下へ続く形でお送り致します。


部屋の中は薄暗かったが、病人にはその方が良いだろうと
電気は付けないままで、 リプルはおずおずと声を掛けた。
「あの、お加減はどう?気分が悪くはない?もしお邪魔なら…」

「いや、邪魔ではないが、何か御用ですか?」

「あの、ごめんなさい。私の為に…」

「謝る必要は無い。これが俺達の仕事なんだ。当然の事をしたまでさ」

「だって、だって……」

「泣いているのか?」

「そうよ、悪い?」

「いや、少し驚いているだけだ。すまない、やはりこういう危険が
あると言う事をきちんと教えておくべきだったのかも知れない」

「そうね。わたくしだって、ちゃんと常識はわきまえているつもりよ。
きちんと説明してくれれば従うわ」

「聞き分けがいいんだな」

「そうよ、元々わたくしはそういう人間なの。なのに良く知りもしないで、
どうしてあんな事を言ったの?」

「あんな事って?」

「最初に会った時に、わたくしを"世間知らずで我がままなじゃじゃ馬娘"って言った事よ」

ストーンは思い返した。
『隊長、この任務が終わったら、隊長は連体の大隊長になられるかもしれませんね』
と部下が言った。
『まだ、わからんさ。それも、任務が上手く行けばの話だ』
と言うストーンの言葉を謙遜と受け取ったのか、もう1人の部下が言った。
『絶対に大丈夫っすよ、隊長なら。前のエールレインでの任務に比べれば
楽勝っスよ。でも、護衛の王女様ってどんな女なんでしょうね』
『さあな。良くは判らんが、大臣の娘と大差ないと言う事だからな、大方は
"甘やかされて世間知らずのわがまま娘"って所が相場だろうな』
その時、後ろで咳払いがし、旅団長が姿を現わしたのだった。
皆一斉に敬礼した。
『よし、休め。ストーン、紹介しておこう。この方が君の警護のお相手である
リプル王女だ』
『よろしく』
と差し出された白い手に、ストーンは思わず自分の手を服でこすってから差し出した。
王女が近付き、ストーンは"なんて碧い眼なんだろう! "と思って見とれていると…
『!?うあちっ』
『あら、足を踏んでしまいましたわ。ごめん遊ばせ! 』
とリプルはにっこりと笑った。
後で見ると甲の部分に、ヒールの跡がクッキリと付いていた。
その時に"なんて、気の強い女なんだ"と呆れたのも思い出した。

(ああ、あの時の事か…俺は"じゃじゃ馬"とは言っていないはずなんだが…
多分そう言われ慣れてるんだろうな)
「それは言葉の綾ってやつで、その。つまり……悪い。実は偏見で見てたんだ。
俺は代々庶民の出だから、王族と言うものを知らないんだ。しかし、あの辺りに
いる貴族様やら、何やらはよく警護に行かされるので知っている。はっきり
言って傲慢な人種だ。兵士を人とも思っていない様な態度で、それが
普通だと思っている。だから、てっきり君もそうだと思ったんだ…
悪かったよ」

「まあ、判れば良いのよ。…判れば」
リプルの口調がトーンダウンし、その感じがなんとなく素直だったので、
ストーンは暗闇の中で微笑んだ。

しかし、次のリプルの言葉はストーンの予測を超え衝撃を与えた。

「でも、やっぱりわたくしはそれじゃ気が済まないわ。あなたがわたくしの
ためにしてくれた、この事は決して忘れない。いつかきっとこのお返しはするわ。
そう、わたくしが"マリアナの女王"になった曉には…」

「女王に!?」
ストーンは驚いて病人らしからぬ素頓狂な声を上げた。

「勿論よ。だってそうでしょう?わたくしは第一王妃の第一子よ。帰国したら、
まずその当然の権利を主張するつもり。わたくしは絶対に女王になるわ」
と胸を張る様にリプルは言った。

ストーンは目まぐるしく考えた。
そうなると、状況はえらく違って来る。
この場合、マリアナでは和平以上にリプルの帰還を喜ばない者がいるはずである。
もしかすると、リプルを女王にと画策した者や、その事を知る者がいるに違いない。
手回しの良すぎるこの爆弾も"ただのテロリストの仕業でない"
と考えれば合点が行く。

「部下を呼んでくれ!」

「だめよ。安静にって、お医者様もおっしゃったわ」

「呼んでくれないなら、自分で行くしかないな」
とストーンは起き上がろうとした。

「止めて! 呼んで来るわよ。その代わり、大人しく寝ていてね」
訳がわからずリプルは部屋を飛び出した。

呼び集められた面々は、ストーンから事情を聞いて困惑した。

「これは正直、我々だけでは手に負えない事態になるかもしれん。
しかし、援軍を呼ぼうにも時間が無さ過ぎる。
仕方が無いので、念のために王女と宝石の件は別々に執り行なう事とする。
王女が狙われているとわかった以上、私はこちらを優先させる。
宝石はバイカー、悪いがお前に一任する。くれぐれも頼んだぞ」

