「御気分はいかがですか?」
「ええ、いいえ、…大丈夫です」
時折声を掛けてはみるものの、それ以上会話は弾まず護衛隊長の
"ストーン"は増々気まずくなる雰囲気をどうする事も出来なかった。
というのも、彼が『どうせ世間知らずのわがまま娘』と言ったのを
当の本人に聞かれてしまった為だった。
ストーンはこの任務に乗り気ではなかった。
確かに彼の経歴からすれば、この仕事は大抜擢とも言えた。
しかし、普段は新米の兵士を実地の訓練で鍛える事に従事していた彼は、
常に身体を動かし汗して働く方が性に合っているのだ。
(そういう男の常で、彼もまた隆々とした体躯の持ち主であった)
そんなわけで、今回の任務については畑違いの様な気がしてならないのだ。
(第一こんな狭い車の中で、俺にどうしろと言うんだ)
ストーンは馬を走らせ警護している部下達を見てうらめしく思った。
部下達は制服をきちんと着こなし、しゃちこばっているストーンを
珍し気に見ては、にやにやしている。
さしずめ、"鬼隊長もかたなしだな"、とでも思っているのであろう。
ストーンは息苦しさを覚えた。
襟首の辺りは妙にむずむずするし、やたらと汗も出る。
ふと、 車内にその匂いが籠らないかと気にもなる。
相手は何を考えているのか、口をへの字に結んで澄ましている。
彼は極度に緊張し続けていた。
ようやく待ち合わせのモラトリアムタウンへ着いた時には
ばんざいと叫んでしまいたい心境だった。
車から降りると
「あ、あ〜〜っ」
と声を出して、大きく両手を上げ伸びをすると、思いきり
息を吸い込んだ。
「ふう〜っ」
と同時に横から変な声がしたので見てみると、王女も繰り返し
深呼吸をしていた。
同じ様な事をしていたので、 二人は顔を見合わせて笑った。
それはごく自然な微笑みだった。
しかし、それを見た部下達は
「隊長、お疲れ様です」
とわざとらしく二人の所へ来て言った。
ストーンは我知らず赤くなった。
そして、バツの悪さを隠す様に、部下の1人に言った。
「王女様を部屋までお送りしろ、後の者は整列。手順の確認と
指示を与える」
「ちょっと待って、!!」
と慌てた様にリプル(王女)が言った。
「何か?」
怪訝そうにストーンが尋ねると、
「わたくし、少し街を見物したいんですけど…」
とリプルは澄まして言った。
「それは許可出来かねます」
厳しい表情でストーンが即答した。
「なぜ?ですの。今まで、窮屈な思いをして来たんですから、
少しくらい構わないんじゃないのかしら」
と少し奮然として、リプルは言った。
すると、ストーンは
「王女様、これは遊びではありません。あなたは御自分の
立場というものを、あまり真剣には認識していらっしゃらない
様ですね。ふらふらと外へ出られるとそれだけ危険が増えるし、
正直申し上げますと、我々の仕事をこれ以上増やさないで頂き
たいのですよ」
と決めつける様に言った。
リプルは
「まあ、!! 」
と絶句したきり、足音も荒くホテルへと入って行った。
「隊長、なんで王女様に『命を狙われているかも知れないから、
一歩も外へ出るな』って、言ってやらなかったんです?」
「余計な心配させてどうする?それを防ぐのが我々の任務だぞ」
「そうでした。しかし…」
(あの言い方では、隊長が悪者っぽいじゃないスか)
と部下は心の中で思った。
「わかってる」
それを見透かす様にストーンは言った。
その2
「ちょっと、まだなんですか?もう時間的に見ても向こうへ着いて
いなければならないはずなんですよ!! 」
オロオロというよりイライラしながらデッドは言った。
「まさか、また、道を間違えてなんか…ないよな」
とシャイアンが引きつった顔でキールを見た。
「はっはっは、…そのまさかだ」
「でえーーいっ! いやっぱりだ。もう俺が運転する。止めるなよ、絶対に
俺がやるからな!!」
「おっ、落ち着けシャイアン」
とアイザックがなだめにかかるが、
「いいから貸せ〜」
と聞く耳を持たず、ハンドルを奪おうとした。
「よさんか、わっ!」
シャイアンの妨害に、思わずキールがアクセルを全開に踏んでしまった。
急発進に一同はバランスを崩して悲鳴を上げた。
「ちょっと、なんなのよっ!! あんた達大丈夫?」
と、ロレッタは前の方はシャイアン達に、後ろの方の言葉は後部座席のミラベル達に言った。
