
例えば「私を揚げて!」とか、「フリッターは私のかつら!」と言う台詞でも同じように返事をした。
「あんたを、何と、呼んだら、良いのか、うーーん!」または「奴は誰だ!」でも返事をしたさ。
しかし特に「名無し野郎!」の呼びかけには敏感に反応したね。
(そしてもっとお下劣な言葉が好きな連中の間では)別のふざけたあだ名で呼ばれていた。
親しい者たちからは「ロウソクの燃え残り」だったし、嫌っている者たちからは「焼きチーズ」と呼ばれていた。
「奴は礼儀がいまいちで、頭も軽い」(とベルマンはよく彼をそう評していた)
「だが、その勇気だけはじつに見上げたものだ!そして、それだけがスナーク狩りには必要なものなのだ。奴はハイエナに睨まれたら、堂々とお辞儀して冗談を言うような男だ。かつては熊と散歩(足並みそろえて)までしていた。それは『もち、テンションをアゲアゲに保つためでさぁ』と奴は言っていた」
彼は最初パン屋としてやって来ていた。しかし…言うのが遅すぎるぞ!
(それは哀れなベルマンを半狂乱にさせた)
「『俺はウエディングケーキしか作れませんが、何か?』だとぉ。そんな材料がどこにあるんじゃい!」
最後の乗組員は、奇っ怪な奴だった。彼は恐ろしい馬鹿だったのだが一つの事だけしか考えていなかった。
それは「スナーク」の事である。だが、それゆえベルマンは彼を雇ったのだ。
彼は屠殺屋=肉屋としてやって来たのだった。
(しかし船が出港して一週間経ってから、ようやく重々しく告白した)
ぼくはビーバー専門の肉屋なんです、」と。
これを聞いたベルマンは、たまげたのなんの。しばらくは何も言えなかったが、やっとこさ震える声でこう言った。
「この船には一匹のビーバーがいる。一番私に従順なのだ。死なれては非常に困る」
ビーバーは(この会話を聞いていた)涙ながらに抗議した。
「そんなのスナーク狩りには関係ないじゃないですか!いくら奴がスナーク馬鹿でも許せないですよ。肉屋は別の船で行かせる事を強く要求いたしますっ!」
しかし、ベルマンはそれを拒否した。計画の変更など、できようはずもない。
「航海は常に高度な技術を要されるのだ。たった一隻のたった一つのベルなのに、だ。二隻で行くなどとはとんでもない!」
彼は実際問題こんな事で、この仕事が断念されてしまうのを恐れていたし、同様に事態を重くも見ていた。
ビーバーにとって間違いなく最善の道を、考えだす事にした。
パン屋のアドバイスで、ビーバーは中古の防刃コートを着る事にした。
そしてお次は「そりゃ保険に入るべきですね」と、これは銀行家の提案だったのだが、加入を勧められた。
無理のないご契約)で売られていた商品だ。二つの優れた特色を持つ保険で、一つは火災による損害保証と、もう一つは雹による損害に対する保証を持つものであった。
その悲惨な日からずいぶん経つのに、肉屋が現れると ビーバーはその逆方向を見て、何とも言えない程にビクついているようだった。



第二話『ベルマンの演説』

ベルマンはみんながてんでに褒め讃えていた。
「その身のこなし、落ち着いてなんと優美な!」「厳格でもある!」「人は彼の顔を見ただけで、どれだけ賢いかすぐにわかるだろうさ!」
ベルマンは海が書かれた大きな地図を買った。しかし、それにはちっとも陸の事は書かれていなかった。そしてそれを知った乗組員たちは、大喜びした。誰にでも判りやすい地図だったからだ。
「メルカトル図法の地図に載っている赤道や回帰線、地帯や子午線、そんなもんが我々に何の役に立つ?」とベルマンが叫ぶと、乗組員たちは答えた。「そんなもんは、ただの伝統的な印にすぎない!」「ほかの地図は、島と岬で作られている!しかし、我々にとっては勇敢なキャプテンがいる方がずっとありがたい」
(そして乗組員は断言する)
「我々のために、最高のものを買ってくれましたね。まったく完璧に真っ白な地図!



