第話『白葉さま』

劇中台詞 【B=ブラック・ジャック 白=インチキ宗教の教祖・白葉さま 子=患者の少年 父=患者の父親 医=医者 ト書きB=ブラック・ジャックが状況説明、第一部ではブラック・ジャックギャング団の担当】

白「たたりじゃ! この子は蛇を殺した事があるに違い無い。その蛇の怨念が取り憑いて、お前の息子は畜生道に堕ちたのじゃ。私には見えるぞ! この子の体は蛇の呪いが十重二十重に巻き付いているのが」

父「白葉さま。どこのお医者様にも見放され、この子を救って下さるのはもうあなた様より他ありませんだ」

白「この霊を取り去るには霊水の力を借りねばならん。だが、それも一生掛かっても無駄かも知れぬ」

父「おお、お願げえでございますだ。どうかそれを、霊水を頂かせて下さい」

B「お止めなさい。こんな只の井戸水にこんな高い金を払うなんて」

白「だ、誰じゃ!」

B「私です」

白「ハッハッハ、知っておるぞ。ブラック・ジャックとか言う欲の深いモグリの外科医じゃな。何の用じゃ」

B「あちこち病気の家を回って、いい加減な祈祷をしては金を巻き上げている、白葉さまとかいうインチキ教祖を探しに来たのさ」

白「インチキではない。この世には医者には治せない病が幾らでもある。それを治すのが私の役目」

B「ほおーお、医者に治せない病ね…。それじゃどうだろう。一つ賭けをしようじゃないか。私がこの坊やの病気を治せるかどうか。もしも私が失敗したら、あんたの前に土下座して謝って、この病気が蛇の祟りだと言う事を認めよう。どうかね?」

ピアノ転調

『ジリリリリリーン、ジリリリリリリーン』電話のベル

『カチャッ』受話器を取る音

B「そうか、水死ね。で、体に傷は?よし、いいだろう。その坊やの遺体を使う事にしよう。二時間以内にこちらへ来れば手術に使える。御両親に良くお礼を。御協力に心から感謝します、とね。じゃ」

『カチャコン』受話器を置く音

医「先生、本当におやりになるんですか?魚鱗癬の子供の治療に全身の皮膚移植なんて」

B独白解説---魚鱗癬。先天的な皮膚病の一種。子供の頃から皮膚が固く厚くなり、ひび割れが出来て鱗の様になる。現在の医学では原因も判らず、根本的に治す方法も無い---

B「仕方が無い。この子は魚鱗癬という歴とした病気で、決して蛇の祟りじゃない事を証明するにはこのやり方しか無いんだ。今度の手術は失敗は許されないる何しろ患者は二人なんだから」

医「患者が二人?」

B「さっ、手術の支度をして下さい」

医「判りました」

木琴の転調。

父「先生様が手術なさってから、かれこれ1ヶ月になりますだ。その間ワシは一度もあの子に会わしてもらってません」

白「フン、そうであろうとも。蛇の呪は解けはせぬ。あんな手術をしても無意味じゃ。病人は治らぬ。今日こそあの医者の化けの皮を剥がしてやるからな」

B「いやあ、お揃いでお出掛けだな」

父「どうもですだ。先生。家の子は無事でしょうか?」

B「それは御自分で確かめられるといい」

子「父ちゃあん」

父「坊、ぼ、坊、坊おーっ。お前本当にすっかり良くなっただな」

B「ほんのわずか縫合の跡が残ったが、前の鱗よりは目立たないだろう」

父「坊〜〜っ」

子「父ちゃん」

医「いや、全く奇跡としか言い様が無い。全身の皮膚移植なんて、よくもまあネフローゼを起こさず。あの病気を外科手術で治すなんて、恐らく世界に例が無いでしょう」

B「だろうね。何しろこの私も初めての経験だったから」

父「先生様。全く何とお礼を申し上げて良いやら、グズッ。手術料はオラが一生掛かっても必ずお支払いしますから」

B「いや。手術料はいりません」

父「へっ?」

B「それよりついでがあったら、お宅のお子さんに皮膚を提供してくれた坊やのお墓にでも、お礼に行ってあげて下さい」

ピアノ転調

『トントンッ』ドアをノックする音

『トントンッ』

B「どうぞ」

『ガチャッ』

B「いやあ、とうとう来たね」

白「先生」

B「今夜は来るだろうと思っていた。そう、あんなインチキ臭い巫女の格好よりも、そうした普通の娘さんの服の方があんたにはずっと良く似合う」

白「先生」

B「私がどうしてあんたを追い掛けていたか知っているかい?実は友人の医者からあんたの御両親を紹介されてね。あんたはその医者の患者だった。そうだね。…だが、あんたの病気は治らなかった。絶望したあんたはヤケクソになり医者を呪い、インチキ教祖に成り下がってしまった。御両親はそんなあんたをどんなに心配している事か。さあ! 腕を捲って見せてご覧。あんたの魚鱗癬はあの子のよりずっと軽い」

白「ううっ、ああっ、うっひっく。(インストゥルメンタル流れる)先生っ、ひっく、診て下さい。先生にならば治せます。私の病気」

B独白-病気の恐ろしいのは、体が病気になった時に同時に罹る心の病気だ。それはしばしば、医者にも治せない-

【-完-】

感想・他…旧コミックス3巻第24話「白葉さま」。これだけ読むとブラック・ジャックは確かに凄いけど、部位=オルガンとか皮膚等。を(今回は)全身の皮膚を提供した子供の家族の思いについて今考えさせられる。ドナーが幼い子供と言うのは難しいと思う。この場合家族は自分の子供の一部が他人の中で生き続ける、と思わないと出来ないだろう。でもそこに行くまでにはかなり葛藤を感じると思う。他人の体をもらうって考えると、それは凄い事で奇跡でもあるんだなあ。貰った方は感謝し続けないとダメだと思う。嘘か真か判らないけど、角膜移植を受けるのはは年寄りが多いし、しかも年寄りだから耐久年数がすこぶる悪いから何度も…、って聞いたんだけど本当かな?もし事実でかね持ってる年寄りがそれにもの言わせてやってるんなら世も末だな。

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