「ううっ、痛たたたっ!」
頭をどこかへぶつけたのかデッドが痛そうに押さえた。
「あれ、その傷はどないしはりましたん?」
とミラベルがデッドに聞いた。
乱れたデッドの髪の間からのぞく、こめかみの目立たない部分に生々しい傷跡があった。
「僕は一年前に、事故にあったんです。それからというものは本当はこういう
スピードの出る乗り物は見ただけでも、ムカムカして気分が悪くなるんです。
あ、それと乱暴な運転も嫌いですから。僕は常日頃から、こんな砂漠でも信号を
つけるべきだと思っているんですよ。なんてったって、"安全第一"です。
"狭いファルガイア、そんなに急いでどこへ行く! "ってね。そう思いません?」
と下手な交通標語の様な事を言った。
「ああ、あほらし」
とミラベルは思わず言った。
その時、
「やっぱり、行き過ぎているみたいだな。ほら、多分今ここら辺りを
走ってるんじゃないかと思うんだが」
とアイザックが、地図の上に飛び乗りある地点を指し示した。
目的地からは大幅にはずれている。
「ああっ、そんな! …皆さん、真面目にやって下さいよ。いいですか、これは前にも
言った通り額面通りの"命がけ"なんですよ。この事は、確かにわが
バイカー保険会社にとって"大口の御契約"です。大口の御契約には違いないのですが、
それに伴うリスクとして、もし万が一、いや一歩でも間違って、この輸送計画が
失敗したならば…」
「失敗したら?」
「まあ、当然"これ"だろうよ」
とキールが手で首を刎ねる真似をした。
「ふぅっ…、ま・さ・に、その通りなんですよ〜。だから、この僕が囮役を
やらされたんです。なんとしてもこれを先様へ届けなけりゃならない。
なのに、なのに…うっうっ、あなた方のせいで…」
「おいおい、泣くなよ。大の男がみっともねーなー」
とうんざりした様にシャイアンが言う。
すると、
「泣くな、ですと。みっともない、ああ結構!! 。どうせ僕は打ち首決定なんだ。
今更、取り繕ってどうなるんです?うわーーん」
と火に油を注ぐ様な結果になった。
「おい、シャイアン!」
とキールの複雑そうな表情を見て、シャイアンは破れかぶれの心境になった。
「うーん、仕方がないな。…おい、デッド。悪かったよ、俺達も最後まで
手伝うからさ、なんとか調印式までに宝石を届けようぜ」
「…ホントに?」
「ああ!」
「そうですか! それなら話は早い」
「おいおい、ちょっと立ち直りが早いんじゃないの」
と口元を引き攣らせてシャイアンが言った。
それから、皆は地図と首っ引きで、ああでもない、こうでもない、
と言いながら、ようやく約束の場所"モラトリアムタウン"へ着いた。
昔まだマリアナ領でなかった頃の事、ここにも戦火が押し寄せ逃げ込んだマリアナの
領主がかくまってもらい難を逃れる事が出来た。そのためにマリアナ領
になった時に、マリアナ家が支配している限りは税金を一時延期と言う形で、
免除されているのである。
「うっほー、さっすがスっゲー活気がある街だなあ!」
とシャイアンが感心して言った。
「にしても、兵隊さんの姿がやたら目に付くんだけど」
とロレッタが言う。
「デッド!! デッド・バイカー、か?」
いきなり呼ばれて、きょとんとしたデッドだったが、声の主を認めると
途端に慌てふためいた。
「あ、これはストーン隊長!? うひゃっ、遅れて申し訳ありません〜」
「む、その話は後だ。すまんが一緒に人を捜して欲しい」
「人を?一体誰を?あっ、まさか!」
「そのまさかだ! あのわがまま娘め、…」
「あわわ、…」
「人捜しなら、俺達も協力するぜ! 」
とシャイアンが割って入る様に言った。
「ありがたい申し出だが、民間人の手を借りる訳にはいかん」
と、厳しい表情のままストーンは言った。
「でも、俺達もう色々とややこしい事情を知ってるんだもんね」
「バイカー!!」
「ひゃー、スミマセン、すみません〜。ですが、これには複雑な事情が
ありまして、その〜」
「その男を責めないでくれないか」
とその横からキールが声を掛けた。
ストーンは改めてシャイアン達を値踏みした。
「ふん、確かに事情を知ってるなら、話は違って来るな。
おまけに、あんたらただもんじゃなさそうだ。処遇は後回しだ。
勿論、手伝ってもらう」
そして、バイカーを隅に呼んで、