「そ、そ、そ、そんな〜! 」
真っ青になりデッドは言った。
そして、シャイアン達を振り返ったが、彼らはわざと目をそらし
知らんぷりを決め込んでいる。
明らかに、先程の事を根に持っているのだ。

「皆さん、おねがい〜。僕を見捨てないで〜」
……



と言う事で、ストーン=困っているけが人の改めての頼み
(にしては、口調はかなり横柄なものだった)であったし、デッドは見捨てられた
子犬の様にぴったりとシャイアン達の側を離れそうも無いので、
仕方なく最後まで付き合う事になった。

翌朝、シャイアン達宝石運搬グループが下へ降りると丁度、

「おい、この電報ではアゲット隊長ではなく"あの"マーブル少尉が来るらしいぜ! 」

「うわっ! まずいな〜。そりゃ〜」

「しかし、ここへ来るわけじゃないだろう?構わんさ」

「それもそうだったな。しかしもし来てたら…ちょっとしたもんだったのにな! 」

「よせよせ! 二人の巻き添えを喰らうのはご免こうむるよ」

「うちの隊長と確か"同期"だったんだよな」

「そうそう。マーブル少尉って言ったら、"親父さんがあの鬼元帥"だろう?
うちの隊長が元帥お気に入りなのも、闘争心むき出しの原因らしいぜ?」

と兵士達が朝からかまびすしくやっていた。
その中のストーンの右腕らしい兵士はデッドを認めると

「聞いての通りだ。急きょ、宝石運搬役が別の将校に変更されたらしい。
午前中の列車でマーブル少尉が来る事になっている。今から急いで
出迎えに行ってくれ。ただし、呉々も失礼の無い様にな! 」

と、何か複雑な奇妙な表情で言った。
いぶかしく思いつつも、デッドはお馴染みのアタッシェケースを下げ
シャイアン、キール達と駅へと向った。

日差しは段々に高くなり、じりじりと焦げ付く暑さが今日の天気を保証している。
そのうちに汽笛一つを轟かせながら、列車がホームへと滑り込んで来た。
夏休みのバカンスをここで過ごそうという乗客が、その中からわらわらと降りて来る。
が、デッド達はそれらしい人物を見つける事が出来ない。
そして、そうこうしているうちにとうとう、断髪でドレス姿の旅行者風の若い女性が
列車から降りたのを最後に、客室からは誰も降りて来なくなった。

「いないですね〜? 直前になってマーブル少尉が届ける事になった
らしいんですが、あいにく僕は、彼の顔を知りませんから…」
不安そうに、デッドが周りを見回しながら歩いた。

「デッド・バイカー、出迎え御苦労! 」
とその時近付いて来て言う者がいた。



「!?」

「どうした?私がマーブルだ。早く割り符を出しなさい」
と毅然として先程の旅行者風の彼女が言った。

「あ、あなたが!?…すっ、すいません。僕あなたの顔を知らなかったものですから…」
と言い訳しつつも、デッドは急いでアタッシェケースを引っ掻き回し、割り符を取り出そうとした。
しかし、片手では不馴れなもので中身を地面にぶちまけてしまい、デッドは慌ててそれらを
掻き集めた。
それを見て、マーブルの厳しい顔が少し和んだ。
「私はあなたを知っているわよ、有名人ですものね。それはそうと
ストーンはどこにいるの?」

「実は、隊長は怪我をしまして…」

「何っ! それで具合はどうなの? 作戦は遂行できる状態なの? 」
再びマーブルの顔が険しくなった。

「えっ! あ、あ、大丈夫だと思います。実は昨日ホテルの王女の部屋に
爆弾が仕掛けられまして、いや、王女は無傷です。が、ストーン隊長が
その際に負傷したんです。隊長も幸い、動けない程の重傷ではありません。
ここへ来れないのは傷のせいではなく、そういうわけで王女の側を
離れない方がいいと判断した為です」

「それで、あなたも怪我をしているのね。で、ここへはあなた1人で来たの?
それとも、誰かストーンの部下の者が付いて来ているの?」
とマーブルは怪訝そうな顔をしてデッドを見た。

「いや、僕1人ではなくですね、この傷はええと、実はこの方達に協力して頂いてですね--」
と言い、怪我の事情もあってデッドはしどろもどろになりながら、
後ろのキールとシャイアンを見た。

