目次へ


◆みちのくの安達が原の黒塚に、鬼こもれりといふはまことか◆
(意味:東北地方の安達が原のあの有名な黒塚に、近頃また鬼共が住みついたらしいじゃないか。なあ、それはホントなのかい?)
みちのく=みちのおく=道の奥、がつまってこの言葉になったと言われている。つまりこれは都のある地方から見て果てしなく遠い地方を指しているのである。
所謂今で言う東北地方辺りかな?ついでに、奥の細道はひっくり返すと道の奥になるのでこの地方を指している、と私は思う。洒落っ気のある人だと思うので・・・
これは、百人一首にものっかっている三十六歌仙の1人『平兼盛』の歌です。
兼盛と言えば※あの有名な歌勝負『忍ぶれど』の詠み手ですね。
この歌も彼の親しい友人の一家がこの安達が原で有名なかの地に引っ越したと言う事で、
鬼 (=怖い角生やした女=お前ん家の妹達)が、また安達が原の黒塚
に出てるって聞いたぞ?。それはホントかや?

ってな具合に、ふざけて冗談事で言ったモンらしい。
恋の歌から鬼の歌へ・・・
まず最初に恋愛にちょっと悩む私はある短歌が心に浮かびました。それが兼盛の
『忍ぶれど色にいでにけり我が恋はものや思うと人の問ふまで』
(意味:ひっそりと耐え忍び隠し通そうと思ってたのに全部顔色に出てるらしい、俺の恋心ってやつ。気が付いたら「オイオイ、お前何考えてるんだよ。なんか顔が赤いぜヒューヒュー」ってな具合に皆から囃し立てられちゃってるし。とほほ・・・)でした。
これの歌とその意味は知ってたのですが、誰の歌か?判らないので調べてみました。すると、前述の兼盛でした。で、歌の背景なんぞも思い出しました。古典の授業〈百人一首の項〉でやったので。
この歌は時の村上天皇の催した天徳の歌合わせの時に、「忍恋」を主題として作る時に兼盛と壬生忠見と勝負した歌です。
ちなみに忠見の歌は
『恋すてふ(=こいすちょう、と読みます←念のためね)我が名はまだき立ちにけり
人知れずこそ思い染めしか 』
(意味:「あいつ恋でもしてるんじゃねーの」ってもう俺の事が噂の的になっちゃってるよ・・・この恋だけは誰にも知られない様にしよう、と深?く思っていたのになあ)
で、結果はどっちつかずで決められなかった(判定者が)んだけど、その判定者が天皇を見ると、彼(一番偉い人)は「しのぶれど…」って口ずさんでいるではないかッ! って事で即決兼盛の勝ち?だったそうです。
その後日談として、負けた忠見が悔しさのあまり病気になって死んだ。とか言われてますが、これは勝負を面白可笑しくする為の作り話です。その後も彼はしっかり活躍してらっしゃるので。
個人的にも忍ぶれどの方がいいかな・・・。だって最初に『耐えてます私、それなのに・・・ 』ってカンジで恋の恥ずかしさが爆発してますね。恋すてふはちょっと気障でしょう。『オイオイ参ったぜ、俺様って人気者!』みたいな雰囲気なんで。
恋の華やかさは良く出てるんですけどね・・・。
横道に逸れている様に見えますが
それを調べていたら、彼(兼盛 )のもう1つの有名な短歌が『みちのくの?』なのでした。
この黒塚の物語も私の脳髄にしっかりと記憶があります。
1つはテレビ番組(TBS)の『超常怪奇物を見た!』←本にもなっている。を見たからです。
それは【伝説は本当だった!!鬼の岩屋に人斬り包丁を発見!?】みたいな内容でした。
では・・・黒塚伝説とは?
京の都である貴族のお屋敷に乳母として奉公している岩手という女がいた。離縁して娘を夫の元に置いて来てしまっていた。なので乳母として奉公している先の姫君が口がきけないのを不憫に思い、なんとか治してあげたいと思っていた。娘と姫がだぶって愛おしく思っていた為である。
姫を色々な医者に見せた挙げ句、「『妊婦の生き肝』を食べさせれば治る」と言われてしまった。そこで岩手は妊婦を求めてみちのくまで(なぜか?)やって来た。
数年経ち、待ちに待った妊婦が一夜の宿を求めてやって来た。産気づく妊婦、その夫を薬屋まで使いにやりその間に妊婦を殺す岩手。
しかし、夢中でその腹を裂いている時に妊婦の守り袋が目に入った。それは昔自分が実の娘に与えたものだった。岩手は自分の娘と孫をその手で殺してしまったのである。あまりの事に岩手は発狂し、旅人を見境無く襲っては食い殺す鬼婆と化してしまったのだった。
しかし、その岩手も旅の僧侶『東光坊』に調伏されてしまうのである。

