第6話『電話が三度鳴った』 劇中台詞 【B=ブラック・ジャック 男=犯人 女=犯人の姉 ト書きB=ブラック・ジャックが状況説明、第一部ではブラック・ジャックギャング団の担当】 |
『ジリリリリーン、ジリリリリリリーン』電話のベルの音 B独白「電話は鳴った」 『ジリリリリリーン、ジリリリリリリーン。 カチャッ』受話器を取る音 B独白「一度目の電話だ」 B「はい、もしもし。こちらはブラック・ジャック」 男「そうかい、あんたが治療代を何百万も取ると言う恥知らずの無免許先生かい。聞くけどね、医者ってのは病人を生かすも殺すも全く金次第って事なのかい」 B「誰だ、君は?早く用件を言いたまえ」 男「用件?たった今俺のおふくろが死んだよ。金が無くってね、碌々医者にも見て貰えずに、苦しみながら死んだんだよ」 B「ほーお、お気の毒に」 男「何言ってやがる。医者の先生方に取っちや俺達貧乏人はお呼びじゃ無いのさ。いいか! 良く聞けよ。俺はこれからあんたの家に行く」 B「私の家に」 男「ああ、あんたを殺しにね。俺はおふくろの死体に誓ったんだ。お前の様な無茶苦茶に高い金を取る悪徳医師に、おふくろとおんなじ死の苦しみを味わわせてやるんだ」 B「ばかな」 男「俺は電話をあと二回かける。ただし、三度目の電話はあんたには聞けない。あんたはもう死んでいるからね。警察にかけるんだ。医者を一人殺しました、とね。医者代を安くしなければ第二、第三の犠牲者が出る事を知らせてやるんだ。いいか、呉々もおかしな真似はするんじゃないぞ。こっちにはピストルがあるんだ。それに人質が一人」 B「人質。…ピノコ」 男「ああ、何でもそんな名前の可愛らしい女の子だ。それじゃあ、二回目の電話を楽しみにな」 B「ん、まてっ、お前」 『ブツッ』電話が切れる 木琴場面転換音 B独白「重苦しい時が過ぎ…」 『ジリリリリリリーーン』 B独白「二回目の電話」 『ジリリリリリリーン。ガチャッ』 B「お前か」 男「黙って言う事を聞け。お前の家の裏に林があるな。きっちり三十分後、あんた一人でそこに来い。手術着を着て来てもらう。俺はあんたの顔を良く知らないからな。それじゃあ三十分後」 『ブツッ』 『ビュウーーーーー。ピーピチュピーピーピーチー』風の音と鳥の声 B独白「夕暮れの雑木林の中。白い手術着。一人。 『ガサリ、ガサリ、ガサリ』草を踏む足音 男「おうい、先生っ」 『パーーーン』ピストルの音 B「うっ、いっ、あっ、ああーあっ」 『ドサリ』倒れる音 男「うっ、あっ、うあはははははははは。えっ、えひゃひやははははははは。約束を守ってくれたねえ。感心感心」 B「ああー、ぅっ」 男「へへっ、へはははははは。俺の射撃の腕も満更じゃないだろう。急所はわざと外してやったんだ。これからだよ。これからゆっくりこのピストルの弾を撃ち尽くしてしまうまで、あんたにゃ苦しんでもらわなきゃならないんでね」 女「しんちゃん、慎ちゃん」 男「姉さん」 女「慎ちゃん、あんた…」 男「どうしてここへ来たんだよ」 女「あんたとうとう撃ってしまったのね。さあ、ピストルをこっちへかして。そして自首するのよ」 男「どうして分かってくれないんだよ。俺はおふくろを殺した医者に復讐してやるんだ。何が悪いんだ」 B「おうっ、ううっ」 男「おいっ、動くなッ」 『バーーン』 女「ううっ、……しんちゃん」 男「姉さん、ね、姉さん。だめだ。だめだ。死んじゃだめだ。姉さん」 B「これであんたの復讐とやらのおつき合いはお終いだ。さあ、姉さんを担げ。私の家へ行って手術をしよう。まだ脈がある。助かるかも知れん」 男「あんた」 B「さあ、そんな物騒なもんはとっとと捨てちまって」 バーーン、ピアノ転調 B「さあ、そこの注射器を取ってくれ。それから、そこの棚のそれ。鎮痛剤だ」 男「あんたそんな体で手術なんて」 B「フッ、ハッ、今更何を。お前の言った通り急所は外れている。こうして止血をして鎮痛剤を打っておけばしばらくはもつ。さあ、ぐずぐずはしていられない。姉さんの方が手後れになっちまう。お前もさっさと手を消毒して。さあ、急いで」 男「はい」 音楽BGM手術時の緊迫した雰囲気の曲 B「胸部盲管銃創だ。脊椎の前で止まっている。よし、メス。メスッ! 」 男「はっ、はいっ」 … B「はーーっ、終わった。どうだね、人を助けた気持ち」 『ドタリ、バターン』倒れる音 男「先生、先生っ。しっかりして下さい」 B「あー、今度はこっちの番だな」 男「へっ」 B「鏡を見ながら、自分で自分を手術する。局所麻酔で簡単な手術なら可能だ」 男「でも」 B「もっとも、お前がこの大きな鏡を私に見えるように支えていてくれればの話だが。どうする。それとも憎い医者を殺す絶交のチャンス」 男「しっかりして下さい、先生。鏡持ってます」 『ガチャリ、ジーーーッカラカラカラッ、ジーーーッカラカラカラカラッ』ダイヤルを回す音 B独白「三度目の電話」 男「もしもしっ、警察ですか。殺人未遂です。犯人は俺。今から自首します」 【-完-】 |
感想・他…旧コミックス巻5第44話「電話が三度鳴った」。この犯人の行動だが、ブラックジャックに手術頼んで頼んでそれでも断られて母親が死んだならいざ知らず、これは自分達姉弟がどうやってもお金の工面が出来ずに死なせた事に対しての自己嫌悪をそのまま憎しみに変換した結果だろう。医療費の社会問題の象徴としてのブラックジャック=医者を狙うのだから、この行動は明らかにテロルであろう。この犯人は歴としたテロリストである。 |
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