真夏のバカンス

その1
「あーあ、今回もスカだったな…。あーもー、いつになったら見付かるんだ。俺の身体は!!」
シャイアンは誰に言うとも無くぼやいた。
何者かに撃たれ、脳を子供の義体に移された"シャイアン"はずっと自分の身体を探している。

「まあ、大体情報の"出所が出所"だからな、無理もあるまい」
とのんびりと声を掛けたのは、大男の科学者"キール"だった。
「冗談じゃ無いよ! こんな辺鄙な砂漠まで出場ったんだぜ。あいつらときたら、
確実な情報だからって、大枚ふんだくったくせに。なのにガセネタなんかつかませやがって、
くっそー覚えてろよ! …それにしても、あっついなー…」
汗をだらだらと流しながら、シャイアンは言った。

「そうカッカするな、よけい暑くなるぞ。もう少し先に行けば、
スプリング・タウン(泉の街)がある」
とキールはシャイアンとは正反対に涼し気な声で言った。

「スプリング(春)だって? へっ、サマー(夏)の間違いだろ! 」
帽子でばたばたと扇ぎながらシャイアンは言った。

彼らはサンド・カー(砂漠用の車)を走らせていた。
運転しているのはもちろん大人のキールである。

二人はしばらく車を走らせたが、
「おかしいな…」
と車を止めて、キールは地図を取り出した。
「もう街が見えても良い頃なんだが…」
耳聡くそれを聞き付け、シャイアンは言った。
「まさか、まさか道に迷ったりしてないよな?」
「うーーん、どうやらそうらしい」
今回ばかりは、キールの冷静さがシャイアンの感情を逆撫でした様である。

「そんな悠長な事言ってる場合かよ、こんな所に長くいたら日干しだぜ!!」
とシャイアンはまたカリカリし出した。
「だから、俺が運転するって言ったのに……」
とまだぶつぶつ言っている。
それに対し、
「おいおい、子供の姿のおまえにそんな事させてみろ、バレたら俺の方が
ただじゃ済まんだろ。第一おまえ、ペダルに足が届かんじゃないか?」
と、キールはさり気なくキツイ一撃をくれた。

「ちぇっ、誰がこんな砂漠の真ん中で交通整理なんか
やってるってんだよ。ん?おいキール、ちょっとあれ見てみろよ!」
突然シャイアンが言った。
キールは地図から顔を上げ、シャイアンの指差す方を見た。
よく見れば砂埃を巻き上げ爆走する一団の姿が目に入った。

「ん?何だ、あれは?襲われているのか?」

「ンな事見りゃわかんだろ、行こう!」
と目の前のハプニングに浮き浮きしながら、シャイアンは叫んだ。
「うむ!」
キールは空滑りしそうな勢いで車を発進させた。

「あらやだー、もっと早く、早くだってばー」
 
「追い付かれる〜。もうダメや〜…。ん、あっ、あれ見て」

「なになに、助けが来たのかい?」
と話すは、お馴染みの二人のトレジャーハンター=お宝探しの冒険者
(クレストソーサレスのロレッタ、ノーブルレッドのミラベル)と一匹
(マスコットの小動物ジルーシャ)であった。

彼女達の乗る大型の輸送ジープには、当然"お宝"が積まれていた。
お宝ハンター(俗に泥棒とも言う…)の彼女達がくすねた宝である。
そしてそこには彼女達の他に、盗まれた宝を追う者達と、先を越された砂漠の野盗達、
が今まさにそれを狙って争奪戦を繰り広げていたのだった。

三つ巴の所へもって、シャイアン達も加わったものだから、誰が何やら、
何がどうやら、良く判らなくなってしまった。

「あーーっ、お前達っ!! 」
ミラベル達に気付きシャイアンは
「お前ら〜、ガセネタ掴ましやがって〜っ!! 金返せ〜、このどろぼ〜っ」
と大声で呼び掛けた。

「あら〜、人聞きの悪い〜。お宝自体はあったでしょ〜。探してるものと
ちょっと違っただけなんじゃないの〜」

「それに、もう取り引きは成立してるはずやないの〜。
お金なんか返せる訳あらしまへんわ〜」
とロレッタとミラベルが白々と言い返して来た。

「むかっ!! ちきしょう、おいキール、車付けてくれ」

「えっ!」

「あっちの車に寄せるんだよ! 俺が乗り込んで行ってやる!!」

「おいおい、いくら頭に来たからって無茶はいかんぞ、無茶は!」

「いいから、早くッ!」

「もう、俺は知らんぞ! 」

言い出したら、きかん気の強いシャイアンの事である。
キールは仕方なく車を寄せにかかる。
すると、ミラベル達は当然それから逃れようとする。
そうして追いつ追われつしているシャイアン達を、新手の
盗賊仲間とでも思ったのか、追い掛けている者達が発砲して来た。

