『第五話・二度死んだ少年』

劇中台詞 【ゲ=ゲーブル医師 B=ブラック・ジャック ハ=ハリー 助=助手・男 記=記者・女 ギ=ブラック・ジャックギャング団】

(パッパー、クラクションの音、ざわめき街中の様子)

ギ「ニューヨーク」「アメリカです」

『カンカンカン---、』鉄製の外階段を昇るような音それが『バタバタバタバタ』と足音がハッキリした音に変わる

ハ「ハアハアハア---」(と激しい息遣い。カンカンカンと尚も昇る音)

ギ「逃げる」「黒人の少年」「ハーレムの中」「古いビルの非常線」「 オムカエデゴンス」「追う」「警察官」「ピストルを構え」「少年を追い詰める」「少年の名前は」「《皆で》ハリー! 」「夕べ飲んだくれの父親を殺した」「ビルの屋上」「ハリーはもう逃げ場が無い」

『カンカンカンカンカンカン----』

ギ「あっ! 」「ハリーが」「ビルから」「飛び下りた! 」

ハ「ハァアアアアアアアーーーーッ!

(木琴で場面転換の音)

B「ああ、私です。ブラックジャック。ああ、そのニュースならさっきテレビで見ました。さあ、私は休暇でアメリカに来ているんでネ。その少年は自殺したんでしょ?だったら死なせてやれば良いじゃ無いか。私には関わりのない事だ。では、」

『がちゃーん』と黒電話の受話器を置く音

B「いやあ、失礼しましたゲーブル先生」

ゲ「流石わブラックジャック君だ。こんな所まで仕事が追い掛けて来るとはね。でっ、何だって?」

B「自殺した犯罪者の蘇生手術です。ハリーと言う黒人の男の子だそうです。まだ脳波の反応があるらしい」

ゲ「ウーム、で?」

B「断りました。日本でもアメリカでも警察の仕事と言うのは支払いが渋くていけない」

ゲ「ブラックジャック君。どうやら君と会ったのは間違いだったらしい。手術の天才と聞いていたんで、是非一度ゆっくり話が聞きたいと思っていたんだが…」

B「どうしたんです?ゲーブル先生。そんなに急に…」

ゲ「どうやら君は私の一番軽蔑するタイプの医者らしい。金づくの医者。失礼するッ! あっ、済まないが警察へ連絡を取っておいてくれないかね」

B「えっ?」

ゲ「ハリーの蘇生手術は私が担当すると伝えてくれたまえ、じゃっ」

(手術前の緊迫した効果音)

ゲ「イイかね、心臓が止まって瞳孔が開いても、それでも人間は死んだとは決められない。この患者の場合がそうだ。御覧。この様に微かではあるが脳波の反応がある。つまりハリーの脳は、あー、まだ生きている。真に微かではあるが、この少年には生きる可能性が残っている訳だ。人工呼吸、心臓マッサージ、それに外科手術。あらゆる手段を試みてその可能性を実現しなければならん。それが医者の務めだ。例え犯罪者のものであろうとも、人の生命は尊いものだ。決して金銭等には還元出来るものでは無い。いぇ、ああ、それではオペレーションを始めよう」

『カッチンカッチンカッチン---』ストップウォッチの効果音、BGM的に

ゲ「大腿骨折はパウエル第三度、スミス・ピーターセン三翼針で固定しよう」

助「先生! 脳波が弱っています。しかもどんどん微弱になっています」

ゲ「あ、諦めてはイカン。必ず生かしてみせるぞ。心臓マッサージを続けて。それからカンフルを、早く!! 」

助「心臓が停止しました。脳波もありません」

ゲ「目覚めさせるんだ!! 」

助「ダメです。もうダメです」

ゲ「ダメとは何だッ! 私は今まで一度だってダメと言う言葉は使わなかった。脳波が止まっても脳死とは限らん」

助「生体反応が消えました。手術を続けますか?」

ゲ「うるさいッ!!

