〔創元推理文庫〕映画になったアガサ・クリスティーの探偵たち

アガサ・クリスティーのエルキュール・ポワロ
『ずんぐり、むっくり塀の上。ずんぐり、むっくりどしんと落ちた。王様の馬と兵隊全部が総動員したって、ずんぐり、むっくりを元通りに出来ないよ。これなあに?』とはマザー・グ−スのなぞなぞ。答えは『たまご』。エルキュール・ポアロは卵に目鼻。小男で見事な口ひげを生やしたベルギー人、(フランス人ではない)という設定です。国が違って呼び方が変わると、これはエルキュール=ヘラクレス、なのだそうだ。普段は英国在住でたまに片言になるが本当は英語ペラペラなのである。人を油断させる為にそう装っている、という抜け目のない男なのである。
アガサ・クリスティーのミス・マープル
 田舎の起こった出来事や人間関係を逐一把握したい願望が強く、事情通なのだが他人のプライバシーをビシバシ突っ込み入れて侵害しまくるあたりは、はた迷 惑な老婦人である。本人はあくまで好奇心旺盛で済ませている。その鋭い洞察力を使い、人の性格をいくつかのタイプに当てはめて行動パターンを読み、事件を 解決に導くのだ。
 「オリエント急行殺人事件」ポワロ
 この映画の豪華なキャストはまるで日本映画の『柳生一族の陰謀』を彷佛とさせられる。ポワロ役はアルバート・フィニー。彼は他の作品のポアロと比べると黒髪とヒゲの小男なので原作に近いと思う。大袈裟な身振り手振り、口調などそのものと言う感じがして好きだ。分りやすい見所は若き日のショーン・コネリーが出ている所かな?アガサ女史が実話の『リンドバーグの愛息誘拐事件』(注*これは昔のムーにリンドバーグの息子は誘拐されたんでは無く、父親であるリンドバーグが冗談好きで、奥さんを慌てさせる悪戯をして息子を隠しておいたら落っこちて死んじゃった、のを隠す為に誘拐をでっち上げたのだ、とトンデモな推理を載せていたが、後にあのマイコー=マイケル・ジャクソンがドイツのホテルで赤ん坊を窓から突き出して顰蹙を買った事件があったので、あながち荒唐無稽な説でも無いと思い直した)を元にした作品である。
あらすじ
 アメリカで幼女の誘拐殺人事件が起こる。五年後の事。ポアロはイスタンブール(トルコ)での仕事を終えて寝台付き列車、オリエント急行列車でイギリスへと戻ろうとする。本当は空きがなかったのだが、友達であるその列車の会社の重役にゴリ押ししてもらったのだ。(ポアロは船が嫌いなのである。船酔いもする)その汽車の中でポアロは命を狙われている男から身辺警護の依頼を受けるが、興味を引く事件では無いと=依頼主の性格も気に入らないらしい、断る。が、その夜その男は殺されてしまう。雪の中立ち往生する列車の中で、ポアロが重役から事件解決を依頼される。調べはじめると、殺された男はなんとアメリカで起こった幼女殺人事件の主犯の男だった。犯人は乗客の中にいると睨んだポアロは乗客を一人一人尋問を開始するのだった。

「地中海殺人事件」ポワロ
 このポアロはイギリス人然としている。大柄で重々しく貫禄がある。主演のピーター・ユスティノフはロシア系なのだそうだが。見所は孤島のホテルの女主人がハリポタのマクゴナガルせんせーである。若い。
あらすじ
 ポアロは保険会社の調査である殺人を調べたが、支払いの裁定を告げに行く。するとそこで模造ダイヤに保険金を掛けようとしている貴族がいるので調査して欲しいと頼まれる。貴族はダイヤは婚約不履行になった女から取り返したものである、という。騙された貴族はポアロにダイアの取り返しを依頼する。ポアロは苦手な船に乗り地中海の孤島のホテルに女優を追って行く。が女優は殺されてしまう。そのホテルの泊まり客は皆女優への殺害の動機があるものばかりで…。