「いいか、お前はあいつらと行動を共にしろ。四六時中見張るんだ。
そしてもし計画を邪魔する様なおかしな素振りを見せたら、これを使え」
「こっ、これは…」
デッドの手の平に短銃の重さがずっしりと掛った。
短銃をみつめて震えるデッドをしり目にストーンは
シャイアン達に指示を与え出した。
「それでは、諸君達には人捜しをやってもらいたい。年令19才、碧眼、
プラチナブロンド、身長160cm弱、やせ形、服装は不明。
が、腕にマリアナ家の紋章入りのバングルを装着している、名はリプル 。
見付かり次第、ホテル・メールシュトレームまで連行する様に。また、見付から
なくても、17時00までには同所へと集合する事とする。以上」
と言うだけ言うと、スタスタと歩き去ってしまった。
「なんや、えらい感じ悪ぅ〜」
とミラベルがふくれて言った。
「ま、まあ、皆さん。そう言わずに、お願いしますよ」
と拝む様にデッドが言った。
「19か〜、」
しみじみとシャイアンは言った。
「やれやれ、着く早々に王女様捜しとはな、」
とキールは目をつぶり首をふりふり言った。
「しいっ、声が大きいです。誰が聞いているとも限らない。
実はここだけの話、王女に"刺客が雇われた"らしいんですよ」
「刺客?それはまた物騒な話じゃないか」
「両国の和平を阻む者の仕業です。なんと罰当たりな、…。僕ら、いいえ
平和を願う国民達の団結を踏みにじろうとは言語同断!! こうなったら何としてでも
王女を守り、宝石を届ける。それが僕らに出来る使命なので…、ありっ!」
(「うーむ、じゃ俺はあっちを捜すか」
「そうね、じゃ私達はこっち」 )
「って、誰も僕の話を聞いちゃいね〜い! 」
とデッドを無視した所でシャイアン達は町中へ散って行った。
デッドも慌ててその後を追う。
一方リプル王女は、と言うとそんな騒動どこ吹く風、と街内の見物に
余念がなかった。
「王女様〜、もう帰りましょうよ。ストーン隊長に怒られるッス。
自分は慣れてますが、王女様は」
「ストップ。いいのよ、少し位。どうせ、皆ミーティングでお忙しい
でしょうから。私が側にいない方が反って清々するでしょうよ」
と店先を覗きながらリプルは言った。
「そっ、そんな事無いッス! ストーン隊長も今頃、王女様がいないのに
気付いて大変心配なさってるに決まってます」
「身柄引き渡しの王女としてね…、」
立ち止まりリプルは兵士の顔を見た。
「王女様…」
彼は悲しみをその表情に認め、それ以上何も言えなかった。
「何でもないわ、…でも、そんなに帰りたいなら先に帰っても良いのよ」
と言うなり、リプルは駆け出した。
「ああっ!、そんな〜」
ずんぐりむっくりの彼も、汗をかきかきドタバタと後を追った。
「全く、まだ見付からんのかっ!! 」
ストーンは爆発寸前だった。
時間は17時を過ぎたが、王女を見付けたという知らせもなければ、
誰も帰って来ない。そして、連絡一つないのだ。
彼は常日頃から規律と秩序を何よりも重んじていた。
感情に流されるのは愚か者のする事である、という考えを持って行動している。
それは彼の複雑な生い立ちに起因している。のだが……
「ホントに、冗談じゃないぜ。何で俺達まで、ドタバタと町中を
走り回んなきゃ、イケナイわけ〜?」
「おっ、あっちだぞ。追え〜」
との声が聞こえる。
「もう、止めた、止めた。馬鹿らしい。一休み、一休み。はあ〜」
とシャイアンはため息をついて座り込んだ。
そこは入り組んだ路地の入口で丁度いい具合に日陰になっており
風も通り抜けるので涼しく気持ちが良かった。
「はあ〜〜。極楽、極楽〜。みなさん御苦労さんなこったな」
と兵士が右往左往するのをにやにやしながら見物していると、
「本当ね」
と頭上から声がした。
驚いて急に声の主を見上げ、更に驚いたのでその勢いのままに
シャイアンは後ろへとひっくり返った。
「ちょっと僕〜、大丈夫?」
『なる程碧い瞳か 』、
文字どおりに吸い込まれそうに碧く澄んだリプルの瞳を見ながら、
シャイアンは素早く起き上がった。
「なあに、このしきの事、何でもありませんよ。あなたのその瞳の
まばゆい衝撃に比べたら、こんなのはかすり傷の内にも入らない。」
「ふうん、でも、あららっ、ここがこ〜んなに大きなたん瘤になってるわよ」
