この曲は"むん様御製作"のワイルドMIDIです。"二次著作物"であり"無断転載は禁止"です。


(その1)
その男は体に似合わず、がつがつと良く食べた。
おかげでロディの財布はすっからかんになってしまった。
「済まんな、坊主。この借りは必ず返すからな」
食べる合間を縫って男はそう言った。

「ちょっと、ちょっとロディいいの?この人、どう見たって…」
ちらりと男にみられ酒場のウエイトレスのマデリンは、慌てて口を噤んだ。

ロディはもう、ここ"リッチ?リッチ"の常連なのだ。
昼間は食べ物を出し、夜は酒場になる店だ。
ここのマスターもマデリンもロディの境遇に同情してくれている。
(しかし、今は)
「ほんっとに、人がいいんだから」
と半ば呆れている。
ロディとしても人の面倒を見られる立場では無い。
本当は、"ただ成り行きでこうなってしまっただけ"なのだが。

食べ終えて人心地付いたのか、男は言った。

「そうそう、自己紹介がまだだったな。わしの名はガイル。こう見えても、
若い頃は相当凄腕の渡り鳥じゃった。まあ何を隠そう、実は今でも現役バリバリの
渡り鳥だがな。わっはっは!」

と、これには店のマスターとマデリンも思わず顔を見合わせた。

それを知ってか知らずか、ガイルと名乗るその老いた男は話を続けた。
「そうか、お前さんはロディというのか、よろしくな。ところで--

と今度は、マデリンを振り向いて話し掛け続ける。

---姉さん、この村にダールという男がおるはずだが、知らないかね?」
彼女は少し考えたが、わからないらしく
「マスター、ちょっとマスター。ダールって人の事知ってる?この村に
そんな人いたかしら?」
と聞いた。
すると、すぐさまマスターは
「もしかしたら、鍛冶屋のじいさんじゃないか?確かそんな名前だったと思うが…」
と答えた。

「おお、そうじゃ。知っておるのか、いや有り難い」
と、ガイルは嬉しそうな声を上げた。が、
マスターは妙な顔をした。そしてこう言った。

「いや、それがちっとも有り難かないですよ。そのじいさんだったら、
三年前に急にポックリいっちまったんですからね」

「なっ、なんじゃとぉ!!」
と叫ぶと、勢い良く立ち上がり絶句した。
今度はガイルが妙な顔をする番だった。

「なあんだ、あの有名な鋼鉄じいさんの名前だったんだ」
そんなガイルの様子にお構い無しに、マデリンは無邪気に言った。

「若い頃は、腕が良くて武器の注文がひっきりなしだった、って自慢してたよなあ
どこまで本当か知らんが」
と、ちょっと懐かしむ様にマスターが言った。

「何たる事だ…何とまあ…」
勢い良く膨らました風船が萎む様に、ガイルは椅子に崩折れる様に座った。

「お知り合いだったんですか?」
とガイルの落胆振りに同情したのか、マデリンが聞いた。

「あいつは殺しても、死なない位の鉄面皮だった。わしの方が先に逝く
とばかり思っていたのに…月日とは無情なものだ…」
としんみりと言った。

再び、マスターとマデリンは顔を見合わせた。

「むう、当てがはずれてしまったわい……」
ガイルは考え込んでいたが、ロディと目が会うと気まずさを振払うかの様に、
空元気を出して言った。

「こう見えても、わしは元々はかなり凄腕の渡り鳥。今でもそのつもりだ。
なあに、こんな小さな村でもトラブルの1つや2つ位あるじゃろうて。それを
見事に解決すれば、万事めでたし、めでたし、ってわけだな」

「なーんて、お気楽、しかもアバウトな。それに、…小さな村で悪う
ござんしたねえ。小さな村で ! 」
どうも気を悪くしたらしく、マデリンは間発入れずに言った。

「いや、はっはっは。すまんすまん。言葉のあや、ってやつだな。さて、ではわしは
村長の元を訪ねるとしよう。坊主、すまんが案内してくれんか?」

「だーいじょうぶなのかしら」
マデリンは二人の後ろを見送りながら言った。

その日、再びロディは村長の家の門をくぐった。
「おや、ロディじゃないか、まだ何か…」
村長は言いかけて、ロディの後にいるガイルに気付き言った。

「何だ、旅のお方を案内してくれたんだね。ありがとう。で、どうなされました?
旅のお方。何かお困りの事でも…」

そこでガイルは切り出した。
「実は、わしは見ての通り旅の途中だったのですが、ひょんな事でこの少年の
世話になってしまいましてな…」
と勧められる前に椅子に腰掛けながら、ガイルは続けた。