 間違いなく、これは魅力的な地図であったが、しかし間もなく彼らは気づかされた。
彼らが信頼するキャプテンが、この航海でできる事は、たったの一つ。ベルをチンチンと鳴らす事だけ。
 彼は思慮深く憂慮するのだったが、その命令は乗組員を当惑させた。
彼が「右舷に進行、だが、船首は左舷に向けろ」と叫んだとき舵手はどうしたらよかんべな?
 それから、時々船首と舵がごっちゃになったのだった。
(ベルマンは言った)「これは熱帯気候ではよくある事なのだ。船がいわば『スナーク』になってしまうからだ」
 しかし、最悪の事態が航海中に起こってしまった。そしてベルマンは(混乱と苦悩で)言った。
「せめて東風が吹いてくれれば、船は西に行かなくてすむのに!」
そして危険は去り、彼らはついに上陸したのだった。箱や旅行鞄やバッグなどと共にね。


 けれども、乗組員たちは一目見たその眺めにがっかりしてしまった。そこは険しい岩山や割れ目で出来ていたからだ。
ベルマンは彼らの士気の低下を感じた。ので、ノリノリの調子で繰り返し『痛ましい時期』に関するいくつかのジョークを連発したのだが、乗組員たちはうめき声を上げ続けるだけ。
なので、彼はベルを持ってない方の手で水割りを配り、
みんなに「砂浜に腰を下ろせ」と言った。
 彼らは自分たちのキャプテンが演説を始めるその姿を、偉大だと思わずにいられないほどだった。
「友人よ(ローマ人と同胞)、聞いてほしい!」
(彼らはみな引用が大好きだったので、キャプテンの健康のために三度乾杯した。その間キャプテンはさらに水割りを配った)
「我々は何ヶ月も、何週間も航海を続けた」(一ヶ月を四週間として考えたならね)
「しかしまだ見つからん」(キャプテンが言ってた通りだね)
「我々は何週間も何日も航海したというのに、だ」(一週間を七日として計算したらだけど)
「しかし、スナークはどこからかこちらを見ている。我々には未だに発見できないと言うのに、だ」
「ここへ来たれ、そして聞け。わが乗組員たちよ。今一度言っておこう。五つのまぎれもないスナークの特徴だ。それを知っておけば、どこで出くわしても正真正銘ほんもののスナークを見分ける事ができるはずだ。では、順々に授けよう。
まず第一に、味覚だ。貧弱で味気ない、しかしサクサクしている。ウエストがきついコートのようで鬼火のような風味がある。
第二に遅く起きる習性がある。というか、やることなすことが遅い。午後のお茶に朝食を食べ、翌日になって前日のお茶の時間をする。
第三に冗談を理解するのも遅い。君たちが一つ冗談を言ったとする。奴はひどい苦悩にため息をつくだろう。いつも洒落に対しては死にそうになっている。
第四に移動する車輪のついた更衣室が大好きだと言う事だ。いつも持ち運んでいる。それが景色を美しくすると信じているのだ。それは非常に疑わしいと思うがな。
第五に野心家だ。
次に正しいと思われるそれぞれの特定種について述べよう。羽があって噛むタイプとヒゲがあって引っ掻くタイプは別にする。一般的なスナークは人畜無害だからだ。まだ私は肝心な事を言ってなかったな。いくつかのブージャムは……」
ベルマンがそう警告を与えようとした時に、パン屋が気絶した。