と言いながら無造作に後頭部に触ったので、
「いぃー、痛え〜!! 」
とシャイアンは思わず叫んだ。
「あははははっ、ははははっ」
とその様子が可笑しかったのか、リプルは大声で笑った。
「おっ、居たぞ! あそこかっ、皆今度こそ逃がすなっ!」
としかし、そのお陰で兵士達に見付かってしまったのだった。
そして
「早くしないと俺達、本当にストーン隊長にどやされるぞ!! 」
と誰かが言ったので、兵士達は目の色を変えて押し寄せた。
屈強な男共が一斉に押し寄せたために、シャイアンは見事にそれに巻き込まれ
もみくちゃにされ、
「やっ、止め、ぐえっ! 、おっ、俺がどぼじでこんな目に…」
とあえなく撃沈した。
………
シャイアンは不機嫌だった。
後頭部をアイザックに氷のうで冷やして貰いながら、目の前のやり取りを見ていた。
「だから、あなたには自覚が無いと言うんですよ! 御自分の立場を
きちんとわきまえたらどうなんだ?少しでも自覚があれば、決してこんな事は
許されないと判るはずだっ!! 」
とストーンが噛み付かんばかりの勢いでリプルに言うと、
「だから、それは、済まなかったって何度も謝っているでしょう。第一何よ、立場だの
自覚だのって。結局は自分達がすんなりと取り引きを終わらせたいだけなんじゃない。
人をまるで道具扱いして。そんな人間に偉そうに立場なんて言われたく無いわよっ!」
とリプルも負けてはいなかった。
「このっ……」
まわりの兵士達は思わず首をすくめた。
だが、ストーンは拳を握ったり開いたりしている。
そうして興奮を押さえようとしているのだ、という事がシャイアンにはわかった。
「ふん、良いでしょう。あなたには私自らが警護に付いた方が良さそうだ。
早速今晩からぴったりと張り付いて、警護させてもらいますよ」
と冷ややかにストーンはリプルを見た。
「あら、ベッドの中までぴったりとくっついて来るつもりじゃないでしょうね?」
とリプルが挑戦的に言い返す。
一瞬言葉に詰まったストーンだったが、
「お望みとあらば、そうしてもいいですよ」
と余裕を見せ、わざとリプルの身体を上から下まで眺めた。
「まあっ、結構よ! 」
自分で撒いた種とはいえ、リプルは耳まで赤くしながらそう言うと
つんと頭をそらせて部屋から出て行った。
すると、宣言通りストーンもその後にならって付いて行った。
「おっかねー、姉チャンだったな〜」
としみじみアイザックが言った。
「バカだな。あれだけ気が強い位のじゃじゃ馬の方が、調教のしがいが
あるってもんじゃないか」
とシャイアンもしみじみと言った。
「そんなもんかね〜」
とアイザックは言い、
「そうさ」
うんうん、とシャイアンは頷く。
「お二人さん。しみじみしてるのもいいが、こちらはこちらでやる事が
あるって言うのをお忘れ無く」
とキールが声を掛けた。
急に周りに喧噪が戻った様だった。
ここは、メールシュトレーム・ホテルの玄関ホール脇にある店(サパークラブ)である。
ここが一番大きな部屋なので、ストーンは止む無く使用(彼は作戦指令室にふさわしく
ないと言い、それも機嫌の悪い素だった)する事にして今は貸しきり状態となっている。
「おおっと、いけねえ。そうだったな」
「では、いいですか?始めますよ」
とデッドは言い、一同を疲れた顔で眺め回した。
「良いわよん。始めて頂戴」
とロレッタが言った。
「ふう〜、何とか皆さんの御協力のお陰で無事に本隊と合流する事が
出来ました。ひとまずお礼申し上げます。しかしっ、…油断大敵、
火がぼうぼう。ここから先、ここから先こそが本当の正念場なのです。
でありますからして…」
「またか!?、…もういいって!」
デッドの饒舌ぶりに辟易して来たシャイアンはそれを止めた。
「そうですか?、じゃあ本題に入りましょう。明日、兵士の皆さんの
補給物資が別働隊と共に貨物列車でここに届きます。食糧やら何やら
とかですね。それと同時に宝石も届く事になっているのですよ。
それを私はストーン隊長と受け取りに行きます。そして、明後日の
昼までにはマリアナ国の方へと引き渡して終わり。万々歳、後は
めでたしめでたし。となる訳です」
「じゃ、俺達の出番は?」
「もう無いですね」
とデッドはさらりと言った。
「むう〜、随分やないの! バカにされた気分やわ」
「ホント、利用するだけされたって感じ」
