第10話『ブラック・クイーン』

劇中台詞 【B=ブラック・ジャック Q=ブラック・クイーン(桑田このみ) ケ=ケン一 女=看護婦 男=看護士 上=このみの上司 ト書きB=ブラック・ジャックが状況説明、第一部ではブラック・ジャックギャング団の担当】

手術時のBGM

Q「大腿骨露出、軟部挙上器、どうぞ」

『カチャッ』金属がはまる音

Q「ノコギリ」

『ギイ、ギイ、ギイコ、ギイ、ギイ』切る音

女「本当に女医にしちゃ珍しい先生ね」

男「手術するのが楽しいみたい」

女「眉毛も動かさずゴリゴリ切った足を、ダイコンみたいにデーンと置くんですもん。ドキッとしちゃった」

男「男勝りってなぁ、あの人の事だろうなあ。あんな美人なのになあ。全く惜しい。ああいう人でも恋する事なんてあるのか知らん?」

女「さあねえ、美人と言うのは元々心が冷たいのよ」

ピアノの旋律流れる。〜ある愛の唄〜

ケ「やあ」

人のざわめき混じる。レストランらしい。

Q「ごめんなさい。出掛けにちょっと急患があって」

ケ「いいんだよ。さっ、それじゃあ取りあえず、乾杯といこう。お誕生日おめでとう」

Q「ありがとう」

『カッチン×2』グラスの触れあう音

ケ「相変わらず忙しそうだねえ。毎日手術かい?」

Q「ええ」

ケ「いつも感心するんだけど、手を切ったり腹を切ったりしたすぐ後に、よくそんな風に食事が出来るもんだなあ」

Q「お止めになって。そんな言い方」

ケ「ごめん。悪気じゃ無いんだ。ただ、ちょっと気になった事があったもんでね」

Q「なんですの、それ?」

ケ「実はね、この間病院を訪ねた時、このみさんの噂を聞いたんだよ」

Q「まあ、…どんな?」

ケ「あまり良い噂じゃ無かったよ。女ブラックジャック、ブラッククイーンだってさ。ブラックジャックって冷酷なメスの鬼がいるんだってね。君がそんな男に例えられるなんて」

Q「いいじゃない、言わせておけば」

ケ「そうはいかないよ。このみさん。もし、結婚したら君は手術だけは止めてくれるね?」

Q「ケン一さん、あたし仕事は辞められないわ。あたしの生き甲斐なのよ」

ケ「人間の体を切り刻む事がかい?」

Q「ケン一さん!! あたし、失礼するわ」

ケ「このみさんっ! 」

Q「あなただけはあたしの事判ってくれてると思ってたけれど、違ったわね。さようなら」

ケ「あっ、このみさん待って。このみさん。このみさん」(声遠ざかる)

カラオケのBGM小沢深雪『さすらいの唄』

Q「へーつ、へっふふっ、あなたがそおなのォ。冷酷でクールでメスの鬼で、フランケンシュタインでロボットで氷人間」

B「おっしゃる通り」

Q「あっはっはっはっはっは、こんな所であなたと会うとはね。あたしはネェ、くわたこのみ。御同業の外科医よ。初めまして。さ、握手しましょ、握手」

B「ずい分飲んでますね。察するに、手術のミスでもあったんですかな?」

Q「とんでもないっ。あたしはまだ一ペンだってミスなんかした事ありません。ミスじゃなくてメス。あたしはあなたの同類。女ブラックジャック、ブラッククイーン。さっ、ブラック同士でじゃんじゃん行こうぜ」

-----------

Q「骨が砕けている上に神経も切れて、血管も滅茶苦茶。その上空気栓塞の恐れも。ああ、どうしよう」

女「レントゲンで見た所、ちょっと見込みありません。先生、やっぱり一思いに切断してしまった方が」

Q「そうね」

女「どうしたんです?いつもの先生らしくない。一刻も早く処置しないと危険です」

Q「判っているわ。とにかく、応急処置をしておいて頂戴。お願い、少しだけ一人になって考えたいの」

女「判りました。でも急いで下さい」

『カツコツコツコツコツ、ガチャッ、バタン』歩き去りドアを出て行く音

Q「ケン一さん。よりによってあなたが事故に会うなんて………。私一体どうしたら」

B「失礼しますよ」

Q「あっ、あなたは」

B「この間の晩はどうも。あの時の忘れ物をお届けに上がったんです。ほら、あなた宛のバースデイカード」

Q「ブラックジャック先生。教えて下さい。失礼ですけど、もしあなたに恋人がおありで、その恋人の命に関わるとしたら、あなたはその恋人の手でも足でもお切りになります?」

B「切りますね」

Q「恋人が身体障害者になっても?」

B「勿論です。医者の診断に恋人もイカの頭もありませんな」

Q「そうね、うっ、ぐっ……(泣く)やっぱりあなたは冷静な方ね、ひっく、うううっ…」

B「それじゃあ、あなたの?」

Q「うっ…くっ…、ええ」

B「とんだ所に来てしまった様だな」

Q「あっ、はうっ、うううっ…ひっく、はあ、ううう…」

B「この鎮静剤をあげましょう。これで気を鎮めて、それからきっぱりお切りなさい。……ブラッククイーン」

(木琴の場面転換音)

Q「先生、…医者って、…独りぼっちで、…さみしいものなのね…」

-----------

上「ばかものっ。大切な患者の手術を睡眠薬飲まされて、寝ている間にどこの馬の骨とも判らんやつにされてしまって、それであんた良く医者の務めを! ブラッククイーンが聞いて呆れるよ」

Q「申し訳ありませんでした。で、手術の結果は?」

上「おあいにくですな。あんたの好きな両足切断とはいかなかった」

Q「え、それじゃあ…」

インストゥルメンタル流れる

上「その馬の骨の手術の腕が確かだったのが、不幸中の幸いだ。しかし、あいつ一体何の目的で?」

Q「目的は判っています。あの方、ブラックジャックの名を大切にしたかったんですわ。女ブラックジャック、ブラッククイーンなんてそんなニセモノ、あの方には許せなかった…」

【-完-】

感想・他…旧コミックス巻6第50話「ブラック・クイーン」。原作ではこのみの婚約者の名前はケン一ではなくロックなんだけどね。それとケン一と別れてから場末の居酒屋かスナックで(BGM必殺のカラオケだ〜)飲んだくれてたっぽいこのみさん。ブラックジャックと手術の話なんかして、あの後盛り上がったんじゃ無かろうか?このみさん曰く「医者って独りぼっちで寂しい」んで、ジャックはクイーンが気になって気になって仕方なくなり…、って感じだよね。ブラックジャックも気になる異性にはちゃんとアタックするんだ、と少しほのぼの。ブラックジャックがわざわざ届けた忘れ物も、ケン一からのプレゼントか不明なんで、一緒に飲んでる時にこのみさんがケン一への当てつけもあって「今日はあたしの誕生日だったのに、誰も祝ってくれないのよーヽ(`Д´)ノ ウワァァン!!」なんてほざくのを間に受けて『誕生日なのに独りぼっちだったからやさぐれてたのかー!チャーンス!!』とばかりに+(0゚・∀・) + ワクテカ +しながら誕生日のプレゼント買って持って来てたんなら悲しすぐる。というか、既にこのみさんの最後の台詞が(´;ω;`)ウッ

戻る