第三話『パン屋は語る』

みんなはパン屋をマフィンと氷で起こした。
みんなはパン屋を辛子とクレソンで起こした。
みんなはパン屋をジャムと賢いアドバイスで起こした。
パン屋が体を起こして話せるようになると、みんなはパン屋が気絶した訳を知りたがった。
 彼はその悲しい話を話そうと申し出た。
そしてベルマンは「みんなおとなしくしろ!さわがしくじゃないぞ」と大声で叫んだ。そして興奮してベルをチンチンと鳴らした。
みんなは最高におとなしくしていた。さわがしくでも(そうぞうしく)でもなく。遠吠えもうめき声もなく、今までにない程にシーーン。
「やあ!」とみんなから呼ばれている男は、悲痛な話を始めた。大昔の調子で。
「貧しく、でも父と母は正直者でした」
「そんな話は飛ばせ!」と急いでベルマンは叫んだ。
「暗くなったらスナークを見つけるチャンスが減るだろうが。我々は一分たりとも無駄にはできんのだ!」
「40年飛ばします」と涙ぐんでパン屋は言った。
「ついでにもっと飛ばしてみましょう。あなたが俺をスナーク探索のために、と船に上げたくれたあの日まで。俺の大好きなおじさん(俺は彼の名をもらったんですが)そのおじが別れを告げに行った時に教えてくれたんです」
「くそっ、そんなおじちゃまの話も、とっとと飛ばすんだよ」とベルマンは叫び、怒りのベルをチンチンと鳴らした。
「おじが教えてくれたんです」とパン屋は穏やかに話し続けた。
「もしお前たちのスナークがまさしくスナークなら、菜っ葉を与えて、どうにかして家に持って帰って来い。明かりを付けるのに便利だからな。お前は指ぬきと、注意深さで奴を探さねばならん。お前はフォークと希望で奴を追い立てねばならん。お前は鉄道株で奴の命を脅してやらねばならん。お前は微笑みと石けんで奴を魅惑するのだ」
(「それはまさしく、その通り!」とベルマンは急に割り込みパン屋をさえぎって叫んだ。「まさにいつも私が言っている通りのスナーク狩りの方法だ!」)
「だが、おお、輝かしい我が甥よ、その日には気をつけるのだ。もし、お前が見つけたのがブージャムだったならば、その時は、お前は音もなく静かにそして突然に、消えてなくなってしまうのだ。そしてもう二度と会えなくなるだろう!」
「これが原因です。これが俺の心を押しつぶすんです。俺がおじさんの最後の言葉について考えると、俺の心は煮えくり返った油があふれて噴き出すみたいになるんです。これが、これが原因なんです」
「それはもう聞いたぞ!」とベルマンはひどく怒りながら言った。
そしてパン屋は繰り返す。
「もう一度言わせてくれ、これなんだ。俺が怖いのはこれが原因なんだ!俺は日が暮れてから毎晩奴と夢のようにきちがいじみた戦いをするんだ。そして俺は奴に菜っ葉を与えるんだが、とても暗い場所なんだ。だから俺は明かりを付けるのに奴を使おうとする。だが、もしこれがブージャムに出会っていたんだとしたら?俺はその日その瞬間に(百も承知している事だが)俺は消えちまうんだ、音もなく静かに、あっという間にだ。そう考えると俺は、耐えられない!」