マーブルは屈強そうなキールをじろりと見上げて、
「なるほどね、確かに下手な兵士よりは役に立ちそうな人達だわ。
でも、あなた方がストーンの使いである、という証明は勿論あるのでしょうね?」
と鋭く言った。
しかもさり気なく旅行鞄に隠れてはいるが、その手にはいつでもシャイアン達を
撃てる様に、と銃が握られているのがわかった。
シャイアン達は念のためにストーンの署名入りの手紙を持っていた。
本来はアゲットに渡す様に、と言われたいきさつを簡単にしたためてある手紙を、
マーブルに渡した。

「なるほど、この通りなら間違いはないようね。しかし、民間人の手を
借りるとは。全く! ストーンは一体どういうつもりなのかしらね!! 」
と彼女は不機嫌になったのを隠そうとせずに言った。

シャイアン達はやれやれまたか、と言う顔をした。
ストーンもそうだったが、人の手を借りる時(特に民間人)の軍人の反応とは
得てしてこんなものなのだろうか?

マーブルは大きなスーツケースからアタッシェケースを取り出すと、
「でも、まあストーンがそう判断したのなら仕方が無いわね…。
何をしているの、早くそのアタッシェケースをこちらに渡して。それが
本当の割り符なんだから」
とデッドに渡しながら言った。
そしてアタッシェケースを交換すると一つ敬礼をし、
「デッド・バイカーと割り符を確認。以降は厳重なる注意と保管を以て
無事かつ迅速に相手方に引き渡されん事を、任務の遂行と健闘を祈る。以上! 」
と言って、引き返す列車の中に再び乗り込んで行った。

その後ろ姿を見ながら、
「ふう〜ん、女の人だったんですね…だから兵士の皆さんの様子がちょっと
おかしかったのか! 」
とデッドは1人で納得している。

「あんたって、相当鈍いって言われてるでしょ?」
とシャイアンは、夕べのロレッタの口調を真似して口に手を当てて言った。

「ええっ、じゃあ、まさか。あの人もストーン隊長がお好きなんですか〜?」
と飛び上がらんばかりに、デッドが言う。
「どうして、どうしてそんな事がわかったんです?」

「ふっ、勘だよ。男の勘! 女の目や表情を気を付けて見ていれば、その心の中まで
見透かせるもんなのさ」
とシャイアンはカッコ付けて言った。
(しっかし、増々おもしろくね〜。あいつ=ストーン、ばっかモテモテでやんの!
くっそ〜! 今すぐ元の身体に戻れたらな〜。とほほ…←シャイアン心の叫び)




3人が宝石の受け渡しを済ませて戻ると、もう出発の準備は出来ていた。

ストーンの見送りの中シャイアン達は車に乗り込んだ。
「あたし達も途中までは、乗せて行ってもらうわよ。協力してあげた
んだからそれ位は当然よね」
とロレッタ達も乗り込んで来た。

「出発! 。デッド・バイカー、よろしく頼んだぞ」
とストーンが言い、デッドも
「わかりましたっ!!」
とお互いに気合い十分なのを確認するような大声で言った。

出発してしばらくすると、
「ねえ、最後に一目宝石が見たいんやけど」
とミラベルがデッドにねだった。

その言葉に反応してデッドはビクッと身を竦ませた。
「まさか、あなた方…まだこの宝石を」

「違う、違う。ホントにただ見るだけや」
と慌てて否定する。

「いいじゃないの。少しくらい見せなさいよ。減るもんじゃ無し…」
とロレッタも言う。
すると、
「ふっ、いいですか〜宝石の中には不用意に光に当てたりすると、退色
するものもあるんですよ〜。まあ〜ったくこれだから…」
と馬鹿にした様な間延びした口調でデッドは言った。

「悪かったわね、素人で。そんな一々見るのにも気を使わなけりゃ
ならない石なんて、あたしに言わせりゃ大したもんじゃないわよ〜だ」
と少し憤慨してロレッタはぴしゃりと言ったが、

「いえ、幸いこのツリーベルはそんな特性はありませんので
御心配無く」
とデッドは涼しい顔をして言った。

「あんたね〜」

「と、冗談はこれ位にして、もちろんお見せしますよ。
あっ、皆さんもどうぞ」
とデッドは周りの者に声を掛けた。

「ツリーベルと言う名前の由来なんですが、この原石のとれる様が
樹に吊り下がったベルのように見えるから、とも言われております。
泥棒に持って行かれたのも、歴とした正真正銘のツリーベルだと
いうのは御存知でしたよね。しかしっ!! 前にもお話したように、
あれとこれでは格がダントツ違うんですよ」
と言って、受け取ったばかりのアタッシェケースをパチンと開け