ついでに・・・
【神楽】で演じられる黒塚と【能】で演じられる黒塚と【歌舞伎】もあります。
その前に・・・

【神楽】とは。元々は神の依る神座(かむくら)の意味でその前で神を祭る祈りを
歌舞音楽にして奉納する事を指します。神代の時代、天照大御神(あまてらす
おおみかみ)が天の岩戸に御隠れになられた時に、天宇受売命(あまのうずめ
のみこと)が神憑かりになってストリップ紛いの躍りを躍り狂って男神達の
やんやの喝采を浴び、これが芸能の始祖ともなった。

【能】とは、奈良時代に中国から来た芸能〈散楽=器楽・歌謡・舞踊・物真似・曲芸・奇術〉の中の一部がのちに発展したもの。

【歌舞伎】とは、元々は出雲大社の巫女である出雲阿国が京都で男装して茶屋遊び
をする真似をして大好評を得てこれが歌舞伎の始祖であるとされている。

で、この3種類では演じられる黒塚の内容も少し違います。
【神楽】島根県浜田市の石見(いわみ)神楽など。流石わ、神話の時代の本家本元
の島根県! この県では神楽が盛んなのです。私も愛するあの人の演ずる獅子舞が見たかったです・・・。
大体が『安達が原』と『殺生石(九尾の狐・玉藻前)』をミックスさせた内容
の様です。
旅の修行僧とお供の者が旅人を騙して殺してしまう鬼女に会う。
2人はそれと知らずに一夜の宿を求めるのだが、女の美しさ怪しさに不審を
抱いた修行僧によって鬼女は正体を暴かれてしまう。
看破され狐に変化した鬼女は修行僧達と戦い、修行僧の法力を破り
お供の者を食い殺す。修行僧はほうほうの体で逃げ出す。
そして狐は朝廷の勅使である2人の武士に射殺される。

【能】山伏の一行が山中で出会った老婆に一夜の宿を求めるが、これが伝説の鬼婆
。薪を拾いに行く間、部屋を見てはならぬ、と言う老婆の言葉を反って不審に思い
覗いてみると、骸がごろごろ・・・。これぞ噂に聞く安達が原の黒塚であったのか、
と一行は逃げ出しますが秘密を知られた鬼婆が追い掛けて来ます。
山伏が五方の明王に祈ると老婆は調伏されて消えて行きます。

【歌舞伎】安達が原の鬼女と化した岩手の元に阿闍梨祐慶一行が訪れます。
祐慶に説法されて一度は改心したかに見えた岩手だったが、部屋を覗かない様に
との約束を破られた事を知った時、再び鬼女と化し祐慶達に襲い掛かる。
が調伏されてしまう。

関連モノとして参考に・・・なるかな?
夢枕 獏 (著), 野口 賢 (著) KUROZUKA-黒塚- ジャンプコミックスデラックス
手塚治虫もこの主題で描いてます。SFっぽかったですけど。



目次へ