第四話『狩る』

ベルマンはガンガンに眉間にしわを寄せていた。
「お前さあ、もっと前に言えんかったのか?今言われても困るんだよ。もう、ドアの向こうに相手が立ってるみたいなこんな状況でさ、そんなの聞いて誰がうれしいんだよ!お前の言う事を信じるんならな、みんなだってお前に二度と会えなくなったりしたら、悲しいに決まっとるだろう。しかしなあ、お前、この航海が始まる前に、なんでそれ言えなかったの?何度も言うけどさあ、今言われても困るっての!」
そして『やあ!』と呼ばれる男は、ため息をついて答えた。
「俺は船に乗り込む前に言いましたよ。殺人者や異常者とでも告発してくださいよ。(誰にでも弱点はある)だけど、人をだましたりなんかこれっぽっちもしてませんて。そういう事はいっさい致しません!俺はヘブライ語で、オランダ語で、ドイツ語とギリシャ語でも、そう言いましたさ。だけど、まったく忘れてたんですよ。(それが俺を悩ませるんですが)だって船長は、英語しか話せなかったんですよね!」
「そんな!・・・アホなあぁぁぁぁッ!?」とベルマンは開いた口がふさがらなかった。
「だが、お前が話した事には、もうこれ以上議論の余地はないな。私の残りの演説」(と彼は部下たちに言った)
「まあ、また暇な時にでも話すとしよう。しかし、スナークは手の届く所にいるのだ、ともう一度言っておく。諸君の栄光ある義務なのだ!指ぬきと注意深さで探し、フォークと希望で追い立て、鉄道株で命を脅し、笑顔と石けんで魅惑するのだ!スナークは独特な生き物だから、普通の方法では捕まえられん。知ってる方法はぜんぶ試せ。そして知らない方法も使わねばならん。今日と言うチャンスを無駄にしてはいかん!英国は私が進行を慎むのを期待する。とは、途方もないがありふれた格言だな。必要なものを用意しろ、そして戦いのための準備だっっ!」
 それで銀行家は、白地の小切手を(彼が横線して)裏書きし、小銭を紙幣に両替した。
パン屋はヒゲと髪を注意深くとかしつけ、コートのチリを払いのけた。
靴磨き屋と仲買人は順番に砥石でシャベルを研いだ。
しかし、ビーバーはレース編みを作り続け、そして飾りつけをした。我関せず、って感じだ。
弁護士が(レース編みが)権利の侵害である、と証明されたいくつかの事例を示して、ビーバーのプライドに訴えようとしたが無駄な事だった。
ボンネットの製造業者はリボンの奇抜な配置を、熱狂的に計画した。
ビリヤードの記録係は、震える手でその鼻の頭をチョークで塗った。
しかし、肉屋は神経質そうに、黄色い子やぎ皮の手袋をはめ、ひだ襟の
付いた一張羅を着た。正餐を頂くように正装しなくては、と言って。
ベルマンは、それらをぜんぶ「たわけ」と断言した。
「ぼくを今からえらい人に紹介してくださいよ。もしも、お目にかかれる機会があったらですけど」
そしてベルマンは(賢明にもうなずいて)言った。「それはお天気次第だろう」
ビーバーは肉屋があまりに内気なのを知り、ひたすら勝ち誇った足どりでそこいらをのし歩いた。
馬鹿で勇敢なパン屋でさえ、片目でウインクして合図を送る努力をした。
「男らしくしろ!」とベルマンは怒りながら言った。肉屋がすすり泣きを始めたのを聞いたからだ。
「われわれが、ジャブジャブ(あのやけくそ鳥)と出会ってしまったら、この仕事のために全員の全精力が必要とされるんだぞ!」


