『第11話・ふたりの黒い医者』

劇中台詞 【キ=ドクター・キリコ B=ブラック・ジャック ピ=ピノコ 母=患者 息=患者の息子 娘=患者の娘 医=患者の入院先の医師 ギ=ブラック・ジャックギャング団】

『コツ、コツ、コツ、コツ』足音

ギ「黒ずくめの男が歩いて行く」「長い髪の毛」「片目に黒い眼帯してる」「とんがった顎」「薄い唇」「笑ってる様な」「泣いている様な」「オムカエデゴンス」「あいつの名前は」「(皆で)ドクター・キリコ」

『コツコツコツコツ』足音

『カチャ、キィーィ』ドアを開ける音

母「キリコ先生…来て下さいましたのね。どうか、…私の頼みを聞いて下さい」

キ「訳をお聞きしましょうか」

母「二年前です。家の中にトラックが飛び込んで来て、背骨を折り…それから体を戻す事ができません。ずうっとこうして寝ているだけ。……あたしの体はもう治らないんです。あたしの看病に明け暮れ、働いた収入も全てあたしの入院費に消えてしまう、不憫な子供の事を思うと可哀想でならないんです。この先ずうっと苦労をかける位なら、いっそお願いです。そっと判らない様に死なせて下さい」

キ「安楽死の代償は百万円と言う事に」

母「ここに、五百万円の生命保険が。お願い」

キ「結構! いつがよろしいかね?」

母「いつでも…」

キ「明後日の晩にしよう。方法は私に任せてもらう」

母「はい…」

ピアノ激し目の場面転換音

ギ「もう1人の医者がいる」「黒ずくめ」「黒マント」「御存じ」「(皆で)ブラック・ジャック! 」「お待たせでゴンス」

ギ(娘役=娘)「ママを助けて下さい」

ギ(息子役=息)「普通の医者じゃダメなんです」

娘「先生しか手術できないんです」

息「これは僕達が二年間働いて貯めた百万円です」

娘「どうか、そのお金でママの手術をして下さい」

息「ブラック・ジャック先生」

医「どうだね?言った通りだろう、ブラック・ジャック君。あの患者は首が微かに動かせるだけで、寝返りさえ出来ないんだ。これがX線像だ」

B「第六頚椎と第八胸椎」

医「それに第三頚椎にもヒビが入ってるだろう?下手に触れば呼吸麻痺を起こす。君が幾ら世界的に有名な天才外科医でも、これだきゃ無理だ。君が無免許の医者だと言う事を別にしても、止めといた方が君の為だ」

B「オペは明後日の晩」

医「えっ、何、ややっ」

B「立ち会ってくれるんだろうね?」

医「しかしっ…」

B「あんたに迷惑は掛けんよ」

医「えっ、どこへ、待ってくれ、…はれっ?」

ギ「あっという間に」「明後日の晩」「お手軽でゴンス」

『コツコツコツ…』足音

『カチャ、キイーィ』ドアを開ける音

母「どなた?」

キ「約束の時刻だ。では始めよう」

『パチン、パチッ、カチャ』アタッシェケースを開ける音

母「何ですの?それは?」

キ「これは言わば安楽死の為の道具です。この電極を後頭部に当てて、ゆっくり超音波を出す。すると人間の延髄はゆっくりと麻痺して行く。苦痛は無い。眠くなり、夢現のうちに呼吸中枢が機能を停止し、そしてあんたは最期に息を引き取ると言う訳だ。絶対に判らない。誰の目にも、自然死に見える。では始めよう」

