だいぶ意訳してます。では、第十四回の「心猿、正に帰すること=猿は根性を入れ直したw」の章より抜粋〜
 かの猟師伯欽と三蔵は驚き慌てました。
「やっとお師匠さんが来たぜ!ヒャッホウ」と叫ぶ声を聞いたからです。
伯欽の家の家来の者が言いました。「これを叫んでいるのは、きっとこの山のふもとで岩の箱に閉じ込められているおいぼれ猿ですよ」
太保も言います。「そうだ奴だ!きっと奴に違いない!」
三蔵は聞いた。「それはどういった猿なんですか?」
太保は「この山の元々の名は五行山と言いましたが、我が国の大王様が西を征服なさって国をお作りになった記念に両界山と改名しました。私が昔に老人から聞いた話によると『王莽(註:人名「おうもう」)が漢の国を簒奪(註:=さんだつとは、本来君主の地位の継承資格が無い者が、君主の地位を奪取すること)した頃に、天からこの山が降って来て一匹の神猿を押しつぶしたのだ。この猿は暑さ寒さも平気で、食べたり飲んだりしない。もっともここの土地の神様が監視役をしているので、腹が減ったら鉄の固まりを食べさせ、喉が乾いたら銅を溶かしたものを飲ませるそうだ。だから昔から今に至るまでこの猿は凍死も飢え死にもしないのだ』と言う事です。だからこの叫び声は奴のものでしょう。お坊様が怖がる事はないですよ。ここは私達が下山して様子を見て参りましょう」と言いました。
 しかし三蔵は一人で山奥に置いて行かれるよりは、と太保たちに付いて行く事にし、馬を降り手綱を牽いて歩いて下山しました。歩いて数里もしないうちに話に聞いた岩の箱があり、中を見ると言う通りに一匹の猿が居ました。頭を出し、腕を伸ばし、手をメチャクチャに振って手招きして言います。
「坊さん、あんたこんな時にどうしてやって来たんだ?いや、良く来てくれた!やっと来たんだな!ありがてえ。俺を救い出してくれたら、俺はあんたを守って西天=インドの事、まで付いて行ってやるぜ」
 三蔵は猿に近寄って観察しました。その猿の様子がどんなかと申しますと、尖った口に縮れたエラ。金色の瞳で火が燃えている様に見える目。頭の上にはコケが積もり、耳の中からツタが生えていました。耳の後ろの毛は少なく代わりに青草が多く生えています。顎の下もヒゲではなく薬草のハマスゲが青く生えていて、眉の間には土が、鼻のくぼみには泥が積もっています。落ちぶれたそのありさまは、もう十分に罰を受け苦しんでいる様子です。指先は荒れていて、手のひらにも厚くホコリや垢が溜まって汚れていました。喜びのあまりに目をキョロキョロさせ、声も穏やかそうで言葉もハッキリとはしてはいますが、その体の様子が彼自身を現していました。実にこれが五百年前には孫大聖だったもののなれの果てなのでした。そして今朝やっと苦難は終わりを告げ、天罰より逃れようとしていたのでした。
劉太保は堂々と大胆にも走って岩の上に上がり、猿の前に来て耳の後ろの草と顎の下の草を引っこ抜きながら、「お前は何か言いたい事でもあるのか?」と聞きました。
猿が伯欽に言いました。「おめえにゃ何も言う事はねえ。だがよ、おめえと一緒に来たあの坊さんをここに上がって来させてくんねえかな。あの人には一つ聞きてえ事があるんだ」
三蔵はそれを聞いて言いました。「お前が一体私に何を聞きたい事があると言うのだ?」
猿が言います。「あんた、この東の国の大王様の御命令で西天までお経を取りに行くんじゃねえのか?」
三蔵は「いかにもそうだ。だがお前はなぜそんな事を聞くのだ?」と言いました。
猿は「俺は今から五百年前、天界にその名を轟かした斉天大聖だ。ただ、偉い人を騙し悪事を働いた罰でこの場所に押しつぶされ封印されちまった。前に一人の観音菩薩がやって来て、『私は仏様の御命令でこれから東の国まで、お経を取りに行く人を訪ねに行く所だよ』と言う。俺が『助けて欲しい』と頼むと、菩薩は俺に『もう二度と悪事は働かず、仏の道を信じて僧侶となり、誠意を尽くしてお経を取りに行く人を助け、西天に行き仏様にお会いしなさい。それが出来た後、あなたは自由の身になれるでしょう』と言うんだ。それを聞いてから、俺は昼と夜はテンションが上がるんだが、朝夕はガッカリして落ち込むんだ。ああ、また昼も夜もあの人は来なかったなあ、って思ってね。俺はあんたが来て、俺をここから助け出してくれるのをずっと待っていたんだ。俺はあんたを守ってお経を取りに行くし、あんたの弟子となって誠意を尽くすぜっ!」と言うのです。