第五話『ビーバーの授業』

彼らは指ぬきと注意で探した。
彼らはフォークと希望で追い立てた。
彼らは鉄道株で命を脅した。
彼らは笑顔と石けんで魅惑した。
それから肉屋は、独創的な計画を考案した。それは、別働隊として出撃する事である。人が近寄らないような、暗くて荒涼とした谷へと。
しかし、ビーバーもまったく同じ事を考えていたのだ。そしてまったく同じ場所へと。ふたりとも言葉でも身振りでも、顔に表したような嫌悪は表さなかった。
彼らはその日のすばらしい仕事「スナーク」について以外の事は考えてないし、相手がどこへ行っても何かを言っても、なかったものとして処理しようとした。
しかし、谷はますます狭く深くなり、日が暮れて暗く寒くなった。ついに(好意からではなく、緊張感から)彼らは肩を並べて前進した。
それから悲鳴(甲高く鋭い)が震える空をつんざいた。彼らは大変な危険が迫っているのを知った。
ビーバーは尾の先まで青ざめた。そして肉屋でさえ、気分が悪くなった。
彼ははるか遠い昔の幼少期の頃の事を思い出した。あの至福で純真な時期を。その音は彼の心に正確に思い出させたのだった。黒板の上をひっかくあのキーキーといういやな音を。
「ジャブジャブの声だ!」と突然さけんだのは、(みんなから「馬鹿」と呼ばれている男だ)
「ベルマンだったらこう言うだろう、」と彼は誇らしげに付け加えた。
「私は一度そう見解を述べた。ジャブジャブの音だ。頼むから数を覚えていてくれ。私は二度言った。ジャブジャブの歌だ!証明は完璧にされた。私が三度言ったからな」
ビーバーは細心の注意であらゆる言葉に対応させて数えた。しかし、三度目の繰り返しが起こった時、心が乱れ、
絶望にうめき叫んだ。どうにかして数えなければ、と苦しんだのにも関わらず数えられなくなってしまった。
今やカラカラになってしまった脳みそは、数を合計する事
だけを考えていた。
「2たす1は……もしかして指と指ぬきを使えばできるかも」と言った。
泣きながらも思い出した。「幼い頃は、金額を数えるのなんか苦でもなかったのに」
「ぼくはできると思うよ」と肉屋は言った。
「紙とインクをくれよ。それと時間を調達できれば最高さ」
ビーバーは紙と書類かばんとペン、そしてインクをこれでもかと言う程に持って来たのだった。
奇妙で不気味な生き物が巣から出て来て、不思議そうな目で彼らを見ていた。
肉屋は両方の手にそれぞれペンを持って書くのに夢中で、それにはまったく気づかなかった。
そしてやりやすいやり方で説明したので、ビーバーはものすごく良く理解できた。


「便利な番号を使うとしたら、推論しやすい三という数字を取り上げてみよう。それに十七をたす。それに千から八を引いたものをかけるんだ。その答えから九百九十二で割る。それから十七を引いて、正確で完璧な正しい答えを
出さなければならない。この方法を選んだわけを、ぼくの頭がハッキリしている間に喜んでご説明しよう。もしぼくに時間があって、君にもっと知能があればだがね。しかし、まだ言っておかねばならない事がある。一瞬で、ぼくは今まで絶対的な謎に包まれて来たとされる事を理解したよ。追加料金なしで、ぼくは君に博物学の授業をしてさしあげよう」
彼はおだやかな調子で言い始めた。
(これはまさしくきちがいに刃物というやつで、社会的にかなり恐ろしい事を引き起こす原因になるだろう、という善悪の法律を忘れていたのだ)
「ジャブジャブというやけくそ鳥の気質については、常に激しいかんしゃく持ちである。衣装の好みは、ぜんぶメタクソで百年先を行ってる様なファッション。一度会った相手をちゃんと覚えているし、賄賂もきかない。チャリティ会場ではドアの脇で、加入してないのに募金を集める。調理したらその味は、羊や牡蠣や卵よりうまし。(保存するには象牙のつぼやマホガニーの小さい樽に入れる)塩をすりこみおがくずで煮て、イナゴとテープで凝縮する。守らねばならない重大事は、その見栄え!対称的な形を維持するのだ」
肉屋は翌日までよろこんで話し続けた。しかし、なにごとにも終わりはある。
彼はビーバーを友達と思える様になった、と言おうとしながらよろこびの涙を流した。
ビーバーも優しい瞳で告白した。涙などよりももっと雄弁に。
「この十分の間で、七十年かけて勉強するよりもっとたくさんの事を教わったね」
彼らが手をつないで戻った時、ベルマンは(この時、他には誰もいなかった)美しき感動に包まれた。
「これは荒々しい海を越えて来たわれわれの、苦しかった日々に対して十二分に報いる成果だ。ビーバーと肉屋がむすんだ様な友情は、わたしはいまだかつて知らん」
冬でも夏でも、常に友情は変わらなかった。いつも二人が一人のバロロームなのだった。
けんかした時でも(努力をしてもけんかは起きるものだが)そんな時は再認識をするのだ。
あのジャブジャブの歌の時の事を思い出し、更に永遠の友情を固めるのだった。