「死海殺人事件」ポワロ
 これもピーター・ユスティノフの主演作である。が、場所が今はキナ臭い地域なので面白い=エルサレム。そして欧米人は人種差別を当たり前に思っているので=第2の被害者のアラブ系の青年が殺された事は問題視されていない。犯人は○○死扱いになった。多分、こうして問題視する事自体に驚くのだろうな、と思った。
あらすじ
 義理の子供達三人+実子一人を支配下に置きたい元刑務官の未亡人。夫の遺言書を弁護士を脅迫して破棄させる。遺産を一人占めし、自らの権力を誇示しようと、継母は一家を引き連れ旅に出る。が、弁護士が後を追って来たり、息子の一人が旅先でロマンスを発展させたりとする中で継母は殺されてしまう。休暇旅行で彼等と一緒になったポアロは継母の死亡推定時刻と子供達の証言すべてが食い違う事に気が付き…。

 「ナイル殺人事件」(原題、ナイルに死す)ポワロ
 ピーター・ユスティノフ主演。このCMがテレビで流れて来る時に掛かる曲の方が砂漠の画像とマッチしててミステリアスチックに旅情をかき立ててくれた様な気がする。Death on the Nile=ナイルに死す、である。ここにもマギー・スミスがッ!て、そこじゃない! アンジェラ・ランズベリー(『クリスタル殺人事件』のミス・マープル役)の方がゲスト出演じゃん、と自分ツッコミワロスw
あらすじ
 父親から莫大な遺産を受け継いだアメリカ女性が親友の頼みでその婚約者に会い仕事を斡旋した。しかし、この出会いは仕事だけでは済まず2人は結婚してしまった。裏切られた女は2人の新婚旅行先を付け回した。その旅先のエジプトナイル川の客船の上で悲劇は起こった。新郎と元恋人が諍いを起こし男が女に銃で撃たれたのだ。そんな騒ぎの中で新婦も寝室で射殺される。犯人は客船の中にいる。偶然乗り合わせたポアロは調査を開始する。しかし他の乗客は皆、新婦に恨みを持つ者ばかりで
「クリスタル殺人事件」(原題、鏡は横にひび割れて)ミス・マープル
 これはもう、エリザベス・テーラーの為に作られたような映画。まるで彼女の為に書かれたのでは無いか?とさえ思ってしまう。女優魂と貫禄を見せつけられる。見所はライバル女優役のキム・ノバクとの丁々発止のやり取りである。これ本心を語ってンじゃ?と勘繰っちゃう程に女同士の確執はかなり迫力があって怖い。
あらすじ
 ある田舎町を映画のクルー達がやって来る。歓迎レセプションで主演女優と監督の夫妻が出席するが、主演女優が話していた村のファンの女性が毒殺されてしまう。それは女優を狙ったもので間違い殺人では無いか?という疑惑が浮上する。そんな中、女優もまた毒を盛られ秘書が死ぬ。犯人は秘書だったのか?

 この英国の香り、というのは本当に異国情緒が漂っている。お貴族様の優雅な日常、と近代化でぼろ儲けしてやりたい放題している本当の金持ちだった時代を見る時、うらやましいと思うか馬鹿げていると思うか?雰囲気は好きなんだけど、その優雅でゴージャスな日常生活を味わうとしたら、常にその影で搾取される人たちがいるんだろうなと考えて後ろめたさに苛まれちゃうんだろうな、と思う自分は小市民だなあとつくづく思うわ。まあ、ポワロは自分の能力で財を手に入れているし、マープルおばさんも普段は村で普通の村民生活を送っているからあれだけど、事件に関わる人たちがね。やはり金持ってるから犯罪に巻き込まれたり罪人になったりするんだろうね。ああ、おっかない。くわばらだよ。