「これです、これが王家に伝わるツリーベル、通称"蠱惑の悪女"です」
とデッドは慎重にハンカチの上に宝石を捧げ持った。
「ふーーん、見た所カットは別にしても大きさも大した事無さそうじゃん」
と手を伸ばしたシャイアンを見て、デッドは慌てて引っ込めると

「とんでもない!、これはですね」
と言いつつ、宝石を窓から差し込む光に当てた。
すると宝石に反射する光が車内に広がり、それは初めは赤
そして黄、青と順々に水が流れてたゆとう様に色を変えて行った。

「これはなんと!! 」

「きれい〜」
「素敵だわ」
「こんないいもんが見られるなんて、まさに眼福だねえ」
とあまりの見事さに、女性陣もため息をついた。

「でしょう?カットと内包物のバランスらしいですよ。
わかりましたか、この宝石が珍重されるわけが。しかもここまで見事に
虹の様に七色に変わるものはそうそう、いやホントにないんですね〜」
とデッドは得意そうに言った。

「これ程の逸品だと色々といわくがありそうだな」
とキールが何の気なしに言うと、

デッドは
「ええ、実はそうなんです。これは女性が所有したり、
身に付けただけでも物凄く良く無い事が起こるそうです。
だから、代々"王にのみ"に受け継がれて来たそうですよ。
ま、あくまで、言い伝えですけどね……。
ああ、そうだ、良かったらこれちょっと付けてみます?」
と言いながら、宝石の付いたネックレスをロレッタ達の方へ差し出した。

「ちょっと! 今の会話は何なのよ。それでどうしてそうなる訳?」

「常識を疑うわ!」

「信じられないよ、全くもう!」
と当然デッドは女性陣から総スカンを喰らった。

「迷信だと思うけどなぁ…」
とデッドは心外とばかりにぶつぶつ言いながら宝石を仕舞った。



その3
「誰だい?」
カサンドラは気配に気付き、振り向き様に銃を闖入者へと
突き付けていた。

「あんたか…何の様?」
相手が仲間の男だとわかっても、カサンドラは相手を冷たく
見据えたまま銃も下ろさずにいた。

男は一瞬怯んだ様だったが、カサンドラが自分を撃たないのを
思い出し、途端に下卑た薄笑いを浮かべた。
「よせよ。銃を下に下ろしな。カサンドラ・ルースレス。
その名の通りに情け容赦無いな。だが、そこが気に入ってるんだ。
どうだ、そろそろ俺と一緒にならねえか?俺と組めば"怖いもの無し"だぜ。
おめえの親父さんもそれを願っていたんだ。な、いいだろう?」

「それは…それとこれとは、」

「おんなじ事だ! いつもいつも、そうやってはぐらかしてばっかりだ。
おめえ、まさか誰か他に好きな奴でもいるんじゃ無えだろうな?」

「いないよ、そんな奴! 」

「そうだろうな、よもやいたとしてもこの俺がぶち殺してやるさ。
わっはっはっは! 」

カサンドラはそんな男にムッとした様に
「出てッとくれ。あたしは今から着替えたいんでね」
と言った。

「遠慮しなくて良いぜ。俺には構わずやんなよ」
とにやにや笑いながら男は言った。

すると、銃で再び狙いを付けながら、
「見物料は高く付くよ。あたしの腕は知ってるだろう?
一生女を抱けない身体にされてもいいんなら、いいだろうよ」
とカサンドラは唇の端で笑って言った。

「わかったよ。今日の所は俺の負けだ。だが、そのうち
俺が勝つ事になるだろうよ」
と言って、男は忌ま忌ましそうに乱暴にドアを閉めた。

…そして、その頃もう一方のストーン組は…
またもや、不機嫌な王女と顔を突き合わせていた。

「どうして、自分の国に帰るのにこんなにコソコソと、泥棒みたいに
しなけりゃならないのよ! 曲がりなりにも、わたくしは王女なのよ!
それも王位継承第一候補の!! 」
と言ってストーンを睨み付ける。

「だから、何遍もお聞かせしているでしょう! あなたは命を狙われて
いるんですよ」

「だって、ここはもうマリアナ領なんでしょう?だったら…」

「命を狙っているのは、…断言してもいい、マリアナ国の者ですよ。
敵の懐に飛び込んでおいて、安心する馬鹿がいますか?」

「そんな…。じゃあ、あたくしは自分の国のもしかしたら家臣になる
かも知れない者達に狙われているって言うの!?ウソよ!ウソを付いて
るんでしょう!!」

「野蛮人の次は嘘つきですか?」
とすかさずストーンが言うと、リプルの顔がさっと赤くなった。

「だって、それはあなたが悪いんじゃないの…」
と消え入りそうな声で言った。



つづく

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