第1話『雪の夜ばなし』 劇中台詞 【B=ブラック・ジャック 男=患者の息子 女=患者の娘 ト書きB=ブラック・ジャックが状況説明、第一部ではブラック・ジャックギャング団の担当】 |
B「暑い、…。そこで冬の話。怪談だ。信じるか信じないか、それはあんたの勝手」 『ヒュ〜〜ヒュ〜、バタバタ』風の吹き付ける音 ト書きB---吹雪の晩。ブラック・ジャック、家に独り--- 『トクトクトクトクトクッ…』酒をグラスに注ぐ音 B独白「苦い酒、よかろう。甘い酒はご免被る」 『ビューービューー』風の音 『トンッ、トンッ』ドアを叩く音 『トンッ、トンッ』再び叩く音 B「誰だ?」 『トンッ…、トンッ』ノックの音 『ヒューーヒューー、トンッ、トンッ』 B「鍵は掛かっちゃいない。勝手に入りな」 ト書きB---吹雪の夜、訪問者は勝手に入って来た。ドアからでは無く、いつの間にかウイスキーグラスを傾けるブラック・ジャックの真後ろに--- 男「僕達、ここです」 女「こんばんわ」 B「誰だ! お前たち」 ト書きB---青白い顔をした二人連れ。若い男と若い女--- 男「先生、一つ」 女「ママの手術をお願いしたくて」 男「お礼は十分致します」 女「私たちにとっては掛け替えの無いママなの」 B「私は正規の医者じゃ無い。急患なら町の医者に行ってくれ。どうしても私に看て欲しいのなら、手術料は現金で三千万円」 男「折角ママを連れて来たんです。又連れて帰るまでに母はもう間に合わなくなります」 女「先生」 B「現金払い」 男「お金ならあります。三千万円」 『バサッ、バンッ、バタン』お金を置く音(?) B「で、患者はどこに?」 男「ほら、そのベッドの上」 『ピュービュウーウ』風の音 ト書きB---部屋の隅に置いた急患用ベッド。だが、その上には誰も居やしない。若い女、その無人のベッドの枕に顔を寄せ--- 女「ママもう大丈夫よ。先生が手術をして下さる。元気を出して。死んじゃダメよ」 B「俺をからかう気か?」 男「いいえ、からかうなんてとんでもない。ママは首の骨が折れてるんです。さあ、先生。早く手術をお願いします」 〜手術時の効果音前作より変わらず〜 B独白「手術、奇妙な手術。二人はまるで狂っているが、三千万円の札束は本物だ。仕事は仕事だ。手術道具を煮沸消毒し、ブラック・ジャックは無人のベッドへ向かう。誰も居ないベッドの上にメスをかざす--- 」 男「先生、違いますよ。ママの居るのはもっとベッドの右側です。そんな所を切っても誰も居ません」 B「うるさいっ、私は外科医だ。手術の専門科だ。横からごちゃごちゃ口を出さないでもらいたい」 『カッチン、カッチン、カッチン』時の経過を示す秒針を刻む音 B独白「… 汗、凍てつく夜に。すきま風の吹きすさぶオンボロ小屋。それなのに汗! …いくら馬鹿げた手術ごっことは言え、一旦引き受けた仕事は手を抜く訳には行かない。幻の全身骨折、内臓破裂の患者に次々に処置を下して行くブラック・ジャック。その額に汗…」 『カッチン、カッチン、カッチン』 B「いよおし、終わった」 男「ありがとうございます」 女「先生、ママは助かります?」 男「おい、そんな失礼な事を言うんじゃ無いよ」 B「ハッハッハ、思いの外上手く行ったよ。十中八九は大丈夫だ。所で、患者のカルテを作らにゃならん。一応身元と事情を話してもらおうかな」 女「ママは松本アヤ、45才。私たちはその子供でエイジとマチコです」 男「良いママです。世界中にこんなに美しくて優しいママは、他にはありません」 B「余計な事は言わずに。住所は?」 男「東京都千人町1の1の3、黒沢アパート内」 B「東京?わざわざ東京から患者をここまで?」 女「いいえ。東京を発つ時には、ママは怪我なんてしていませんでした」 男「僕達お金を貯めて、ママを北海道旅行に連れて行くのが楽しみだったんです」 女「やっと費用が出来て、7泊8日の旅行に出掛けたんです。ママは本当にうれしそうでした」 男「ところが、飛行機に乗ってここの上空に差し掛かった時、この近くの基地から飛び立った自衛隊機が、僕達の旅客機にぶつかっちゃったんです」 『キイーーーン、ヒューーーーン、グワッシャーン、ボガーン、ブオーッ』旅客機と自衛隊機がぶつかり爆発炎上する音 ト書きB---窓の外、山の梺。町の辺りがボーッ明るい。炎。町が火事だ--- 男「僕達先生の事を聞いて、ママを治してもらおうと思いました。でもママの体は燃えてしまって-」 女「仕方無いからママの魂だけをここに運んで」 B「ママの魂!? すると君たち」 『ヒューウーウ、ピューー』ひときわ風の音高く 独白B「…振り返ったブラック・ジャック、二人連れはもうどこにも居ない。飛行機事故は本当で、間もなく家の中は次々に担ぎ込まれる本物の怪我人で一杯になる。その中に焼け死んだ母親の手術を頼みに来た兄妹達の姿は無かった。それでは手術料の三千万円は?さあ、そいつはブラック・ジャックに聞いてくれ」 『ビュー、ビュオーー、ビューーーー』 【-完-】 |
感想・他…これを放送した時期が夏だったので、最初に『暑い』と言っているのであります。旧コミックス2巻第13話「雪の夜ばなし」。ドラマでは結末もショートショート風にまとめている。この結末によりブラック・ジャックの得体の知れ無さ、みたいなものも出ていて本当の怪談の様だ。本当に夏に聞くといいかもね。 |
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