助「ゲーブル先生…」

『カッチンカッチンカッチン-----』

ゲ「ああー、術式中断。心臓マッサージを続けるように。…少し休む」

『カッチンカッチンカッチン---』場面転換のピアノの効果音

ゲ【受話器の向こうでの声】「ブラックジャック君。何も言わん。至急警察病院まで来て欲しい。患者が死にかけている。君に手術を手伝ってもらいたいんだ」

B「一つだけ条件がありますけど、聞いて頂けますか?」

ゲ「おお、言ってくれたまえ」

B「この手術はあくまで先生の責任に於いて行われた事をハッキリしておく事。つまり、私の名前は出さないで頂きたい」

ゲ「も、勿論だよ。患者が死んだら責任は私が持つ」

B「いいえ、患者は絶対に死なせやしませんよ。私にだって医者の意地はある。ああ、それから手術料は現ナマで二千万円。御用意頂けますか?」

ゲ「二千万円!? と言う事は、八万ドル! 」

B「死人同様の人間1人生き返らせようッてンだ。そんなに不当な値段とも思えませんがね」

ゲ「分かった。私が払う。では急いで」

(再びピアノの転換音)

『パチパチパチパチパチ-----』拍手の嵐

ゲ「ああ、有難う諸君。たった今手術は終わり、ハリーの生命を取り留めました」

『パチパチパチパチパチパチ------』

記「ゲーブル先生、早速ですが御感想を一つ」

ゲ「十数時間に及ぶ大変に困難な手術でした。この手術を通じて、私は改めて人間の生命の尊さを教えられたと思っています」

記「先生がこの手術をお引き受けになった動機は何ですか?」

ゲ「動機も何も。医者として当然の務めを果たしたまでです。目の前に死にかけている人間がいる。それを救う為には殊更動機はいりません。そ、それでは諸君。私は疲れているのでこれで」

記「どうも有り難うございました」

『パチバチパチパチパチパチ------』

(木琴の場面転換音)

『カンカンッ! 』木槌の音

裁判官「静粛に! それでは判決を言い渡す。合衆国法廷は被告のハリー・ジェームスの有罪を認め、正義の名の元に、ここに死刑を宣告する」

ハ「ううっ、イヤだ、イヤだ、イヤだ〜〜〜〜〜〜ッ!

(ピアノの転換音)

ゲ「ああ、悪かったねブラックジャック君。帰国の準備で忙しい所を呼び出したりして」

B「構いませんよ。どうせ気侭な一人旅です」

ゲ「一言お詫びがしたくてね」

B「お詫び?」

ゲ「ハリーの手術の事だ。今んなって君が、あの手術を断った訳が、判るような気がするんだよ。あの少年を蘇らせたのは、間違いだったのかも知れない。いや、確かに私は恐ろしい間違いを犯してしまったのだよ」

B「ゲーブル先生」

ゲ「んっ?」

B「あなたは信念がおありになった。人の命はいかなる場合にも一番尊いものだ。それでイイんじゃありませんか?私には先生の様な信念が持てなかった。どちらが正しいとか、間違っているとかって事じゃない。答えは誰にも出せやしませんよ。それじゃ、飛行機の時間がありますから」

ゲ「ブラックジャック君」

B「何です?」

(テーマ曲インストゥルメンタル流れる)

ゲ「また来てくれるね。君と一晩、話し合うのを楽しみにしているよ」

B「私もですよ。ゲーブル先生」

【-完-】 

次回は「ピノコ還る」をお送り致します。

感想・他…う〜む、聞き直すとかなり話数が飛び飛びになっている。これはっ!!  理由として考えられるのは……単純に取り忘れた。野球中継で伸びたので止めた。9時からだったのでテレビを見てしまったので取れなかった=当時ビデオデッキは開発されていないし、ラジオも時間予約録音等無いのであしからず。もしくは音楽テープ=ベストテンとかトップテンを見ていないとハブられたので、ラジオから歌謡曲を録音して必死に覚える為に、録音したものがたくさんあったので、ごちゃ混ぜになって録音してしまい見つからなくなった。等等が考えられます。アハハハハハ、ハァ〜。まっ、仕方ないな、ドンマイwww
これは少年チャンピオンコミックス2巻第17話に収録。原作とは少し違います。ゲーブル医師は自分の名誉の為に引き受けて、にっちもさっちも行かなくなりブラック・ジャックに助けを求めます。言いなりに金を払うので協力した事も黙っていて欲しいと言ったり。まあ、最後は患者が助かり面子が保たれブラック・ジャックに感謝する所は似てますが。ブラック・ジャックは法廷で
「殺す為に助けたのでは無い! なぜあのまま死なせてやらなかった!! 」とハッキリ言い切っています。そこの問いかけの部分が違う様ですね。

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