「本当に助かりましたわい。良い村ですな、みな親切で。わしはこの村の鍛冶屋の
ダールの古くからの知り合いでしてな。ここへも奴に会いに来たんですわ」

「それは、それは」

すっかり納得顔の村長はそれでも顔を曇らせながら言った。
「左様でしたか。しかし、ダールさんは…」
ガイルはそれを遮る様に行った。

「聞きました。3年前に亡くなった、と…。そうそう、申し遅れましたが、
わしの名はガイル。渡り鳥ですじゃ」

「失礼、今何と?」
聞き違いと思ったのか、村長はまだ笑顔を見せながら聞き返した。

「渡・り・鳥、ですじゃ」
ばかに明瞭に語尾を切りながら、ガイルは言った。

「そのお年で!! 」
驚いて村長は叫んだ。
「いけませんかな?」
「いっ、いえ、おっ、おほん!」
と、せき払いで何とか失礼にならぬ様に村長は誤摩化した。

「で、仕事をもらいたいんじゃが」
「は?」
「仕・事・はありませんかな」

と穏やかな口調で、笑顔ながらも、またもや語尾を切るガイル、

「うーん、それは……、」
村長は絶句した。

ほとほと弱り果て、どう断わろうか、と考えあぐねている様子だったが、
ロディを見るなりぽんと手を打ち、言った。

「そうだ、ロディ君 ! 君がいたのをすっかり忘れていたよ。どうです。ガイルさん
彼と一緒に、という条件ならばお仕事を斡旋致しましょう」

ロディは、急に名指しされてびっくりした。
案内を済ませたら直ぐ帰るつもりであったのに、ついガイルが気になって
もたもたしている間に、また面倒に巻き込まれそうになっている。

「しかし……」
今度はガイルが絶句する番だった。
だが、そこへ

「はっはっは…、冗談きついですよ、村長。こんなよぼよぼの老いぼれとガキに、
何ができるって言うんです。しかも渡り鳥だぁ、笑わせてくれるぜ! この世界を
ナメてんじゃねえのか?え、じいさんよ。」
と、横から口出しして来たのは先程のスパイスウッドという男だった。

その暴言に対し、むっ、とした顔で

「ほう、お前さんも見た所渡り鳥の様じゃな。この世界、と御大層な事を言って
おるが、お前さん、この世界に入ってどれ位になる。」
とガイルが言った。

「ふん、長けりゃいいってもんでもないぜ。それに俺様の名前はスパイスウッドだ
よく覚えておくんだな」

「もう忘れたわい ! どう見たって、お前さん精々この道4〜5年ってとこじゃろうが」

「うるせえ、そっちが何年渡り鳥をやって来たか知らねえけどな、これだけは
言っておくぞ。この世界じじいやガキがやってける程甘かねえんだ。ちっとばかし
長いからって、でかい面すんな。何だかんだ言っても、最後には実力が物を言う
のよ。わかったら、すっこんでな」
図星を指されたのか、スパイスウッドはムキになって捲し立てた。

「ああ、嘆かわしい。昨今の渡り鳥は零落れたもんじゃの。先輩への礼儀の
一つも知らんとは…」

やれやれ、という風にガイルは首を振り振り言った。

「何おっ!! 」
こめかみに青筋を立て、スパイスウッドは今にも噛み付かんばかりだった。

「まあまあ、スパイスウッドさん。落ち着いてくださいよ。
あなたも知っての通り、こんな村でも小さい問題は意外とあるんですよ。
人手は多いに越した事はない」
取り成す様に村長が言った。

「それに、そこにいるロディ君。彼は、アーム使いなんですよ。
村の子供が凶暴な野犬達に襲われた時に、それで助けてくれたんです。
ですから、腕の方は私が保証しますよ」

その時、初めてロディの存在に気付いたように、スパイスウッドは
ロディに向き直った。

「アームだぁ?悪いがあんなもん、子供のおもちゃですよ。おい、小僧、
ちっとばかしそんなおもちゃが使えるからって、でけえ面すんじゃねえぞ。
ん?よく見たらお前、さっきここに来た時俺にぶつかっといて、謝りもしなか
ったガキじゃねえか! 生意気な」

と言って、いきなりロディの胸ぐらを掴んだ。
ロディは宙に浮き、足をばたつかせた。
スパイスウッドの腕は鋼の様に強くロディの衿に食い込んでいた。

「よさんかっ! 」
とガイルはスパイクウッドの手を杖で打った。
ロディを掴む手が離れ、どさり、とロディは落ちた。
咳き込むロディを心配そうに見、
"きっ"、とスパイスウッドを睨み付け、ガイルは言った。
「大人気ない! 子供にぶつかった位でどうにかなる様な、柔な渡り鳥など
聞いた事も無いわ! 」

「くそっ、何しやがる。じじいっ! 」
赤く腫れ上がった手の甲をさすりながらスパイスウッドは言った。

「先に手を出したのはお前さんだぞ。それに、聞き捨てならんな。
お前さん、たかがアームと言うが、本当のアーム使いを見た事があるのか?
まあ、もし見た事があるのなら決してそんな口は聞けまいがな。」

「ふん、それは昔のこったろう! 今じゃそんなもの、噂も聞かねえや。
ましてや、こんなガキにそんなだいそれたアームが使いこなせるとは到底
思えねえがな! 」

流石に村長の前では、歩が悪いと思ったのだろう。
それ以上の暴力を振るうのを諦めたのか、ぎらぎらと光る目で
回りを睨みながらスパイスウッドは言った。
「ふん、よかろう。勝負だ。この世界、腕力だけで渡っていける程甘ッちょろく
無い事を、反対にわしらが立派に証明して、教えてやるわ! 」

「面白れえ、受けて立つぜ ! どちらが先に仕事をするか競争だな。老いぼれが
吠えずらかくのも見物だ ! 」
売り言葉に買い言葉、で瞬く間に取り決められた目の前の成り行きを
呆然と見守るロディ。
こうなるのを何となく予期していたものの、やはり釈然とはしない。
とはいえ結局ロディは、"放っとけない"のだ……





小説ページへ戻る

その3へ