母「ええ…」

『ピコーン、ピコーン、ピコーン』機械の音。

キ「どうかね?」

母「何だかボーッとして、段々と夢心地に…」

キ「そうだ。あんたは眠い。夢を見ながら静かに眠る。ゆっくりと最期の時を味わうがいい」

『ガチャッ!! ドタ、バタン』乱暴にドアを開け入る音

キ「誰だッ! …ブラック・ジャック」

B「キリコ、貴様か」

キ「静かにしてもらおう」

B「そうはいかん! この電極は外させてもらう」

キ「俺の商売の邪魔をしようって言うのか、ブラック・ジャック! 」

母「なあに、どうしたの?」

娘「ママッ! イヤイヤッ。何て言う事をするの! 」

息「ブラック・ジャック先生が手術をしてくれるって、来てくれたんだよ」

キ「そうはいかんぞ」

B「いいやっ! お前は引っ込んでいてもらおう。死に神の化身と言う殺し屋さん」

キ「ダメだ。俺はこの子達の母親とちゃんと契約してしまったんだ。俺は契約を反古にした事はないんだぜ。知っているはずだ」

B「百万だ。ここに置く。もし俺の手術が失敗したらお前が取れ。だが、俺がこの患者を助けたら俺のものだ」

キ「ンッフッフッフッフッフ、…よかろう」

ギ「手術! 」「(皆で)開始ッ!! 」

医「麻酔良し」

B「まず第三頚椎を切開し、脊髄神経根を点検・修復。その後、第六頚椎、第八胸椎の椎弓を切除」

医「気を付けて」

B「気づかいは無用だ」

不穏な雰囲気を出すBGM

B「ルウエル鉗子」

医「君、呼吸麻痺が起こったらお終いだ」

B「うるさいっ」

医「ああっ!」

B「あー?」うるさそうに

医「ああっ!、だ!、いっ!、うっ!」

B「ああっ?」キレぎみ

医「静かにするから……、ごめん」

…無音

息「惨いじゃ無いか! こんな機械で人の命を」

キ「惨いか、そうかね?俺は元軍医でね。戦場で体を半分吹っ飛ばされても、それでも死ねないで苦しんでいる怪我人をうんざりする程見た。そう言う人間を穏やかに死なせてやると皆凄く喜ぶんだ。『ああ、お陰で楽になります』ってな。誰も彼も俺に心から感謝して死んで行った。それ以来-」

娘「神様! どうかママを助けて」

キ「神様だって無理に救うつもりはないはずだぜ」

『カチャッ』ドアの開く音

キ「終わったらしい」

息「先生! ママは?」

娘「どうなの?助かるの?」

B「ギプスが取れたら運動の練習だ」

息「先生ッ! 」

娘「お兄ちゃん」

B「キリコ」

キ「あ〜あ、お泪頂戴の場面って奴ぁどうにも性に合わん。じゃあな」

『ゴ〜〜〜〜〜ン』寺の鐘の音

ギ「しばらく経った」「風の寒い日だった」「黒いお医者と」「もう1人の黒いお医者が出会った」

キ「よおー、ブラック・ジャックまた会ったな」

B「何か用か?」

キ「あの患者どうした?」

B「心配無用だ。今日回復訓練の為に別の病院に移す。無駄足だったな」

キ「フッフッフッフ、だからと言って俺はあんたに兜を脱いだつもりはない。これからも頼まれれば幾らでも死なせて歩く。生き物は死ぬ時には自然に死ぬんだ。それを人間だけが無理矢理生き延びさせようとする。どっちが正しいかねェ。ブラック・ジャック、また会おう」

医「おうい、ブラック・ジャック。え、えらい事になった」

B「どうした?」

医「あの患者が死んだ」

B「なにっ?死んだ。バカな、そんなはずはない」

医「病院車とトラックが衝突したんだ。親子もろとも死んだんだよ」

B「なんてこった、…ちくしょう」

キ「聞いたか! ブラック・ジャック、ハハハハハハハ…」

B「俺は。いや、俺は治す。自分が生きる為にな。俺は治す! 」

キ「ハッハッハッハッハ、アッハッハッハッハ…」

『ヒュー』木枯らしの音

(インストゥルメンタルが短く流れる)

【-完-】

感想・他…母親が青息吐息で喋ってるんで=患者だから仕方ないけど、本当に極小な声をボリューム最大で聞いてる為に雑音もMaX。耳が痛い、脳みそ沸騰しそう。結構辛い作業かも知れん。まあ、ぼちぼちやりますんで。本当は岸田森がドクターキリコっぽいなあって最初思ってたんだけど=容姿的にw、このラジオドラマだとキリコの方が声質が乾いてる感じだし=キリコ痩せぎすだから声のイメージとしてはぴったりだ。対して岸田氏の声は正統派っぽいのでブラック・ジャックだな。ちょっと変人ぽく演じている岸田氏のブラックジャックは嵌り役だと思う。この声聞いているとたまに「斬り抜ける&俊平一人旅」=好きで再放送も録画したんだけどなぁ。正臣さん目当てで見てたのに最後誰が主役か判らんって程の怪演がすさまじい、を思い出す。岸田氏は実にカッコ良く好みの人だった。色んな意味で←テープが奇跡的に残ってた理由w

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