「うわ〜っ!!あぶねえ。止めろよ!」
と拳を振り回しシャイアンは抗議したが、止めろと言われて止める馬鹿はいない。
反ってその言葉を合図に、一斉に弾が飛んで来た。

「くそっ!!」
狙撃して来たのは大型の軍用トラックで、シャイアン達の真横にぴたりと
並んでいる。
キールは狙い撃ちされぬ様に、車をジグザグに進めた。
すると、相手は荒っぽく二度三度体当たりをぶちかまして来た。
がくん、と車体が大きく揺れる。

「おい、シャイアン!! 大変だ」
と後部座席から後ろを覗いていたアイザックが言った。

「今度は何なんだよ」

「やばいぞ! 燃料が漏れているみたいだ 」

「そらきた…」

「おまけにブレーキも効かん」
とキールまでが言い出す始末。

「なにぃ〜! ああ、次から次へと…今日は厄日か〜」

「愚図愚図言ってないで、飛び下りるぞ」

「待てよ、どうせ飛び下りるんならあちらさんに移ろうぜ」

「本気か?」

「ああ、このまんまじゃ肚の虫が治まんねえや!! いくぞっ! 」

「おい、シャイアン!! だめだ、こりゃ」

怒りに目の色の変わったシャイアンを見て、キールは首を振りつつも
思いきり急ハンドルを切りトラックへと接近した。
相手は避ける間も無く、横っ腹に追突した。

「そりゃあ」
瞬間乗り込んだ二人(+一匹)は、中に居た人間達を蹴り倒したり、投げ飛ばしたりして
車外へと放り出した。
あらかた片付くと、キールが改めて言った。

「なあ、シャイアン。…もしかして、こいつら王立軍の兵士じゃないのか?」

「ふーーん、て、えっ、どう言う事だ」

「あいつら、(ミラベル達)兵士が守る者から、つまり"王様"から宝を
掠め取ったって事だろうな」

「そりゃまた、…命知らず共だな…」

二人は思わず顔を見合わせた。

「ひい〜。たっ、たすけ…」
シャイアン達闖入者に向って、乗っていた男が命乞いをした。

「おいおい、俺達は…まっ、待てよ!」

シャイアンは自分達が強盗では無いのを説明しようとしたが、
時、既に遅く残る運転手達はまさに飛び下りている真最中だった。
命乞いをした男は腰が抜けたのか、自分も飛び下りたいのだが
その場を動けないらしかった。アタッシェケースを抱えたまま片隅に
座り込んでいる。

がくがくっ、運転操縦者を失った為に車は急にバランスを崩した。
「おおっと! 」
キールが慌てて運転席に取りつき、なんとか体勢を整えた。
そして、ミラベルともう一台の方をスピード全開で追い掛けだした。
すると、それまで震えていた男が急に立ち上がりキールに突進した。

「ばっ、馬鹿!こら離せ」

「ひいい〜〜、お助け〜」
と言いながら、男はキールにしがみついている。
恐怖のあまり錯乱したのかも知れない。

「あっ、お前何やってんだ、キールから離れろっ! 」

「いやですう〜、死にたく無い〜」

「てんめぇ! 死にたく無いんなら、さっさと離せ! 」
と言いつつ、シャイアンは男を引き剥がそうと、武者振り付いて行った。

「なっ、何やっ…て…ん…だ」
二人にしがみつかれ、目を白黒させキールは持ちこたえようとしたが
二人がかりではそれも叶うはずも無く、
キールはついに海老反った。
その結果…
ドッカン!!