と女性陣は怒り出した。
「そんな事おっしゃられても。僕だってここへ着くまでは、
宝石がどういう経路を辿っているのかまでは知らされて
いなかったんですよ〜。仕方ないじゃ無いですか。それに…」
「それに?」
「ストーン隊長が、その、」
「どうせもう用済だから俺達を叩き出せ、とでも言ったんだろうよ」
とシャイアンがシニカルに言った。
「そんな、いくら何でもそこまでは…。十分役に立ってもらったし
この上は引き留めておいても仕方無いだろうから、早々に
お引き取り願え、と」
「おんなじ事じゃねえか〜! 」
とシャイアンが声を上げた時、ズシンと頭上で鈍い音がした。
「なっなななな、何だ! 」
デッドは驚いて椅子からずり落ちそうになった。
シャイアン達は顔を見合わせると、急いで部屋を出て階上を目指した。
二階に上がると吹き飛んだドアが目に飛び込んで来た。
そして、室内のもうもうたる煙の中に、折り重なる様に倒れているリプルと
ストーンを発見しシャイアンは外から声を掛けた。
「大丈夫かっ!! 」
「あっ、ああ俺は大丈夫だ。しかし…」
ストーンが答えたので、皆はほっとした。
そして、
「あたしも平気よ。何ともないみたい。…ちょっといつまで人の上に
乗っているのよ。重いでしょ、どいてくれない?」
とすぐ側にストーンの顔があるのを見て、どぎまぎしながらリプルは
そう答えた。
しかし、
「それだけの元気があれば、大丈夫だな。安心した」
と言って、ストーンは失神した。
「ちょっと、いやっ。誰かっ!! 」
ホテルに爆弾が仕掛けられていたらしい。
異変を逸早く察知したストーンがリプルに体当たりする様に
飛びつき、身を持って彼女を救ったのだった。
「どっ、どうしたらいいんだ〜。こんな時に限って……」
デッドは青い顔をして、おろおろ、そしてぐるぐると部屋の中を
歩き回っている。
「だーーっ! もう、うろうろとうっとおしいなあ」
とシャイアンは言った。
「少しは落ち着けよ。1人で焦ってたってどうにかなるわけ
ないだろう」
「そりゃ、そうだけど、でも…」
デッドは立ち止まったものの、今度は靴の先で床をとんとん、と
やりだした。
「今医者が様子を診ているし、ストーン隊長は確かに重傷かも
知れないが、死んだ訳じゃ無い。あまり先走って悪い方へとは
考えない事だ」
と今度はキールが諭す様に言ったので、
「そうですよね…」
と言い、ようやくデッドは落ち着いた様だった。
「わたくし、やっぱり様子を見て来ますわ」
と、それまで大人しくしていたリプルがそう言い部屋を出た。
先程、皆は医者に退室を命じられ仕方なくサパークラブへと 再集結
したのである。
「1人で行かしていいのかね?誰か付いてった方が良くないか?」
それを見て、兵士の1人が言った。
「よせよせ、そんな奴は馬に蹴られて死んじまえ、ってね」
と別の1人が言い、
「いや、全くだ」
とまた他の者が言った。
「あの人達は、何を言ってるんですか?」
と口に手を当て、声を潜める様にデッドが言った。
「あんたって、相当鈍いって言われてるでしょ?」
とロレッタもまた真似をして口に手を当てて言った。
「しかしそれとこれとは…」
「おんなじや。つまり〜、あの二人は"ええ雰囲気"でおましたやろ?」
と横からミラベルが口を出す。
「つまり、ストーンとリプルはあっちっち! って事だよ〜ん。嫌だね、
この人はここまで言わせて」
とジルーシャも言った。
「ええっ、あんなに言い争いをしていたのに! いっ、いつの間に〜」
「だーめだ、こりゃ」
と3人(?)は同時に言った。
「ちぇ、面白くネエでやんの! 」
と言い、シャイアンはくるりと後ろを向いた。
……
リプルが部屋の前まで来ると、中から医者が診察を終え
出て来る所であった。
そしてリプルの姿を認めると、
「5分、それ以上は長居をしない様に。患者には安静が
必要ですからな! 」
と言い残して階下へと消えて行った。
しかしリプルは先程のデッドの様に、その場でうろうろとしていた。
すると気配を察したのか、中から
「誰かそこにいるのか?」
とストーンの声がした。
リプルはその声に促される様に中へ入って行った。
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