読み進むに従ってアレレ?予想していたのと違う。なんか斜め上!な本

『屍鬼(しき)』上・下巻。小野不由美 新潮社
-上巻-
 まず、初めに謎があった。村人達が次々に原因不明の死を遂げる。ある一家が村に越して来てから謎の死は蔓延しているかの様にも見える。はたして、これは姿を見せない謎の一家が村に持ち込んだ、未知のウィルスが原因なのか?日付けが進行して行くに従い、村は無気味な様相を呈して行く。果敢にも、村の医者やら僧侶やらが原因究明に当たって行くのだが、………。と、最初はそういう物語なのである。とにかく読んでいてグイグイ来る。村の中でジワジワと広がっていく病気の描写と、それに立ち向かおうとする医師の描写がすさまじく緊迫感をもたらしていて面白い。
でもこの人(作者)は、伝奇ロマンな作風で知られている人だ。
"でも、ひょっとして"と思ったのが大間違いの元。やってくれましたね。これはないんじゃないの?マジ?と聞きたい位だ。
-下巻- 
 もうだめだ、読むのが辛い……。一気にスタイルが変った。上巻がノンフィクション風サスペンスタッチなら、下巻はB級ホラーです。この設定、外国の吸血鬼映画のあれでしょ、完璧に。がっかり。その予兆はあったんだよね。ダブルキャストの僧侶の書く物語が、この本編に絡むとやばいな〜、と思っていたら、まさにそっちに行っちゃうとはね…上巻が物凄い出来だっただけに、悔やまれてなりせん。ひょっとして、売れた原因は上巻と下巻、間を置いて発売したんじゃないの?と、勘繰りたくなる出来栄に(別人がそれぞれを執筆した本だと言われても納得できる程に違う)頭がクラクラしてきました。

リング・らせん・ループ
 嫌いじゃないですよ、私はこの手の土着的な要素を含んだホラーは。多分皆さんも好きでしょう?超常現象ってわくわくするし、理屈を超えた理不尽なものに対する恐怖、って多分に現代的な部分もあるし。あの"貞子"の人気を考えればそれも頷けるでしょうね。現代の小物仕立てに、昔からのどろどろした怨念話しを絡めて面白かったですよ。"リング"はね。
……らせん、ループで道を失いましたね。期待してなかったけど、新作のバースデーが出た時点で遂に切れました、私。人間売れてくると、意表を突く事がしたくて、もしくはハクを付けたくて血迷うのでしょうか?らせんを読んだ時これも"やばいな"と思ったんですが、やっぱりだった。サイエンスとやらの匂いがしたと思ったら、お次はSFか?自作を否定しているし、これじゃ、夢オチと変らない!これは、上記の"屍鬼"と逆パターンだ。その点は突っ走り過ぎの"屍鬼"(下巻)を見習って欲しい。ただのホラーでいいと思う。映画やテレビはこの2つ(らせん・ループ)全く無視されてるし、(らせんの映画が"ぽしゃった"からでしょ)結局、大衆に迎合して、懸命に"貞子"引っ張り出してるんだから、そっちで突っ走れば良かったのに。読者は面白いのが好きでしょう。やっぱり、"貞子"だったのよ。じゃなきゃ、映画見たく"リング2"とかの新シリーズにすればいいじゃん。騙されて買っちゃうよ。
追記 その後の経緯をみたら、映画は貞子で突っ走っていた。ハリウッドで映画化してびっくり。え?いいの。

『死の味』(上・下巻)P.D.ジェィムズ ハヤカワポケットミステリー   
 ある上院議員がホームレスの男と共に死体で発見された。場所は教会である。彼には過去殺人に関するスキャンダルがあり、その事で最近強迫され悩んでいたらしい。以上の事を踏まえると、ホームレスを道連れにした自殺のようにも思える。捜査を進めて行くと、その教会で奇跡の"聖痕現象"を体験したと話していた事もわかった。なぜ、彼は死んだのか?殺されねばならない動機はあったのか?と言う物語です。
 派手な推理などなく、警察は一つ一つ丹念に動き回る地道な捜査で、謎を解明してゆきます。
その中で、色々な人間の思惑や、生活が絡んでいて面白いです。捜査を行う警部とその部下の男女。互いにライバル心を抱いていて、お互いの境遇を妬みもしています。(自由には孤独。安定にはしがらみがつきまとうのに、ですが)全体的に暗いです。
そして、事件は解決してもそれだけです。捜査を行う事で傷付く者はいても、
幸せになる者はいません。犯罪とはまさにそんなものなのです。生きると言うのは、実に切ない事です。

『ギルガメシュ叙事詩』 岩波書店
 聖書の原形とも言われるが、その話はギルガメシュ自体は直接関知してはいない。後はヘビに不老不死の果実を横取りされるエピソードなどがあるが、それは他の神話や民話でもおなじみのもので、私はむしろ聖書の楽園から追放されたアダムとイブが、この真逆にヘビから果実をもらっているのが面白いと思う。知恵の実は食べたら死ぬことになる、ということはアダムとイブは元々は賢くはないけれども不老不死だった?と思わせるのも、面白い。ヘビがそれ(不老不死)を奪ったのだろうか?
では、本の内容の紹介を
 野人"エンキドゥ"は人間性を獲得し、野から街へ来る途中、暴君"ギルガメシュ"の話を聞き、腹を立てこれを懲らしめようとする。一方の"ギルガメシュ"も夢で"エンキドゥ"の到来を知る。しかも、母の夢解釈によると、二人は親友になるという。はたして、二人は出会い戦うが、決着が付かず友情が芽生える。ふたりは"フンババ"と言う名の化け物を退治するが、その勇ましい姿にほれた女神"イシュタル"の求愛を"ギルガメシュ"が手ひどく断わった為に、"イシュタル"の"天牛"が国中で暴れ回るのだった。
これも何とか退治出来たのだが、神の持ち物の代償は大きく、"エンキドゥ"に死の命運が架せられてしまった。友の死に様を見て、恐怖に取り憑かれた"ギルガメシュ"は不死の秘法を持つと言う、"ウトナピシュティム"の元へと旅立つ。"ウトナピシュティム"はこの世界がかつて洪水によって滅ぼされた事を語り始めるのだった…
 これはシュメール(文明をもたらした者の意味)の神話ですが、この神話には様々な怪物が登場します。私が興味あるのは、前にご紹介のボードレール詩集の中にもあった「人、皆、噴火獣(シメール)を負えり」の噴火獣の事です。映画"ゴーストバスターズ"にも、ジッグラドと噴火獣の話が出て、後に男女が狛犬の様な化け物になりますね。多分、あれでは無いかと思うのですが?似た様なもので、シュメールには(フシュムシュ)と呼ばれるドラゴンの一種がいますが、これの別名なのかも知れません。ボルヘスの"幻獣図鑑"や、新紀元社の"幻想世界の住人達"など詳しく知りたい方はそちらをどうぞ……