「あっちゃ〜、やった…。ほら見ろ、これはお前のせいだからな」
とひっくり返った車の中から、シャイアンは前方を指差した。
たまたま二台の追跡車のど真ん中へ突っ込み、二台ともなぎ倒してしまったのだった。

「ぶわっ、ぺっぺっぺっ、何やのこれ、偉い目に会うてしもうて…」

「いや〜ん、髪がぐちゃぐちゃ、おまけにどこもかしこも砂だらけ。
汗臭くなるし、美貌と引き換えなんて、お宝探しも楽じゃ無いわね」
車の下から這い出し二人は言った。

「はい、そこまで」

「えっ!?」
気付くとジャキッ、と銃の安全装置をはずして構える盗賊達の姿があった。
中の1人が進み出ながら言った。
「あんた達、随分と好き勝手やってくれたじゃないのよ。あたし達の
上前を刎ねようなんて、いい根性よね」

「カサンドラ!! 」

「む!、誰だい。あたしの名を呼ぶのは!! 」

シャイアン達もびっくりした。
その声は、キールとシャイアンの真ん中から発せられたからだ。

「ぼっ、僕だよ。ほら、昔はす向かいに住んでいた、デッドだよ! 」

「デッド〜? 知らないね、そんな奴! 」

「そ、そんな!! 。忘れたのかい?」

「ああ、忘れたね。第一あたしは、そんな三つ揃えの七三分けの嫌みたらしい
グラサンかけた"ださださ男"に知り合いはいないね! 」

「ぷぷっ、」
男の容姿を的確に表現し過ぎている為に、まわりから思わず笑いが漏れた。

「思わぬ邪魔が入っちまった、話を元に戻そうじゃないか。まどろっこしい
のは嫌いなんで、単刀直入に言うよ。さあ、お出し、お前達がくすねた
宝石を! 」

「えつっっ!! これって宝石やったの?」
ギブアップで挙げた手に持っていた袋を見ながらミラベルは驚いて言った。

「どうやら、そうみたいねん♪」
とロレッタが何かを誤摩化すように言った。

「なに、まさかお前達そんな事も知らないで盗んだのかい?
それは、隣国の "マッターホーン"から停戦調停の証として
この"マリアナ"国へ贈られるものなんだよ」

「む、なんと! では下手をすると二国間で、また戦争が始まるかも知れんぞ」
キールが言うと、
「そっそっ、そんな〜」
とデッドという男が真っ青になり、アタッシェケースをぐっと抱え震え出した。

「知った所でどうなるもんでもなかったね。さあ、早くそれを
こちらへ渡すんだ! 」
と言うと、カサンドラという女はミラベルの手から袋を乱暴に奪い取り
そして大声で命令した。

「みんな、引き揚げるよ」

「えっ、こいつらをこのままにしておいていいんですかい?」
と手下らしき男が銃でミラベル達を差して聞いた。
ミラベル達は縮み上がった。
すると、
「馬鹿だね!! 殺し程、割にあわない事はないんだよ。それにあたし達が
命令されてるのは宝石を奪い取る事だけさ」
と言い、素早くシャイアン達の方へやって来た。

「悪いけど、この車は足代わりにいただくよ」
と言うと盗賊達は軍用車を起こし、動くのを確かめると乗り込んで
行ってしまった。

「うーむ、盗賊ながら見事な手際だな」
とキールが感心すると

「感心してて良いのか、悪いのか」
とシャイアンがまぜっ返すように言った。

「いっ、良いわけ無いじゃ無いですか〜。いててっ、うっ、腕が…
おかしいと思ったら折れてるみたいです」

「うーん、折れてはいないがヒビが入ってるかも知れんな。しかし、
"命あっての物種"というじゃないか、あんたもお宝の事は潔く諦めるんだな」
と腕の具合を見てやりながら、キールが慰めとも付かずに言うと、

ずり落ちた眼鏡を鼻先で押さえ、デッドは
「ふっ、ふっ、あなた達はそれで良いんでしょうが、僕の
立場はどうなりますか?ああ〜、もう、だから嫌だったんだ。囮なんて!! 」

