第14話『空から来た子ども』

劇中台詞 【B=ブラック・ジャック ピ=ピノコ イ=イワン少佐 妻=イワンの妻 ト書きB=ブラック・ジャックが状況説明、第一部ではブラック・ジャックギャング団の担当】

『グオーーッ、グオーーーーン』飛行機の音

(無線の声)「SSRV26893に告ぐ、領空外脱出を禁ずる。領空外脱出を禁ずる。基地に戻れっ」

『グオオオーーッ、ギュワーーーン』

ピ「せんせい、せんせい。あそこに垂直に降りたあれ、飛行機れしょう?」

B「あれは確かウラン連邦のマークだ」

ピ「あれえ、誰か降りてこっちへ歩いて来るわよのさ」

B独白---男と女とそれからふたりに抱かれた子ども。どうやらブラック・ジャックに用があるらしい---

イ「ドクターブラック・ジャックのお宅かね?」

B「そうだ」

イ「ウラン連邦空軍少佐イワン・ユーリッチ・ガガノフだ。よろしく」

B「ヴィトールに乗ってはるばる日本へピクニックかね?」

イ「良く御存じで。あれは垂直離着陸を供えた我が国の秘密新鋭機レポールだ。家内と倅と、全財産200万ドルを積んで来たんだ。あなたの力を借りにな」

妻「私たちはこの子の命を助ける為に祖国を不法脱出して来たのです」

B「ほおーう、無茶な事をしたな。手紙をくれれば出向いたやっても良かったのに」

イ「我々はあの秘密新鋭機の為の特種訓練軍兵士でね、定められた人間以外との接触を許されていないのだ」

B「それで、密かに脱出か」

イ「そうだ。空軍少佐ガガノフは今や国を裏切り、秘密兵器を盗みわが子可愛さに地位も名誉も捨てて、逃げて来た逃亡者って訳だ。頼む。アンドレイを、息子を助けてくれ」

妻「私が頼んだのです。夫の反対を押し切ったのです。何もしてやれず、この子を見殺しにする事が出来なかったのです」

B「ピノコ、レントゲン撮影の準備だッ」

ピ「わかってますれしゅ」

(木琴場面転換音)

B独白---アイゼンメンゲル複合。心臓の仕切りの壁に穴が開いている畸形だ。時期が早ければ手術でこの穴を塞げばいい。だが手術が遅れた場合、肺に高い血圧がかかって肺の血管が侵される。こうなってからでは手術をしても無駄だ。もう、遅すぎる---

(木琴場面転換音)

ピ「せんせい、お茶れす」

B「んー」

ピ「せんせい、あの人達かあいそうよのね」

B「方法が無いか調べているんだ」

ピ「お母しゃん泣いてましゅ」

B「うるさいっ、私に話し掛けるな。…ピノコ」

ピ「はいれしゅ」

B「私だって気の毒だと思っているんだ」

『ガチャッ、バタン』ドアの音

妻「ブラック・ジャック先生。この子を助ける方法は?」

B「唯一の方法は侵された肺を取り替える事だ。だが、肺の移植は不可能だ」

妻「先生にもこの子は助けられないんですか?」

B「ふたりに聞きたいんだが」

イ「なんなりと」

B「あなた方は息子さんの為に命を投げ出す覚悟はあるのかね?」

イ「もちろんだとも」

B「どんな苦しみにも、耐えられるかね?」

イ「でなければ、国を逃げてここまでは来ない」

B「わかった」

イ「何をすれば良いんだ?」

B「ふたりの内どちかかがアンドレイ君とくっつくんだ」

妻「ええっ!」

(ピアノ場面転換音)

B「つまりあなた方のうちのどちらかと息子さんの体を手術で密着させ親の肺から血液をアンドレイ君の肺へ直接流す。この方法しか無いんだ。さあ、どちらが犠牲になるかね?」

イ「君が」

妻「はい、私が」

B「よしっ、すぐ始める」

ストップウオッチの時を刻む音

イ「妻よ、アンドレイよ、頑張れ。頑張ってくれ」

『ガチャッ』

B「ガガノフさん、オペは終わったよ。入りたまえ」

イ「アンドレイ、おおっ」

B独白---ふたりは包帯でしっかり結ばれて眠っている。包帯が取れた時、母と子は自分達の体がびったりと一つになっている事を知るだろう。母の肺で子が生き続けるんだ。子は母に背負われて生きて行く---

イ「私は…妻も、息子も、決してあんたの御恩は忘れない。これは私共の有り金の全てだ」

B「金はこれから君たちに必要だ。それよりあの飛行機を貰おう。一千万ドルはするぜ」

イ「それはっ、それはできん」

B「なぜだ」

ビュワーー………、ボガーーーーーン(爆発音)

B「ガガノフ、やっぱりやったな」

ピ「せんせえーー、飛行機が爆発した。あの人飛行機のとこ行ったのだと思ったら」

B独白---軍人か。いつか健康な肺を移植するチャンスがあったら、その時母と子を切り離してやろう---

【-完-】

感想・他…旧コミックス11巻104第話「空から来た子ども」。この話は人気なんだろうか?アニメの影響かな?しかし、元ネタのミグ25の亡命事件が新聞各誌で騒がれたり、テレビのワイドショーでも散々持ち上げられてたの知ってるんで複雑だなあ。これは戦闘機の性能云々よりも、ソ連の軍人が日本経由で亡命した事の方が衝撃的、事件だったね。問題は日本の領空侵犯どころか着陸しちゃったから、それに対しての日本の防衛技術と意識云々って事だ。つい最近も、東北大地震後にソ連の領空侵犯があって腰抜け対応したばかりだし。疑いたくは無いけどね、火事場泥棒と言う言葉が存在する以上有り得ない事じゃ無いから。

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