ダイモンズの主人公ヘイトは、鉄の旋律のタクヤよりはむしろブラック・ジャックに似ている。医者である彼は、常に商売道具のメスや注射器などをスーツケースに入れて携帯している。そして常に腕を通さないで着ている外套姿もヘイトの腕の無い姿に似ている。髪の毛も白と黒(ヘイトはこめかみの部分が黒い)である。そして同じ様な位置にある顔の傷である。ここまでくればブラック・ジャックに似ていないと思う方が可笑しいだろう。が、類似点は実は容姿だけではない。〜ブラック・ジャックの生い立ちから〜(秋田書店少年チャンピオンコミックス第14巻より)米軍の特別射撃練習場が払い下げで宅地になった。が不発弾処理を徹底的に行わないまま立て札を外し宅地化された為にある母子がその不発弾爆発事故の犠牲となった。母親は手足全部もぎ取られ、下腹に大穴が空き声が出なくなり、男の子は死にかけていたのを手術に手術を重ねてようやく一命を取り留めた。が、父親はその後愛人と失踪し家庭は滅茶苦茶になった。少年は復讐の為にがむしゃらに金をためた。そしてその金の力でその事故に関係する責任者が5人いる事を突き止めた。そして5人のうちの2人に復讐しようとする物語が描かれている。の様に、ブラック・ジャックも復讐モノ?! かと思わせる話があったのだ。(14巻の『不発弾』、と『二人目がいた』である)ヘイトの復讐相手も奇しくも?5人である。
ダイモンズの魅力
ダイモンズ(作者のゼスモス)に惹き付けられた読者も多い事だろう。この物語りの醍醐味はヘイトである。正統派なヒーロー像を衒いも臆面も無く見せてくれるからである。ヘイトの心はいつも正しい。それだけがヒーローの条件だ。ヘイトは人よりも優れた容姿と能力を持っているが、本人にはその自覚がない。それは人間の価値とは、ただ何が出来るとか姿・形などで決まるのでは無いというのを知っているからだろう。多分本人は自分は平々凡々な人間だと思っているに違い無い。確かに頭脳明晰だが家族命で働くお父さんなヘイトは、平凡を絵に描いた様な家庭を持つ、〈ごく普通のサラリーマン〉という体である。その普通の男が、受けたバイオレンスを切っ掛けに野獣へと変貌するのだ。これはまさ大薮春彦の世界だ!!ハードボイルドだそう、ダイモンズはハードボイルドなのである。
完結を迎えて・・・感無量である。ダイモンズという物語はヘイトの妻子殺しへの復讐に端を発し、曵いては世界滅亡を企む男との戦いに終止した。最初はヘイトと言う一個人の復讐劇であった。名も無き男がこれまた世間とは隔離された、独特の世界に埋没する名も無き男達(殺し屋達)との死闘を繰り広げたのである。素人にも関わらず。それがいつしか世界の命運を担う役割を背負わされて行ったのだ。文明と社会に馴染めない男が既存の世界をぶち壊そうとする。それを主人公のヘイトが阻止する。壮大なスケール・・・。と思いきや、一見そうなのだが、実は好きな女を取られた男が、その相手方の男女の幸福の実った絶頂の頃に、それをもぎ取り踏みにじり自分勝手な復讐をした。それに対して逆恨みされた方もやり返した。と言う物語である。主題はあくまで個人の愛や他人との絆がテーマらしいが、ラスボスが壮大に周りを巻き込んでくれちゃっただけなのである。はた迷惑な話だが。確かに愛すればその当人達は周りが見えない。二人だけの世界を構築する。つまりそれを地で行ってしまったのだな。好きな女が手に入らないならこの世など滅びてしまえ、とフラレた事がある男なら思った事があるはず。プログレスもフラレた時に瞬時に、思い通りになる相手と二人だけの世界、を思い描き着々と実行に移しただけなのである。内容としては、こう書くと何だかな?だが、漫画で読むと展開が次第に鬼気迫って来る。大風呂敷も広げられるだけ広げろや!とすら思える程に勢いがある。ワクワクしながら展開を追って行く。これが少年漫画の醍醐味であり、王道である。冷静に筋を追うと、トンでも展開になるのは判るのだが、それすらも関係無くなる。それはダイモンズのスピード感のある画力に他ならないと思う。そして、ヘイトという主人公の魅力の賜物でもある。最後迄冷静沈着でありながらも、底知れ無い優しさを持った時に熱い正しき男。主人公の王道を行く男ヘイトを描き切ったダイモンズ、とにかく面白かったよ。

ダイモンズの主人公 砌斌 兵斗(サイモン ヘイト)

作品紹介
ロゴスディアという医療の為のナノテクノロジーを開発する企業に勤めていた砌斌 兵斗(=サイモン ヘイト。以降ヘイトと呼ぶ)は組織上層部が研究を兵器へと転用し始めた為これを告発した。それを裏切り者とし5人の男達(ヘイトは家族同然と思う程に信頼していた友たちであった)に制裁を受け、両腕を切断された。それのみならず、最愛の妻と娘も水槽に入れられ溺死させられた。すべてを失った悲しみと絶望はすぐに怒りと憎しみへと変わった。瀕死のヘイトはベッケルという医者兼学者兼技術者の男に助けられ手当てを受けた。そしてヘイトは失った両腕をTゼスモスUと呼ぶ未知のエネルギーを習得する事により、あらゆる素材を己の腕の代わりとして動かす事が出来る様になった。こうしてヘイトの復讐劇は幕を開けたのだった・・・。
このダイモンズという物語は悪魔のと言うだけではなく、本当は悪魔達、と言う意味も持っているのかも知れない。先ず主人公のヘイト。両腕と妻子を奪われた時に人としての何かを捨てた。その時両肩の切断面から血が飛び散る様が描かれているが、黒い羽を広げている様だ。意識的に描かれたこれはまさにヘイトの堕天の瞬間に他ならない。だが、悪魔はヘイトだけではない。皆悪魔を抱えている。弱さゆえに欲望ゆえに悪魔となる。ヘイトの仇の5人もそうだが、それだけではない。ヘイトを救ったベッケル博士ですらも、ただの好意からヘイトを助けたのでは無い事が後に判る。この物語にはここかしこに悪魔=人の救い難い弱さ、が存在しているのだ。
ダイモンズ用語解説 【ゼスモス】
ベッケル博士命名。
ベッケル博士の解説によると人は家族や恋人やペットの様な自分と関わる生物(の存在や心)とか環境や財産など自分を取り巻いている心地良いもの、を繋ぎ止めようとする未知なる力を持っている、らしい。その引き付ける引力みたいな力をゼスモスと呼ぶ。このゼスモスは引き寄せに関係していると思う。そうあって欲しい事象、を自分に引き寄せて繋ぎ止める力の事である。ヘイトの場合は自身に人を惹き付ける魅力というものが元々備わっているので、引き寄せる力は常人に勝っていると思われる。後は繋ぎ止める力である。これは彼の執念深さに比例している。しつこく思い込む=それに深く纏わり付く思い=エネルギーが絡み付き、纏わり付いて離れない状態。これぞまさに引き寄せ繋ぎ止める思い=ゼスモス。勿論その原動力はヘイトの復讐心である。臥薪嘗胆。

ヘイトの最愛の家族、娘『ユミ』上、と妻『ヒロコ』下、
ヘイトへの制裁の為だけでなく、ある思惑の為に生きたまま保存液の入った水槽に投げ込まれ溺死した娘のユミ。そんな我が子を救おうと自らも水槽に飛び込んだヘイトの妻ヒロコも溺死した。

モドル