第六話『弁護士の夢』

彼らは指ぬきと注意で探した。
彼らはフォークと希望で追い立てた。
彼らは鉄道株で命を脅した。
彼らは笑顔と石けんで魅惑した。
ビーバーにレース編みがいかに間違った事か、を証明した弁護士はそれがいかに無駄な事だったかを悟ると、どっと疲れてしまった。
そして眠りに落ち、夢の中では、長い間考えて彼が空想していたその生き物は非常に平べったいものだった。
彼は暗い法廷の中に立っていた。
そこでスナークは、眼鏡をかけて、ガウンを着て、カツラを付けて、豚小屋を見捨てて逃げた容疑のある豚を擁護していた。


目撃者は見まちがいでも勘ちがいでもなく、豚小屋を見た時には逃げ出した後だったと証言した。
そして、判事は音声が下から流れ出す様な弱々しい声で、州の法律について説明し続けた。
起訴は、誰もが豚が何をやらかしたのか推測できないままで、スナークが三時間も話し続けたが、それでも明らかにはされなかった。なので陪審員はそれぞれに違った判断をしていた。
(起訴が読まれるずっと前に)
彼らはすぐに話し合いを始めたが、自分の放つ一言以外の事はどうでもいいんじゃないかと思えた。
「静粛に――」と判事は言ったが、スナークは叫んだ。
「まやかしだ。だいたいこんな法律はまったくの時代遅れでしょう。わたしに言わせりゃ、わたしの友人のすべての問題点は、大昔の荘園制度時代の権利に関してなんですよ。反逆罪に関しては、豚は幇助にはなりますが、教唆には当たりません。倒産の容疑もまちがいなのは明らかです。弁明をお聞き入れくださいますなら『負債などありません』し『遺棄の事実』もわたしは議論にならないと思います。罪状は(これまでのところ、訴訟の費用に関連するかぎり)アリバイは証明されているので、取り下げられるべきと信じます。わたしの哀れな依頼人の運命は、現在あなたたちの手にゆだねられています」
ここで話し手は彼のそばに座り、そして判事に彼のメモを参考にして、案件を簡単に総括するようにと言い含めた。
しかし判事は「わしは一度も総括した事などありゃせんわ」と言った。
なのでスナークは代わりを引き受け、総括をした。証人達の証言を合計したよりも、はるかに長々しく!
評決をするために呼ばれた陪審は、つづりがややこしい言葉だったので、同様に彼らはその義務を、スナークに快く引き受けてもらいたがった。
そういうわけで、一日中八面六臂の働きをしたスナークは判決を下した。
「有罪だ!」と言う言葉を聞いて、陪審はみんな呻き、中には倒れる者もいた。
スナークはそう判決を言い渡し(裁判官はこの間違いようのない言葉にすっかりナーバスになった)
立ち上がった時には、夜の静寂のような沈黙があった。針の落ちる音が聞こえるほどだった。
「一生、所払いに処する」という主文だった。
「おまけに40万円以下の罰金」
陪審は全員歓声をあげたが、裁判官は「その文節では法的な響きに乏しくないか、わしゃ心配だな」と言った。
しかし、彼らの騒々しい歓喜の声は突然制止された。
看守が涙ながらに報告したからだ。
「そんな文には何の効果もありません。豚は数年前に死んでおります」
裁判官はひどく機嫌を損ねて法廷を去った。
しかし、スナークは少しは仰天したものの、弁護側に委任された弁護士として、最後に怒鳴りまくった。
法廷弁護士は夢を見ていたが、その間にも怒鳴り声はだんだんひどくなり、それが凄まじいベルの音だと気づくまで、ベルマンが彼の耳元でガンガンとベルを鳴らし続けていたのだった。