「囮!?」
とその場にいた者が素頓狂な声を出した。

「それじゃ、あいつらが盗んだのは」

「むろん、贋ものですよ。みすみす盗られるものですか。と言っても、
あれも、ある意味では本物ではありますがね」

「どう言う事〜?」
ミラベルとロレッタは顔を見合わせた。

「あなた方泥棒でしょう。教える筋合いはないですね」

「俺達は違うぜ!! 」

「ああ、人の輸送車に乗り込んで来て、護衛を叩き出して下さった方達ですね?
何ですと?もう一度言って頂けませんか?」

「ちぇ、先に攻撃して来たのはそっちじゃないか! 」

「あの場合、敵と見なされても仕方ないでしょう。疑わしき者にはリタイアして
頂かないと、こちらも命がけですしね。第一、現にあなた方はお知り合いみたいじゃないですか!」

「そう言われれば返す言葉もないが、本当に俺達は泥棒じゃ無い。お詫びに
俺達にできる事なら手伝わせてもらうが、それでもまだ信じてもらえんだろうな」

デッドは真剣なキールを上目遣いに見ていたが、覚悟を決めたように言った。
「いいでしょう、しかし詳しく御説明するには少々込み入っております。
事情は後でお話するにしても、とりあえず近くの街へ行きませんか?」

「それなら、スプリング・タウンだろ?」
と得意そうにシャイアンが言うと、

「スプリング・タウン?それは、もうとっくの昔に通り越してますよ」
とデッドは怪訝そうな顔をした。
そして
「それよりも…う〜ん、ここからだと、サーティンの町もそう遠くは
ありませんね。兵士の皆さんは確実にそこに行かれたはずです…あ、
ここですね…」
と地図を広げ指差しながら言った。

「はああ、やっぱり歩くのか〜」
残る二台の車が使えないとわかると、シャイアンが言った。

「疲れたら、みんなが代わる代わるおぶってくれますよ。ねえ」
とデッドが皆に声を掛けた。

「ばっ、馬鹿にするな!! 」
とシャイアンは真っ赤になって抗議し、キールとアイザックは笑いを堪えた。

それを見て、額に指を当てながら、ロレッタは考え込んでいた。
「でも変ね、あの顔はどこかで見た事があるような〜?、無い様な?」
と言うと
「あ〜〜っ、またまた〜。ええ男はんやと思うて、惚れたんのと違います?」
とからかうようにミラベルが言った。

デッドは自分が話題にされているのを知り、頬を染めちらちらと
二人を見ている。
それに気付いたロレッタが

「よしてよ〜、もう!! 確かにあの人はお金持ちかもしれないけど、
あたしは"クールないい男専門"だ、って事を忘れないで頂戴ね!」
とゾッとしたように言った。

方向を失わないようにと、かなりゆっくりしたペースで進んだので 、
シャイアン達がサーティンの街に着いたのはもう明け方近くだった。
疲労の極致に居た一行は、宿屋に着くと倒れ込むように寝入った。

そして、一同が再び顔を合わせた時にはもう既に日は高く昇っていた。
デッドは片手を肩から吊り、憔悴しきった様子であった。

「で、色々とわけがありそうだな」
とキールが口火を切った。

「これから3日後、いやもう2日半になってしまいました。我がマッターホーン国
と長年小競り合いを続けていたこのマリアナ国とで大事な調印式があります。
それぞれの国の重臣達の働きかけでようやく、停戦の平和調停が結ばれる事となった
のです。しかし、それにはいささか複雑な事情もありましてね、実は先のこのマリアナ国の
王妃と王女がマッターホーンに亡命しているんですよ。その方達が帰国なさる
のも条件の一つになってるんですね。それともう一つの手土産が、あの"王家に代々受け継がれて
来た宝石"というわけなんです」

「そうそう、あの盗まれた宝石は贋ものだったって言わはったでしょ?」
とミラベルが聞くと、

「ふん、"あなた方が僕から奪った"あの品ですか」
急に事件の発端いや、責任者であるのを思い出したのか、怒りを滲ませてデッドは言った。

「まあ、そうカリカリすんな、って」
とシャイアンがとりなした。

「ま、いいですよ。僕は皆さんがぐっすりお休みの間に、医者に手当てを受けたり、
一仕事したりと大忙しでしたから」
と言って新しいアタッシェケースを取り出した。

「騎兵隊の隊長さんが、駅で貨物便の受け取りを済ませておいてくれたんです。
鍵は私が持ってますけどね。ここを待ち合わせにして正解でした」
そして、片手で器用に鍵を回して開けた。