 三蔵はこれを聞くと満足し、大喜びして言いました。「お前にはそのような良い心があるし、菩薩様の教えを守って私の弟子として坊主になるとも言う。だが、私は斧もノミも何の道具も持っていないぞ。どうやってお前を救い出せる?」
猿は言いました。「斧もノミも必要ねえですよ。ただ俺を救いたいと決めて下さりゃ自分で出られるんす」
三蔵は「お前を救うと決めたら、どうしてお前が出て来られるんだ?」と聞くと猿は言いました。「この山の頂上に、仏様の金のお札が貼ってあるんですよ。山に昇って行ってそれを剥がしてくれりゃ、俺様はたちまち出られるってそういうことでさ」
 三蔵はその言葉を聞くと、振り返って伯欽を見て言いました。「太保さん、私と一緒にこの山の頂上に行ってもらえませんか?」
伯欽は言いました。「それがウソか本当かも判らないと言うのに、猿の言う事を聞くんですか?」
「本当だ、ウソじゃねえ。ウソなんかついてねえよ!」と猿は声高く叫びました。
 伯欽は下働きの者を呼び馬を牽かせました。そして三蔵を助けながら再び山の頂上へと向かいました。藤のツルをよじのぼり、ツタに取り付いてようやく山頂までたどり着くと、なるほど見ると金の光が全ての道を照らし、めでたい雲気は四方八方に広がっていて、それは四角い大岩の固まりから発せられていました。岩の上には一枚の皮で封がされていました。それには六つの文字が金色で書いてありました。
 三蔵はその前に進み出てひざまずき、岩に向かい金文字を見て何度も礼拝し、西の方向に向かって祈祷して言いました。
「あなたの仏弟子の陳玄奘は、特別な目的を持ちまして教典を求める者でございます。その通りに私にその資格がありますならば、金文字のお札を剥がしてあの神猿を救い出し、お釈迦様の霊山である霊鷲山=りょうじゅせん(註:釈迦が法華経などを説いた山)の様な証(註:奇蹟の事。この山で釈迦も釈迦の説法を聞きに来た人たちも仏の神通力で空中に浮かんだと言う)を見せたまえ。もし、私にその資格が無くて、あの猿もただの凶暴な怪物で、弟子になると私を騙しているだけなら、何もめでたい事は起こらずにこの六文字に掲げられた罰(註:高慢・嫉妬・どん欲・無知・ケチ・憎悪、に対する罰)を与えたまえ」と願いを込めて礼拝しました。
 そして岩によじ登り、慎み出て六文字のお札を持ち、易々と剥がしました。
すると一陣の爽やかな風が吹き、あっという間にお札は三蔵の手から離れ空中に浮かび、そしてこう言いました。
「私は大聖を監視していたものだ。今日猿の刑期が満了になったので、私はこれから如来に会いに行く。ここの封印はゆるめていってやろう」と、空で輝きを放っているそれに向かって、三蔵と伯欽の一行は礼拝しました。
 すぐに山を降り、岩の箱の所まで来ると、猿に対して言いました。
「お札を剥がして来たぞ。さあ、お前、出て来なさい」
猿は大喜びで叫んで言いました。「お師匠様、みんなもちょっとばかり離れていてくれませんかね。このまま俺が出て行くと、みんなビビって腰を抜かして大変な事になりますから」
 伯欽はこれを聞くと三蔵をお連れして東の方向に一目散に走り出しました。五里七里と遠ざかりなおも走っていると、猿の叫ぶ声「もっと遠くに、もっと遠くだ!」と言うのが聞こえました。
 三蔵は更に遠ざかりました。山を降りた途端、一声響き渡る声が聞こえたかと思うと地は裂け山が崩れました。人々は皆それを見て恐れおののきました。
 しかし、あの猿は早くも三蔵の馬の前に現れ、忠誠心が溢れんばかりの態度でひざまづき、「お師匠様、出て参りました!」と言ったのでした。
以下略
 うん、何かもうこれもここまでやるとお腹一杯ってカンジ。まあ、三蔵と孫行者との出会いの場面、ハイライト部分のみですが、まあまあかな。三蔵法師は実在の人物ですが、肖像画と言われるものを見ると、結構体格の良い強そうな男でした。まあ昔の旅は命懸けだから、賊を撃退する位の気構えが必要だったのでしょう。それに対して、この西遊記の三蔵はあまりにもヘタレな人です。怖がる三蔵を仏様全員でお守もしたり大騒ぎしてて、こんなんで大丈夫なのか?ってカンジです。戻る