第七話『銀行家の悲運』

彼らは指ぬきと注意で探した。
彼らはフォークと希望で追い立てた。
彼らは鉄道株で命を脅した。
彼らは笑顔と石けんで魅惑した。
そして銀行家は、一般的に言われる所の新しい力と天啓を得てスナークを発見しようとする意気込みで、狂った様に走り出し、行く先も判らぬまま〜♩、になってしまった。
しかし、彼が指ぬきと注意で探している時に、バンダースナッチが突如近づき引っ張った。
そして無駄なあがきとばかりに(絶望の悲鳴を上げる)銀行家につかみかかった。
彼は小切手の大幅な割引をしようと申し出た。(年に7〜10パーセントの利子がつくものだった)
しかし、バンダースナッチはただ首を伸ばしただけ。再び銀行家につかみかかった。
片時も休む間もなく――猛々しくあごを動かし、残忍に噛み付くのだった。
彼は飛び跳ね、弾んで、のたうち、ドサッと落っこち、失神して地面に倒れた。
襲われた恐怖の叫びを聞いた他の面々が現れると、バンダースナッチは逃げた。
そしてベルマンは「恐れていた事が、起こってしまったでわないか!」と言い、厳かにベルを鳴らした。
銀行家の顔は黒ずみ、ほとんど別人になっていた。
その代わりなのか、彼のチョッキが恐怖のせいで、おそろしく真っ白になっていたのだった。


その日、みんなは恐怖した。
銀行家は完璧な夜会服を着て起き上がり、無意味なしかめっ面で話そうと努力したが、彼の舌はもはやもつれっぱなし。
彼は椅子に沈み込み――手で髪をかきむしりながら――暗号の様な調子で唱えだした。
カスタネットみたいに骨をガチャガチャと合わせながら狂った言葉を吐き続けるのだった。
「彼のためにはここに置いてった方が良いな。――もはや手遅れ!」とベルマンは恐怖で叫んだ。
「我々は半日失ってしまった。更なる遅れがあろうと、我々は日暮れ前にはスナークを捕えなければならん!」


第八話『消え行く』

彼らは指ぬきと注意で探した。
彼らはフォークと希望で追い立てた。
彼らは鉄道株で命を脅した。
彼らは笑顔と石けんで魅惑した。
彼らは探索が失敗に終わる可能性を考えて身震いした。
そしてビーバー(ついに発奮し)昼間の間はシッポの先を跳ね上げたままだった。
「やっこさんが叫んでるぞ!」とベルマンが言った。
「狂った様に叫んでいるな(いいから聞け!)手を振っているぞ、頭もだ。確かにスナークを見つけたのだ!」
みんなは喜びで見つめ、肉屋は叫んだ。
「やつはいつでもやけくそに体を振るからなあ」名無し、みんなはパン屋―彼らの英雄―を見た。
彼は近くの岩山の上にいた。
直立した崇高な姿、がそこにはあったが一瞬の後、そのワイルドな男)は(まるで刺されて痙攣してるみたいだ)
岩の割れ目に飛び込んだ。
みんなは畏怖し聞き耳を立てて待った。
「スナークだ!」というのがみんなの耳に最初に聞こえたのだが、話がうますぎる様にも思えた。


そして笑いと歓声が続いて聞こえ、「これは、ブー…」という不吉な言葉。そして沈黙。
何人かは空中から疲れた様なため息が漂い、それが「ジャムだ」と言った様に聞こえたと思った。
しかし、他の者達は風の通る音が、そう聞こえただけだと断言した。
暗闇が迫るまで彼らは狩りをした。
しかし、パン屋がスナークと行き会った場所には、ボタンや羽や痕跡など何一つ見つからなかった。
パン屋は笑いと歓声の中で、それに気づいて言おうとしていたのだが、音もなく静かにそして突然に消えてなくなったのだ。
スナークがブージャムだったからだろう。


『おわり』