「じゃあ、その中にお宝が!! 」
と目の色を変えてロレッタが言った。
慌ててバチンとケースを閉じながらデッドは
「まさか! …ちょっと、変な目で見ないで下さいよ。残念ですが、
この中にはありませんからね。ここにあるのは割り符ですよ」
と言った。

「割り符?それはまた念のいった事だな」
とキールが感心とも呆れともつかなく言った。

「大事な宝ですからね。幾つものルートを想定して、その通りに
輸送しているんですよ。本物がどのルートを進んでるのか、運んでる
人達にも知らされてません」

「あんたよくわかったな。それが贋ものだって」

「そりゃま僕は、あっ、と自己紹介がまだでした。私、こういう者です」
とパチンと背広の内ポケットからカードケースを出すと、
名刺を配り始めた。 それには
『マッターホーン国 保険代理業"バイカー保険会社"レイク・シティー店
支店長代理、"デッド・L・バイカー"』とある。
シャイアンは名前が同じバイカーなので、この男は多分経営者の息子か何か
なのだろうと思った。

「我がバイカー一族はマッターホーン国の経済網を牛耳ってる
といっても過言では無いのです。僕の兄が、バイカー銀行の頭取で
その宝石もそこの地下貸し金庫に大事に保管されていたんです。
だから、僕も本当の宝石の輸送ルートを知らされている数少ない内の
一人と言うわけなのです。はい」

「あらやだ、自慢してるんじゃないの? この人」
とジルーシャが多少嫌味を込めて言った。
するとデッドは真顔で
「自慢じゃありません。全てが事実なのです。そして、今回のこの輸送計画は何としてでも
成功させねばならないのです。もちろん、反対派が妨害してくる事も当然予測した上でです。
あの盗賊共も元を正せばそういった奴らと、つるんでいるに違いありませんからね」
と言った。

「その、宝ってやつは一体今どこにあるんだい?」
とシャイアンが聞いた。

「それは、モラトリアムタウンで待ち合わせてあるんですよ」

「待ち合わせ?」

「まあ、それはいいじゃありませんか。僕はまだ全面的にあなた方を
信用したわけではありませんから…」
とにべもなく言った。

「ふっ、見掛けによらず抜け目の無い男だ」
と苦笑混じりにキールが言うと、
「じゃあ、盗まれた宝石がホンモノやって言わはったのは、なぜですの?」
とミラベルも聞いた。

「それはですね。例えば、宝冠を飾る"あるいわくつきの宝石"があるとしますよね。
しかし、それを間近で見られる人間はそうそういませんね。で、もしここに同じ種類で
形も大きさもほぼ同じ石があるとすると、余程宝石に精通していない限り、パッと見で
判る人はあまりいないでしょうね」

「なるほどな。宝石の価値は色とカットだし、微妙なものは専門家でないとわからんからな」
と考え込むようにキールが言った。

「しかもツリーベルは、(宝石の種類名ですが)我が国の特産品ですから
その意味での贋ものには事欠かないのですよ」
と自慢げに言う。

「ふーん、そんなにバカスカ取れる石ならあんまり価値がないんじゃねえの?」
癪に触ったのかシャイアンがそう言うと、

「そこが悲しいかな、素人の浅はかさ、ですね」
と指を振りながらデッドが言った。

「むうっ、どうせど素人だよ。俺はちゃらちゃらと宝石を付けたりする男じゃないもんね。
そんな事知らなくてもいいのだ」
とシャイアンは椅子にふんぞり返った。

「宝石には一つ一つ顔があるんですよ。この石は特にそれが顕著でして、しかし説明
するよりは実際にお目に掛けた方が判り易いですね。僕もこれですし、兵士の皆さんも
無傷では済みませんでしたから当然、輸送計画を手伝っては頂けますよね」
と脅すように肩から吊られた腕を見やった。

「へいへい、でも俺達を信用してないんだろ」
とシャイアンが言うと、

「向こうでは本隊長の"ストーン"さんに合流して、この割り符をお渡しする予定です。
彼は"中々のやり手"ですから、あなた達でもおいそれと手出しは出来ないでしょう」

「そういうことか、ま、いいさ。で、いつここを発つんだ?」

「日暮れ時を予定しています。それまでは皆さん御自由に」
と言うと、一寝入りしにデッドは部屋へ入って行った。


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